茎ノ葉ルート
「園崎、オマエ花いじってるだけでヒマだろ?転校生の案内してやれよ
な?茎ノ葉」
なぜ私が世話をしなくてはならないのか、第一それはクラス委員の役目だろうが、ああ面倒だ。
「たしかに…案内をしてくれ」
「早くしねーと…オマエの大事なお花ちゃん達が…マリイのエサだぞ」
花をウサギのエサにされないように、仕方なく案内をすることにした。
ああ、早く帰って花の培養をしないといけないのに、なんで転校生が隣の席にきたんだろう嫌だなあ。
「君は花が好きなのか?」
「そう」
だからなんだ文句でもあるのか植物君。
「可愛いな」
どうもありがとう。
全然嬉しくない。
「ここが体育館」
無視して案内をする。
「案外普通だな」
「普通の学校だから」
普通でなにが悪いんだ。
「隣がプール」
丁度、昨日海開きが終わった。
プールには白い薬を入れてあるが、消毒薬の変わりに花を浮かべたら楽しいはず。
「植物園はないのか?」
「残念ながら、ない」
あったらいいのに、ここは一般の学校だからどこぞのセレブ校のように植物園やら庭園はない。
「残念だな」
それだけは同意する。
「榊さんに頼んでここに植物園でも作ってもらおうか…」
「榊…もしかしてバラッド榊と知り合い?」
「ああ、茎ノ葉グループによく協力してくれる」
「その榊さんが私に会いたいらしいんだけど合ったほうがいい?」
「それは…合うべきだと思う」
煮えきらない返事をされたが、向こう方の知り合いが言うならと、合うことにした。
一通り案内も終わったので、さっさと別れて、帰宅する。
仕方なく茎ノ葉君と待ち合わせをした。
「お待たせ」
金持ちのわりに、普通というか地味だ。
「はやく終わらせて解散しよう」
「なら…植物園の場所を教えてくれ」
やたらと植物園にこだわるな。
どうせなら花畑のほうがいいが、教えておこう。
――――しまった。
私の移動場所は三種類しかない。
たまにコンビニは入るけど、植物というか花は好きだが家が花園みたいなものだから行ったことがない。
「私もあまり詳しくない。取り合えず花屋にしてくれない?」
「ああ…花屋もいいな」
お気に入りの店は教えたくないので、紫倉さんの花屋のハプルは教えない。
かといって榊さんの店を教えるのもあれなので、三兄妹のいる店を教えた。
彼等はいつも花粉アレルギーでマスクをしているそうだが、花屋なのに一家全員花アレルギーなんて気の毒な人達だ。
「ありがとう」
意外にもいつも悲しい過去でもあるような無表情なのに無邪気に笑っている。
当たり障りない花屋を教えただけで感謝された。
「…さようなら」
やっぱりこれ以上話すのは面倒になって、早々に帰宅した。
「この前はありがとう」
「うん」
花屋に行ったことの感想を一言で終わらせてしまった。
茎ノ葉君に対して嫌悪感があるというわけではないが彼とは共通の話題があっても会話が弾まないし面白くない。
それなのになぜ隣の席なのだ。
やたら話しかけられても困るし誰が隣でも対応は変わらないが、なんというかどちらかといえば苦手かもしれない。
「ひゅーひゅー!」
毬栗頭、またか。
「…」
茎ノ葉君が不快そうな顔をしている。
彼の嫌そうな顔は初めてみた。
「毬栗頭…」
「毬栗頭君は野球部だったかな」
茎ノ葉君はそれが名前だと思っているようだ。
「野球部だから坊主なんじゃないんだよ~家が寺なんだよ~」
「へー」
冷やかす暇があるなら味噌でも作っていろ。
「寺ってどこ?」
せっかく話を終わらせたのに他の人が会話にまざってきた。
「傲岸寺」
「ふーん」
「後取りなの?」
「おうよ!」
心底どうでもいいが、後取りといえば、茎ノ葉君は財閥の御曹司、いつかは親の後を継ぎ金持ち街道まっしぐらなんだろう。
「あ、そういや茎ノ葉くんってお坊っちゃまなんでしょ~」
「なあ、今時でも金持ちって許嫁とかいんの?」
「許嫁って…映画の観すぎだよ一応、婚約者はいるけど、会ったことはないんだ」
「え~ザンネン~」
女子達が軽くショックを受けている。
やはり結婚相手がいるのか、でもそんなこと私に関係ないから気にしなくてもいいことだ。
「ほらー授業はじまんぞ席つけ~」
中津先生が来たことで話は終了した。
家に帰ってからなぜか茎ノ葉くんのことを悶々と考えてしまっていた。
忘れようとしても頭に浮かぶ。
なぜこんなに気になるんだろう。
彼はなにも関係のない、ただのクラスメイト。
金持ちで私とは別の世界にいるような、そんな存在。
「姉さんなに赤くなったり白くなったりしてるの?」
「…花のことが頭からはなれないだけ」
「へー恋わずらいだね」
葉陽斗がなぜそんなことを言い出したのかはわからない。
だが、そんな気もしてくる。
いや、これは恋だと勘違いしている感覚ではないだろうか。
そもそも花よりどうでもいいと思っている相手をなぜいきなり好きにならなきゃいけないのだ。
「姉さんは俺に恋わずらい…」
「それだけは絶対にない」
翌日、茎ノ葉君が三時限目に早退したので、何事だとおもい、クラスメイト達の会話に聞き耳を立ててみた。
「茎ノ葉君なんで帰っちゃったんだろ~?」
「家族が倒れたとかじゃないか?」
「えー心配だね」
「でも軽い疲労で倒れたくらいなら連絡入らないよな?」
「よっぽとヤバイんじゃねえの?」
それなら危篤だろうか、もしそれが父親なら遺産相続になって大変だろうなと邪推してしまった。
「あいつの家あの菜園時の次くらいに金持ちらしいじゃん?遺産相続とか勃発するかもな~」
「他人事だと思って~」
「ま、実際他人事だよな」
「俺達に出来ることなんてねぇよ」
人の事は言えないけど、話が飛躍しすぎだ。
下校中、どこからか暗いメロディーが聴こえてきた。
「“君に願われたら、叶えてあげる”“たとえそれが”“誰かを殺めることだとしても”“君の為なら”“惜しくはないんだ”“この命も魂も”」
人があまりいないことからインディーズバンドなのだとわかった。
女性ボーカル一人に6人の男性がいる。
随分心を病んでいるなと思った。
下手ではないけど歌というより詩の朗読。
私の趣味ではないな。
茎ノ葉君がなぜか気になる。
頭と体が理性を振り切りかってに行動した。
彼の家が何処なのか、聞き込みをして茎ノ葉君の住んでいるというマンションに着いた。
幸い結構学校に近い場所なので迷いはしなかった。
「あ先生…」
なぜここに先生がいるのだろう。
「なんだマンションでも観にきたのか?」
「先生…茎ノ葉君は?」
…中津先生は茎ノ葉君の付き添いなのかもしれない。
「実はアイツ、ウチの親の経営しているマンションの一階に住んでんだよ」
このセレブリティマンションを?
「屋敷に住んでいると思っていました」
「ああ、アイツ実家からここに移って一人暮らしだってさ
「はあ…でも一階なんですね」
「ん?」
「お金持ちならもっと高い階層にいるかと…」
「だよなあ一階、超安いんだよな一番上から二番目は1憶くらいか」
マンションは上にいくほど家賃が高いと聞いていたが、それでも一フロアがすべて一人分ならどの階でも高いだろう。
「一階は月一万なんだよなあ」
「は?」
いわくつきワケアリ物件であったとしても普通に考えてその安さはありえない。
「普通は安すぎたらダメだけどな、家の場合個人経営だから値段設定は自由なんだ…ムカつく奴からはぶんどって、いいやつは定価ってこともできる」
気まぐれで家賃を決められるのか。
というか茎ノ葉君はお坊っちゃまなのに家賃が一万円なんて。
「あのそれで、茎ノ葉君はどうしたんですか?」
「そういうのは茎ノ葉の家の個人的な事情になるわけだが、他人のお前がアイツにしてやれることなんてないだろ?」
中津先生の言うことはもっともだ。
ただのクラスメイトだし、浅い関係。
客観視するならまずそう思う。
前の私ならやはり彼と関わろうとはしない。
「というか、おまえなんでここに茎ノ葉が住んでるなんてこと知ってんだ?」
「たずね歩きました」
こんな行動を取ったなんて私の中で何かが、少しでも変化しているということになるのだろう。
「仕方ないか…この後どうするかはお前が決めろ」
「はい?」
なにか大事な決断するようなことがあるのか、神妙な面持ちである。
「茎ノ葉は婚約者と結婚させられるらしい」
「え?」
まだ15から16なのに、結婚?
可能なのは18からではないだろうか?
ああ、金持ちならいいのか
「さすがに法律があるからな
すぐにってわけじゃねえよ
茎ノ葉は婚約者のところで暮らして18になったら入籍って感じらしい」
「…」
「彼氏は今頃令嬢とイチャイチャしています
乗り込みますか~?」
某修羅場番組の真似のつもりなのだろうか?
そもそも彼氏ではない。
「彼氏じゃない…でも帰るか乗り込むしか無いなら乗り込みます」
「だよなやっぱ帰るよな…乗り込むのかよマジで!?」
まず弟にどうやって茎ノ葉君のいる場に乗り込もうかと相談をしたところ、メイドに扮装して屋敷に忍び込もう。と提案された。
「忍び込むなんて卑怯、正面から乗り込む」
「それじゃあラスボス以前に第1エリアに行ってすぐスタート地点にリターンしちゃうようなもんだよ」
わかりにくい。
「要するに屋敷に入れないってことは、茎ノ葉君にも会えないってわけ」
「ふーん…」
「姉さん今日はいつになく強気だね」
しかたがなく、忍び込んだ。
護身用にあやしい薬品を持ち込めばと、葉陽斗が言っていたが、さすがにそれはまずいだろう。
案外、早く茎ノ葉君を見つけたが、傍にはいかにもお金持ちの令嬢がいた。
令嬢はこちらを見て、人は呼ばず、にやりと不気味に微笑む。
私に気がついているのか、いないのかはこの際どうでもいい。
「実成、花を落としたわ拾って」
彼女はわざとらしく手に持っていた鈴蘭を落とす。
「ちょっと」
「園崎さん…?」
茎ノ葉君は私がここにいることに驚いている。
「なによ」
令嬢は取り澄ましてはいるが、邪魔をされて腹が立っているようだ。
私を追い出したいなら人を呼べばいいのに、中々度胸があるというか、向こうは勝負をしようとしている?
「なぜ茎ノ葉君にそんな酷い真似を?」
「そんなに酷いかしら?なんならもっと酷いことを今からしてあげてもいいわ」
この分だと小さな嫌がらせを何度もしていそうだ。
「貴女、なにをしに来たの?
この私にお説教をしに、なんて言わないわよね?」
「なぜ茎ノ葉君が貴女と結婚するのかわからなかったから来た」
先生にのせられてついその場のノリでここまで来てしまったとはいえない。
「理由は少し教えてあげてもいいわ」
「そう?」
「彼の家は大昔に爵位のある華族と呼ばれるもの、いわゆる旧名家というやつよ」
ご丁寧に解説ありがとう。
華族というだけでなんかすごい家、というのは大体わかった。
「でもこの時代、家柄だけあってもお金は入らないわ
彼が中学に上がる頃、体裁だけは取り繕っていたけど、貧しい暮らしだったそうよ
ついには成金と散々見下したくせに、この家に身売り同然で援助を求めるなんて都合が良すぎるわ」
少しだけと言ったわりに、結構教えてくれた。
嫌なら最初から婚約しなければいいのではないだろうか。
「なら茎ノ葉君を解放してあげて」
「そうしたくても、菜園時からの圧力じゃあどうしようもないわね」
菜園時…よく話題に上がる金持ちか。
「貴女、彼が好きなのよね
だったら菜園時をなんとかするかして、力ずくで実成を奪っていきなさい」
要するに自分では菜園時をなんとかできないから一般人の私に丸投げしようってこと?
「茎ノ葉君、この人のこと好きなの?」
もし茎ノ葉君が、彼女のことを好きなら邪魔はしない。
気持ちを聞いておこう。
「いや、正直言って無理だ」
「なら菜園時に直談判を…」
というか、なぜ部外者の私が二人を引き裂こうとしているんだろう。
互いに愛がないならそれで済む話だ。
「園崎さん、君を巻き込むわけには」
さっきまでオブジェみたいだった茎ノ葉君が、ようやく口を開いた。
「もはや自分から巻き込まれに来たようなものだから」
なにがしたいのか、自分でもわからない。
余計なお世話なのに、勝手に足が動いたような感じだ。