葉陽斗ルート
「相談があるの」
「姉さんが相談なんて珍しいね」
「バラッド榊が私に会いたいらしいんだ」
「なっ…どうして?」
「どうしたらいいと思う?」
「やめておいたほうがいいよ!榊が姉さんに…その興味持ったら大変だから」
そんなことを言われても。
何故かはわからないけど既に興味を持たれているようだ。
「それでなにか困るの?」
「色々と…バラッド・榊が義兄なんていやだよ」
まともな常識人だと思っていたのになにをぶっ飛んだ妄想しているんだ。
弟の話はアテにならないとわかり結局いくことにした。
「姉さん?」
いつの間にか目の前に葉陽斗がいる。
近づかれるまで、少しも気配がなかったから驚く。
幼い頃から私には両親がいなくて、遠い親戚だという夫婦に引き取られている。
そして、物心ついたときから葉陽斗はずっとここにいる。
花を絶やさず置いているのは好きだから、というわけではなく、優しい育ての親がそれだけは守ってと言っていたからだ。
今、二人は海外にいて、私は不可思議な弟と二人で暮らしている。
なぜか毎日、姉さん、姉さんとうるさいし、。
昔から家にばかりいて、外に一歩も出た姿を見たことがない。
何かを食べている姿もまったく見ていない。
本当に人なのか、怖くて誰にも聞けない。
だから無視して興味がない、気がついていないフリをしている。
たしか榊と会うのを反対していたが、あれは何故なのか、それを聞いてみた。
「姉さんが誰かと会うなんて嫌だよ」
葉陽斗は今まで見たことがないほど、意地が悪い表情をする。
「どうして」
ああ、怖くてたまらない。
家の中にいたくない。
だけど外に居場所はない。
だから結局私には家しかない。
だから私は今日も部屋で一人、花を眺めて過す。
「姉さんはどうしておれを嫌うの?」
なんだ、嫌われているとわかっていたのか。
まあ別に大嫌いというレベルの話ではなく、あくまで生き物かどうかわからない未知の存在へ恐怖である。
「おれはずっと昔から華ちゃんが大好きなんだよ?」
幼い頃に出会った時と同じように呼ばれた
たしかにあの頃は私より小さかった。
一応見た目はだんだんと成長しているのだが、食事をしないという点がどうにも信じがたい。
恐る恐る葉陽斗の頬に触れようとしたが、手はすり抜けた。
「…幽霊」
今すぐ三井神社に駆け込みたい。
「幽霊なんて負のオーラのある存在と一緒にしないでよ」
「なら妖精」
そっちのほうがまだいい。
「おれに比べたら妖精はまだ触れるほうだろうね」
なにをにこにこ余裕かましているんだ。
「おれは、植物達の…まあ思念体みたいなものなんだ」
思念体…人でない葉陽斗には実体がなく、それは家にある植物で構成されている存在だという事になるのだろう。
「だから…」
別に花を買いに行くのは趣味だからいいが、なぜそんなに植物に固執されたのか、両親が葉陽斗の為に花を買えと言っていたのはそういう理由だったのだと、妙な部分に納得した。
「神社やお寺にいかないでどうせ悪霊しか祓えない奴等には無駄だし」
「神社やお寺の人がそういうのを祓えるかは信用してない」
そもそも霊のたぐいは、思念体があるならあるんではないかと思う程度だ。
「姉さんはおれのことがさらに嫌いになった?」
「元から好きじゃなかったし、謎が解明してすっきりした」
葉陽斗が植物の思念なのはわかった。
それなら、植物の気持ちそのものなら新種の花を作らせられるのではないだろうか、私の思考はそちらへ向かった。
計画に葉陽斗を参入させるため、まず榊に葉陽斗のことを話す。
「榊、弟は植物なの」
なんていうだけいってみたけど、どうせ信じないだろう。
「え!?マジで!?」
信じているだと…?
こうして榊にぜひと言われ、第一関門を通過した。
次に葉陽斗を丸めこむ方法を考える。
まず榊に毎日会っていると嘘もとい冗談を言って、反応を見る。
嫌そうな感じなら会わないと言う。
もしそれで条件をのんでくれるようなら計画を話す。
「葉陽斗、私毎日榊と会っているんだけど」
「なんで!?」
信じられないといった表情、狙い通りだ。
「会わないでほしい?」
「うん!俺に出来ることならなんでもするよ」
「ならプロジェクトに協力してくれたら榊とはもう会わない」
計画が済めば榊と会う必要もないのだ。
嘘は言っていない。
「勿論いいけどプロジェクトってなに?」
プロジェクトの内容を聞かずに即決するなんて、よほど榊が嫌いだったのかと驚く。
すぐさま私はその計画を葉陽斗に話した。
「わかったよ花が完成すれば、姉さんは俺といてくれるんだね」
「おい」
こいつ、会話の記憶を都合よくすり換えおって。
「冗談だよ、さすがにずっとは無理だよね花買わないとだし」
「…そう」
『葉陽斗?』
『そう、この子は葉陽斗、華の弟になるんだよ』
『よろしくね…華ちゃん』
『…うん』
昔の夢を見ていた。
私が引き取られた日、太陽の光に照らされて、全体が透き通り、不思議で、まるでその場に存在しない幻のような小さな少年だった葉陽斗。
「いつも何を考えているの?」
人と変わらない見た目なのに、透けて実体がなく人ではない存在が、私はとても怖い。
「オレはいつでも姉さんの事を考えているよ」
だから本当に困ったときを除き、会話をしない。
何を考えているのかわからなくて、取り込まれそうになる瞳に恐怖していた。
「口だけでならなんとでも言える」
…葉陽斗は信用ならない。
命を狙う。とまではいかないが、なにかしらたくらんでいそうだ。
「それで、新種の花がどうしたって?」
「…葉陽斗は植物の思念体なんでしょう?
だからどうにか新しい花を作って」
「新しい花をつくったら姉さんが榊とさよならしてくれるのはわかったけど…それで姉さんはいいの?」
「なにが?」
新しい花を作るのが目的なのだから、べつに問題はないだろう。
「だって俺がやったら意味ないよね?
姉さんが自分の力で作らなくていいの?」
たしかに、新しい花を作るのは私が榊とやると気めたことだ。
葉陽斗にまかせるのは、自分ではなにもやっていないことになる。
「…ありがとう」
珍しく為になることを教えてくれて。