大団円・Flawroslaststage
隠された研究施設で、若い研究員達は様々な色の液体を眺めていた。
その中には、人間の形になれない不完全なモノが沢山積められて、常人が見れば気分を害してしまう。
『また失敗か』
『所長、ついに完成に近い個体が!!』
一人の女性研究員が、作っていた物へ近づくソレに研究員等を案内する。
万が一に備えて、所長や女性研究員は部屋の外へ出る。
完成に近づいたとされる巨大カプセルの様子は、二人を除く11名で行われた。
『ぐぁ…!』
研究員達の悲鳴や他のカプセルの割れる音が扉の向こうから聞こえ、何かがあると察した二人だったが、もしもいま扉を開けば自分達も巻き込まれ、研究したことは無駄になると、静まるまで待った。
研究員達は人ではなく下位の悪魔であった。
人間界で存在を消されるだけの、唯の死ならば魔界に意識は戻る。
しかし、モノの誕生する瞬間に彼等は吸収された。
結果、誕生したのは妖精の遺伝子を持つ人のような化け物。
それこそ妖精姫の始まりであった。
日のモトで生まれた妖精姫は、研究室に隔離されていたが、ある日異国の人間と出会う。
異国の人間は研究室に忍び込んで研究データを奪いに来た怪盗だった。
データを奪わない代わりに閉じ込められた妖精姫に日の光を見せたいと、そこから連れ去った。
やがて人とそうでない互いを愛した二人は、結婚する為にどうするかを考えた。
妖精姫には戸籍がない。
そんなときに救いの手を差しのべたのが旧武家の雨瓦家。
そこの夫人は夫をなくし、息子が出ていき一人だった。
共に暮らすことを条件に妖精姫を養女にし、異国の男をその婿にした。
やがて二人には息子が生まれた。
健康ではないにしろ、肉体に不備もなく綺麗な顔であった。
妖精姫がいなくなり新たな研究員達は何度も二代目の妖精姫を産み出すべく必死になった。
先の成果で妖精姫を造るには植物や魔の力がいるとされており、植物の遺伝子と魔物の遺伝子を掛け合わせ、結果的には妖精姫の試作が誕生した。
《ねえ…聞こえる?》
《なにも》
《返事があるってことは聞こえてるんだ》
《液体が耳につまって聞こえない何も見えないけど頭の考えをよんでる》
《君は新しい妖精姫…だけど目覚めたら君は僕を忘れる妖精姫だってことも》
《どうでもいい私は私だから》
物心ついた私は親のいない子供が入る施設にいた。
『花ちゃん、今日から私達が貴女のママとハパよ』
とても綺麗な人と優しそうな人がいる。
私を迎えにきたと、微笑んでいる。
『なにか食べたいものはある?』
『…わたあめ』
『‘綿菓子の売っている店’まで』
『やだアナタ、さすがに具体性のない場所を案内する機能はないでしょう』
『そうかな?車の技術もまだまだだな』
二人はほんの些細なことでも楽しそうだ。
―――
彼等が真実への鍵を手にしたときには既に遅かった。
『なんだよ聞こえねーよ爺ちゃん』
少年は病室のベッドに横たわり、自身の祖父に耳を傾ける。
『昔話をしてやろう…』
いまにも消え入りそうな声で年老いた老人は在りし日の、自分のことを語った。
海外に留学中のとき、ある女怪盗に憧れていたこと、自分も怪盗になりたかったことなどを。
‘怪盗’という単語はあまりに現実離れしていて、まだ10にも満たない少年には、理解出来ないであろうことを語り、息を引き取った。
ある旧華族の子息は、頭を悩ませていた。
『ここは由緒正しい家柄ですが、一般の常識を学ぶのもよいでしょう』
彼の母親が他界し、父親は新しく妻を迎えた。
その妻というのは同じく家柄のある名家の令嬢。
金銭の使い方が荒く、いつ破産してもおかしくはないほどだった。
『どうして僕は皆と同じようにお外で遊ぶことができないの?』
生まれつき病弱な少年は病院の窓から外で元気に走り回る同じ年頃の子供達を見ていた。
『大丈夫、いつか元気になる』
その言葉の通り、少年は元気になり病院を出ることが出来た。
多くの人間がその犠牲になったことを、少年は知らない。
『伯父さん店、畳むって…本気なん?』
『なんでやの!?』
『悪いな光吉、ユツキちゃん』店にすさまじい剣幕で入って来た女性は、赤毛の男を見ると、とつぜん襟首を掴む。
『コノ弥…』
『皆で大事にしてきた店を畳むなんてあたし許さないよあたし認めないからね!!』
女が去ると、カウンターに隠れていた二人が心配そうに出てくる。
『伯父ちゃん大丈夫!?』
『大丈夫、危ないから伯父さんがいないときにあの人に近づいたらダメだよ』
赤毛の男は甥と姪に苦笑いした。
―――
俺が生まれる前に、神父は両親に告げた。
“悪魔がついている”
幸せな人生をおくれない。
そんな運命だと。俺は生まれてすぐ教会に預けられた。
忙しい両親に代わって二歳上の兄のゴルマヌスがよく訪ねてくれていた。
それでもいつか家族の所へ戻れると、信じて待った。
だが弟が生まれたばかりのとき、火事が起きて両親は死んだ。
俺は自分と兄と、助け出された弟の三人で、細々と暮らしていた。
兄と俺は弟を学校に通わせてやれるように、仕事を探した。
昔の俺達は親の居ない、頼れる親戚もいない、なんの力もないガキだった。
まず教団に入ったが、悪魔のいる俺と話してくれるのは兄と、上層部の息子の金代だけだった。
俺は団体の彼等から疎外されているのを感じて団体を辞めた。
そんな声を掛けたのは、まともではない仕事の男。
同じく悪魔が憑いている者が多くいるという裏の組織。
高い報酬が貰えるならなんでもよかった。
あいつらの仲間になって、まず俺は悪魔の力を増幅させる訓練を。
それから半月頃、兄と金代は俺を追いかけて、同じ組織に入った。
悪魔のいない兄は、素手で戦えるように肉体を鍛えた。
金代には天使の加護がついていて、すぐに幹部となった。
それから何年か経ち、俺も上位の幹部になれて、自由に部下を扱えるまでになった。
弟は良い学校に通えて、天才的な成績を納め、10代で大学を卒業した。
両親はいないが、これからは家族三人で暮らせると思っていた。
そんな矢先、兄が行方不明になった。
元々心を閉ざしていた弟のビジュナスは、宇宙関係の仕事で家に帰らなくなった。
俺の居場所はもう、組織しかなかった。
たとえ一人でも、ここで生きていこう。
――
物心ついたとき、すでに先への希望も楽しみもなにもなかった。
神社の息子なのに、神力を使えないオレには向いていない。
両親はあきらめた様に、そんな目をした。
優秀な兄と弟がいるから、オレはのんびりやっていこう。
自分の中に、負の感情すら芽生えぬように。
優秀な二人に挟まれて、生きているか死んでるか中途半端な毎日だった。
そんなとき、ある人はオレに言った。
“君には才能がある”
それは大昔、滅びた筈の陰陽師の長。
自分を変える機会だと、陰陽師になることを二つ返事で引き受けた。
何も告げずに家を出たけれど、ただ妖怪を倒しているだけで空虚な毎日なのは変わらなかった。
そんなとき、たまたま通りかかった寂れた花屋。
オレに気がつき、年老いた店主は、暖かく出迎えてくれた。
ちょうど店を畳むか悩んでいた。
店主はオレに、店を頼めないかと聞いた。
これも何かの縁だろう。そのまま花屋を譲り受けた。
――――
僕は戦闘用に作られた機械。
砲撃台と大きな車輪のついた鉄のカタマリ。
いつもただ戦に敗れて倒れる人々を観て、僕はただのモノだと知った。
悲しむこともない。
嬉しいとも思わない。
自分の足で動く人は羨ましい。
そんな僕に、マホウツカイという人が新しい体と心のモトをくれた。
それから色々な人に支えてきた。
もうただの戦いの機械じゃない。
人と同じように歩けて話せるんだ。
「姉さん、悪魔っていると思う?」
葉陽斗がネットの画面を見ながら、突拍子もないことを私に聞きだした。
「悪魔は人の心のなかにいる」
「姉さん…大丈夫?」
我ながら、らしくないことを言ってしまった。
「…害虫は花の外面についている」
「そういえば、もうすぐ新しい花が出来るとかなんとかって聞いたけど、本当に?」
「…うん、“フラワロス”って名前」
「へー悪魔みたいな名前…」
名前はあくまでも榊の趣味である。
それに私は悪魔の名前なんて、せいぜいデビルくらいしか知らない。
しかし、花の件できぶんがいい。
学校にもいつになく軽い足取りで向かった。
===
《実に好い花であるな》
不適に微笑む黒豹は、人間の世界に咲く、花を求めて、地上へ向かった。
―――
《そこの娘よ…》
何やらノイズ混じりの変な声がして、不快に感じていると、突然地面から黒づくめの男が、すうっと浮かんできた。
「あ…つっかえた!?イデデデ引っ張ってくれ…」
私はしかたなくひっぱり、引きずり出した。
どうして地面にこいつが挟まっていたとか、もうなんでもいい。
普通など、弟やライトシェイドの件から考えて、初めから存在しないのだ。
「人間よ感謝する」
…しまった。頭を押して出られないようにすればよかった。
「しかし、ほう…弱き人の娘と侮ったが、只の人ではないと見える」
黒服の男は、品定めするように私を視る。
「我が名はフラフロス、悪魔だ」
悪魔、フラフロス。どこかで聞いたような名前である。
「なんで悪魔が…」
「驚かぬか」
「全然、悪魔に壁を壊されたことないし」
むしろ人間のほうが壁を壊すから。
「昔の人間は悪魔と聞けばそれだけで震え上がるものだったのにな」
がっくりと肩を落とすフラフロス。
「じゃあこれで」
そこまで学校に行きたいわけではないが、悪魔にかまっている暇はない。
「ワケもなにも聞かずに見捨てなくとも…酷いではないか」
「わけ…」
「我は花が好きである」
「…悪魔のわりに可愛い趣味してますね」
話は聞いた。学校の花壇の世話にいこう。
まだなにか用があるのか、フラフロスがついてくる。
「ある花を探している」
「ある花…」
「赤と黒の絶妙なる調和、まさに混沌であり…」
フラフロスの言う花の特徴は、私と榊の作りかけている花と同じであった。
「フラフロスには未来がみえる?」
「我ではなく魔界の水鏡、通称魔水鏡で視た」
ともかく私は学校に向かった。
===
「他人のフリ他人のフリ」
「ふむ、我の姿は人間には見えはせぬものよのう」
「それを最初に言って」
「よう園崎、遅刻だ」
「…おはようございます」
やはり先生には、フラフロスが見えていないらしい。
雨瓦君はフラフロスのいるあたりにじっと視線をやる。
まさか、見えているのだろうか、いやそんなことがあるわけがない。
と自分に言い聞かせて、席につく。
「さっき…私を見ていた?」
「君の後ろに幽霊がいたから…」
休み時間になり、雨瓦君にそれとなくたずねてみたところ、たまに幽霊を見るからと言われる。
フラフロスが悪魔であることには気がついていないようだった。




