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紫倉ルート

挿絵(By みてみん)


「今日も君以外にお客さんいないんだよね」

紫倉さんが落胆している。


「でも君が来てくれただけでもいいか…でも君はどうしてバラッド榊の所にいかないの?」

紫倉さんはバラッド榊の経営するライバル店に居心地が悪い様子。


「…近くにあったから」

私に気の利いたことは言えない。


「貴方は…どうして花屋を?」

経営が苦しいなら別の仕事をしたらいいのに。


「実は花屋は副業なんだよね…だから生活には困ってないんだ」

ならば人がこなくても趣味ってことで良いんじゃないか。

花屋が副業といったら本業はなんだ。


「夜に…怪しい草でも販売?」

「違います」


紫倉さんにバラッド榊の事を聞いてみようか、でもさすがに今榊の話をするのはまずい感じがする。


「そういえば昨日、バラッド榊の秘書が来て、君の事を聞かれたんだ」

それはきっとライトシェイドのことだろう。

「なぜ…?」

「それはわからないけど…会いたがっているって」

「へえ…」

「不思議だね」

既にその話をされたことは黙っておく。


「仮に…もし紫倉さんが会いたいと言われたら合う?」

「場合によるかな…命の危機とか。オレはべつに会いたくはないけど」

たしかにこの人の場合ライバル店のこともあって、気乗りはしないだろう。


「じゃあもし私が会いたいって言われたら合うべき?」

「…怪しいから相手が誰でも、一人で会わないほうがいいと思うよ」

いつもぼけぼけしているのに返ってきたのは意外と正論。


「そう…」

「もしかして、何か言われたの?」

気がつかれたので仕方なくライトシェイドのことを話す。


「誰が連れていったら?…信頼できる人とか」


信頼できる人はいない。

私にとって信頼できるのは花だけだ。


「取り合えずこれを…」

何を買おうか迷っていたが、目についた菫を買って、帰宅した。


榊のところから一人歩いて帰っていると、雨が降りだした。


紫の髪の男性の後ろ姿が見える。

そんな珍しい色をした髪の人は滅多にいないので彼だろう。


挿絵(By みてみん)

紫倉さんは髪を塗らしながら雨を見ていた。


植物の気持ちになっているんだろうか。

なら邪魔してはいけない。


「くそ…要らないだろこんなもの」

紫倉さんは彼らしくないはっきりとした口調で苛立っていた。

手紙を投げ捨てて、店内に入る。


思わずそれを拾って読む。


滲んでしまっているのを考慮しても、筆と達筆で書かれたわけがわからない文字だ。


「たしかにこれはいらない…」

しかし捨てるのは忍びないので、取り合えず持ち帰った。


雨の日に紫倉さんの捨てた手紙を拾い、何日かした頃、私は紫倉さんのもとへ手紙を届けにきた。


ポイ捨てがどうだとか、言うタイプではないがこれは持ち主に返却したい。

なぜ今さら、彼も思うだろう。

そして私はスピリチュアルな力があるわけではないが、これは見ているだけで嫌になるほど、不気味な手紙だったからだ。


滲んだの文字が、骸骨のようになった。

二枚ある内のもう1つ、白かったはずの便箋が赤に染まっていること。

なぜ拾った時と今日で変化したのかはわからないが、意外と怖いのだ。


「華ちゃん、何か言いたいことでもあるのかな?」

手紙を渡すべきかを考えていると、彼に私の様子がおかしいことを悟られた。


「これ…」

すっかり滲んでシワになった手紙を、カウンターに置く。


読まれていたのは一枚目で、封筒の中に二枚目があったことは今朝気がついた。

一枚目は白の便箋、二枚目は血のような赤で、こうならなければそのまま気がつかなかったし、今日持ってくることはなかっただろう。

なんとも恐怖感を煽るので、自分でお払いしてくれ、さっさと、いますぐ、早々に、早急に、即刻で神社に行きたい。


「なんか禍々しいからできれば捨てておいてほしいな…」

あの何事にも動じなさそうな紫倉さんが、真剣な顔をして受け取りを拒否している。


相当にまずいのではないだろうか?

一先ず捨てていいのかを聞いて、今すぐ破ってと言われたので破る。


「なにも起きなかった…」

呪われるかと、少しドキドキしていたが、よかった。


「やっぱり…」

破ったはずの手紙は新品のようにただの白い紙に戻った。


「え?」

なにがやっぱり、なんだろう。

現実にはありえないファンタジー体験をしてしまい、柄にもなく混乱して叫びそうになった。


「これは呪われていた。

まあ呪いと言っても俺に当てたやつだけど」

まさか、彼が他人に呪われるような悪人には見えない。


「君だから話すけど、俺の実家は京都で超大きな神社をやっているんだよね」

「もしかして本家の後取り息子?」

由緒ある家なら後取り争いで分家に命を狙われるのはよくある話だ。

一般家庭の私には縁のないことである。


「俺の家…その本家で、

俺でなくても上と下にまだいるけどさ

後取り候補の長男…ていうか兄貴と弟の…三男、そして次男の俺を含めた兄弟全員が神社を継ぎたくないから、他所に逃げてるんだ」

後継ぎの男が三人もいて、皆神社を継がないなど、とんでもない話だ。


「まあ兄貴は行方不明なんだけど、どっかで生きててくれればいいよ…って思ってたらその手紙が急に来て、なんか信じられなくてさ」


手紙を送られたということは、連絡先を知られているのか、ならなぜ会いにこなないのだろう。

理由はわからないが弟の姿を見に来てもいいはずだ。


「なら命を狙われたわけではないの?」


しかし、仲が悪いわけでもないなら、なぜ弟に呪いの手紙を送りつけたのか、そうなるわけがわからない。


「まあ、破天荒で何考えてるかわからない兄貴だから、俺が兄貴について考えようとしても無駄だけど」

たしかに思考の読めない相手の心を読もうとしても、自分がつかれるだけだ。


「そういや華ちゃんも弟がいるんだっけ?」

「いる」

そしてうちの弟がその思考の読めない部類に入る。


「今度、華ちゃんの家を見に行きたいな、家中花だらけなんでしょ?」

「うん」

想像通りだと思う。


ついでに花だらけにしても虫が寄らない用にできる手製の防護薬がある。

家内安全である。


家でくつろいでいたらインターホンを鳴らされて、ドアを開ける。


「遊びにきちゃった」

紫倉さんだった。

なぜ家を教えていないのにわかったんだ。


「家の場所を知っていたんですか?」

「この前中津先生が話していたから」

あの不良教師め。


「まあ、約束していましたから…どうぞ」

「おじゃましまーす」

紫倉さんは入るや否や、懐から何か髪を取り出した。


「悪霊退散!!」

そういうと葉陽斗に白いカードのようなものを叩きつける。

それは葉陽斗をすり抜けるとペラペラの紙なのに壁に鋭く突き刺さった。


「なんで…!?」

こっちがなんで?

何故いきなり壁を破壊されなくちゃいけないの。

というかカードを壁に刺すなんてどこのマジシャンだ。


「悪霊じゃないの?」

「一応弟…たぶん。私とご両親にしか見えないんですけど」

「悪霊じゃ…?」

同じことを聞かれても知らないとしか言えない。


「いきなり家に押し掛けて俺を悪霊なんて酷いご挨拶だね、どこの馬の骨てもわからないやつにはやらん!!」

どこの頑固親父だまた変な物をネットで見たのか。


「すぐに祓ってあげるよいつも買いに来てくれる君だから特別にタダで」

花屋なのに葉陽斗を祓うって何者?


「ムダムダ!そんな紙切れで俺を倒せるなんて思わないでよ!」

葉陽斗、そんなこと言うようなタイプだった?


「あ、シフォンケーキが焼けた!!」

「えっマジで?俺にも頂戴」

葉陽斗がいつのまにかつくっていたケーキが焼けた途端、まるでアフタヌーンティーをたしなむ若い乙女のようにキャッキャウフフ状態である。

さっきまでのあれはなんだったんだ。


「このケーキフワフワでまるで浄土のような気分だよ、君って天の御使い?」

「天使のこと?」

「ああ、西洋なんだね~」

会話が噛み合っていない。

一先ずこれ以上壁を壊されなくてよかった。

というか私や両親以外を敵視する葉陽斗が珍しく普通に対応している。


「まえに華ちゃんにも言ったけど俺の実家が神社でさー三兄弟なんだけど」

「はい」


「実は叔父さんがどっかの世界に神隠しにあって、それを探しにいった上の兄貴が行方不明になったんだよね」

「神隠し?」

「姉さん神隠しって十に満たない年の子が神様に気に入られて拐かされるっていうんだよ

その叔父さんって今何歳」

「たぶん14歳でいなくなって」

「へー神隠しじゃなくてただの誘拐じゃん」

たしかに。


「生きていたら26かな」


「それで、いきなり後取り候補になった俺は神社で才能がないってわかって悔しくて家出して別の仕事に走った」

「後の事は弟にみんな丸投げしたわけ」


なにくわぬ顔でさらっと言っているが改めてとんでもない話である。

しかも叔父さんの件は初耳だ。

それからも叩けば出る埃のごとく、ベラベラ身の上話をしてくれた。


花を観にきたんではなかったのか、と言いたくなる。


「今日は休みなんですか?」

「うん、行方不明の兄貴に会いに行こうかなって」

行方不明なのになぜ会いにいけるのだろう?


「手紙が届いて、呪詛がなかったから本物かなって」

「…そうなんですか」

「日帰りで行くつもりだけどよかったら一緒に行く?」

明日は丁度土曜日である。

たまには和の花を観に行くのもいいだろう。


「行きます」

「二人きりだと事案発生しちゃうから弟君とかお友達を連れてくるといいよ」

今さらすぎる。

日帰りなのにそんな大勢で旅行に行くわけではないだろうに。


「あ、弟君は自縛霊みたいな感じなのかな…だったら無理か…」

「封じる壷があればいけそうな気がしますけど」

「なにそれ魔神じゃん」


善は急げ、空のワインボトルに草をつめてボトルを葉陽斗に向けた。


「うわあああ!」

葉陽斗が吸い込まれたのでコルクをしめる。


「よく考えたら彼は見えないんだったね…」

「ともかく行きましょう」


初めての遠出、京都に着いた。


「あー疲れた」

たった二時間で神社に着いたのに、紫倉さんはもうテンションが低い。

それにしても、大社は近所の三井神社とは比べ物にならないほど大きい。

さすがは京都、というべきか神社がとても大きい。

中を観ないことには大きいしか言えない。

これが紫倉さんの実家なんだ。


「…京都弁は話さないんですか?」

「俺に地元愛なんてあると思う~?

あ、でも反面教師なのか弟はめちゃくちゃ京都人ってやつでプライド高いんだよね」

先程から兄弟の話ばかりしているが、どうせなら彼自信の話を聞きたい。


「入らないんですか?」

やはり家出しているから気まずいのか、中々向かおうとしない。


「手を引いていてくれる?」

「わかりました」

彼の手を引き、ようやく中へ入る。


「紫呉さま!?」

黒髪の和服美人がハッとした顔で紫倉さんに駆け寄る。


「うわ…にげよう華ちゃん」

ささっと彼女を避けて、つかんだままの手を逆に握り返される。


「いけずやわ…」

和服美人が札を投げつける。

かろうじて中へ逃げ込む。

障子が穴だらけになっている。

攻撃範囲があと数ミリ単位まで迫っていた。

神社にはおそろしい能力者がいるのか、知らなかった。


「おたくはん度胸が座ってはりますなあ」

冷たい眼差し、まるで極妻だ。


昔からの知り合いのようだが、紫倉さんは本気でいやがっている。

この様子だと仕方ないな。

さて、どうするかを考えた。

たぶんお札に力があるんじゃなくて、彼女が投げるときに呪文を唱えているんだとボトルの中の葉陽斗が言っている。


「華ちゃん!?」

ならばと、一か八かで私はすっと近づき、彼女からお札を取り上げた。


触ってもなにもおきない。

たしかに害はないようだ。


「この!」

平手がふりおろされる。


「やめぬか!!」

ピタリとおさまる。


「父さん…」


「来よるとは思わんかった」

「紫呉さんは行方不明のお兄さんから手紙を貰って、ここに来たそうです」

上手く説明出来ない彼に代わり、ここに来た経緯を話した。


「わかっとる…せやけど前の紫呉なら十中八九ここまで来やしまへん」

「…長!」

和服美人は不満そうに唇を歪めた。


「知ってたんだ…」

紫倉さんは一人で社の前へきたことはあるが、中へ入ることはしなかった。

否、出来なかったという。


「唐一郎はおらん」

「ああ、やっぱり父さんの…」

行方不明の兄が書いたと思われた手紙は、彼の父親が書いたものだったようだ。


では呪いの手紙を書いたのは?


「ねえ、前に手紙を寄越さなかった?」

「手紙どすか?愛の恋文なら送らさせて貰いまし

たけど」

彼女の様子を見るに、愛の呪いはかかっていそうだ。

しかし、悪気はないようで、あの呪いはなんだったのだろう。


「それ、誰が出しにいったの?」

「兄どす」

きょとり。

嘘を言っているようには見えない。


まさか―――――



気がついたときにはすでにとらわれていた。



「お前は…」

「久しいな…力を持たぬ貴様が、本家の後継ぎとは片腹痛いわ!」

紫倉さんのような長い紫色の髪をした男が私の首に紙切れを近づけている。

普通ならせいぜい薄皮がミミズ腫れする程度、脅しにはならない。

しかし、先程の彼女のように変な力を持っているとも限らない。


不思議と恐怖はなかった。

きっとそうなる前に、助かる気がしているから。


「そうまでして次の家督を継ぎたいわけ?」

昔からの知り合いなのか、くだけた話し方をしている。


「兄ちゃんやめーや!」

「止めるな!兄はいま越えねばならん壁にブチあたっているんだ!!」

この二人は兄妹なのか。

しかし、話し方が違うのはどうしてだろう。


「はー」

紫倉さんはため息をつく。


「大方この小娘がお前の妻になると挨拶に来たのだろう」

なにいってんのこの人。


「違うよ、兄貴を見に来ただけ」

「せっかく呪いの手紙を送りつけてやったというのに、この女がそれを妨害したのか…」

その手紙、この間抜けな男が現れると本当に呪いがかかっていたのか怪しいものだ。


「たしかにあれは、単なる嫌がらせじゃなかったよね」

「お前に出会った日から恨みを毎日詰め込み続けた。それを…」

男はぶつぶつ愚痴をいっている。


長くなりそうなので今のうちに冷静にいまの状況をまとめると、分家の彼は後継ぎになりたくて、邪魔になった本家の次男の紫倉さんを消そうと企んだ。

呪いの手紙を送りつけて呪殺をしようとしたが、その手紙を二度目は紫倉さんが触れないようにしたから、呪いは回避された。

ということだろうが、なぜ手紙を捨てた時点で呪いがかからなかったのか、謎である。


それと行方不明兄を父親から手紙が来たから紫倉さんはここに来て、呪いの送り主と対面していて、私が巻き込まれたというのはタイミングが悪すぎる。

分家の彼が行方不明の兄を偽ったのは、不振がられないように手紙を読ませようとしたからと判断出来るが、さすがに彼の父親が兄が帰って来たと喜ぶ紫倉さんを騙すなんて、酷い。

そうでもしないと帰ってこないと考えたのだろうがさすがに無茶のある理由だ。


「なぜ神力のない貴様が…本家め…くそ…う…う…」

なんか泣き出した。

この隙にここをすりぬけよう。

途中で手をすべらせて、ボトルを割ってしまった。

自宅は床やカーペットの洋間しかなかったので、畳の上でも、割れるんだと、頭が真っ白になった。


葉陽斗は大丈夫だろうか、軽く心配にである。


「あーびっくりした」

割れたボトルから、勢いよく葉陽斗が飛びでて、兄妹達や、紫倉さんの父親も目を見開いている。


「兄ちゃんしっかりしや!」

さっきまで偉そうに私を掴まえていた男は気絶している。


分家の男はしばらくして目を覚ました。

「しかたがない改めて名乗ろう…俺は三井樹だ」


どこかで聞いた名字だ。


「まさか三井神社の…神主…?」

「前はそうだったが、ついこの前、神主の座をこいつの弟に奪われたのだ!」

男は忌々しげに紫倉さんを睨み付ける。


「…逆恨みかよ」

彼はあきれている。


この神社の神主になりたいから、なんだろうと思ったけど、自分の神社を取られた腹いせだったのか。

でも、紫倉さんの弟は、ここを継ぐはずなのに、何故別の、小さな神社を奪う必要があるのだろう。


「どういうこと?」

紫倉さんがたずねる。

「…光吉は教師になって東京に行ってしまった

当然この神社を継がせるわけにはいかなくなった」


「普通は教師になる前に“お前は後を継ぐんだ!勝手は許さん”とか、そんな展開になるよね」

葉陽斗がさりげなく会話にまざった。


「たしかにね…父さんオムコだからこういう時強く出られないんだよなあ」

いかにも神社というより和風の金持ちの邸の当主。

のような雰囲気をしている人なので意外だ。


「光吉は昔からプライ…いやこの土地に誇りがある」

「なら尚更教師になって他見に左遷なんて、おかしいけど」

紫倉さんが言うことは間違ってはいない。

後継ぎが役目を放棄しても咎めないのは時代の流れだろうか。


「光吉にはもっと広い世界を観てもらいたかった」

「まあ、それは俺もわかる」

自分とは別世界の話過ぎてついていけないのでさっきからしかたなく葉陽斗ととりとめのない会話をしている。


「で、俺は継ぐ継がない以前に神力ないよ」

「光吉が家を去ったときから、皆、樹に継がせる気だった」


「は?」

三井樹はぽかりと間の抜けた顔をしている。

「兄ちゃんよかったやないの」

和服美人は不服そうな兄とは違い喜んでいる。


分家の彼に同情する気はないがそれは勝手すぎやしないだろうか。

どんな手を使ってもこの神社の後継ぎを狙っていたならラッキー、結果オーライで済む。

しかし、彼の場合継ぎたいわけではなくて、神社わ取られた仕返しである。

そんないい加減なことでいいのかこの神社。


「俺、結局なんの為に呼ばれたんだろピエロみたい」

「お前と結婚させようかと考えていたんだがなあ…」

紫倉さんと和服美人を結婚する?

気が動転して言葉がおかしくなった。


つまりあの人は紫倉さんと和服美人を結婚させようとしているの?


「は?その子、兄貴の許嫁じゃん?」

「唐一郎は恐らく帰らん」


「嫌だ!華ちゃんと結婚する!」

紫倉さんはあの和服美人が嫌いなのか、私の背に隠れる。


「考えていたとは言ったがな別にさせるとは言っとらん」

「あーよかった」


「先刻、どちらが紫呉の妻に相応しいか二人に競ってもらった」

ということは、いきなりあの和服の人が変な力で攻撃してきたのは、この人が仕向けたから?


それに相応しいか、などふざけている。

一歩間違えば私は死んでいたのに、謝罪もないなんて。


第一、紫倉さんの嫁になるとは言っていないし、そんな関係ではない。

初対面だとか、関係なく上から目線で来られて腹が立つ何様のつもりだろう。


「ふざけるな!」

紫倉さんが父親を殴った。

まるで映画のワンシーンのような右ストレートである。


温厚な彼が、こんな行動に出て、その場にいた全員が驚愕した。


「すまん…まさか彼奴が本気で式を使うとは考えておらんかった」

家を盗られた腹いせに死に至る呪詛を送り付けた男の妹なのに?


しばらく屋内が静寂に包まれていた。

それを破るようにぞろぞろ騒がしく、誰かがこの部屋に近づく足音が聞こえる。



「あなた、お茶はまだですか?」

「奥方様のおなーりー!」

襖がまるで殿が大奥に入るかのように勢いよく開き、豪華な着物に背景が大御所歌手のステージくらい騒がしい。


「姉さん、ここ演歌歌手の邸宅?」

「たぶんちがう神社…たぶん」

外観は神社だったが、中が異国だったようだ。


「あら紫呉、帰っていたのね」

紫倉さんの母は倒れている夫を無視し、お茶をすすっている。


「うん」

紫倉さんもふわふわした雰囲気でお茶を飲んでいた。

この親にしてこの子あり?


「何でこんなとこ来ちゃったんだろう

外は危険がいっぱいなんだ外出なんてするもんじゃないね

姉さん、こっそり帰っちゃう?」

本当になにをしにきたんだろう。


「二人ともー明日休日だから家に泊まらないかだって~」

紫倉さんが私の手を引いて、メニューを見せてくれた。


なぜ神社にレストランのようなメニューが。


和牛…燕の巣など、テレビでみるようなあれが沢山載っている。

「こいつら…僧たるもの精進料理を…肉なんて食いやがって…」

それは寺である。


帰ろうと思ったが、豪華な料理につられてしまった。

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