ライトシェイドEND
榊が本業で忙しいので、私はライトシェイドと過ごすことが増えた。
花屋にいくことしか娯楽の私が退屈しないように、と榊が配慮してくれたわけだが、大きなお世話だ。
どちらにせよライトシェイドと花屋に行く。
ライトシェイドの顔をあらためて、じっくり見るとやはり、目が人らしくないので怖い。
「どうしました?」
目に光がないからというわけでもないし、視点が会わないとか、そんな段階ではないのだ。
確かに私を見ているようではあるが、見ていないような気もする。
なんだか恐怖から動悸が…。
「危ない!」
ライトシェイドが私を引き寄せた。
それと同時に何かの割れた音が遠くから響いた。
いまはライトシェイドの胸部にものすごく強い力で頭を抱えられている。
心音の変わりにカシャカシャと聴きなれない変な音がして、嫌な気持ちになり咄嗟に放れた。
「外は安全ではありません。周りを見てください」
「ただの自転車だけど…まあ感謝はしておく」
榊の秘書なら、そんなに私に構わなくてもいいのではないか、ともあれ一応助かった。
「でも秘書なんだから榊の傍にいたらいいのに」
ただでさえ榊は忙しいといっていたのだから、本来はライトシェイドは補佐をすべきだ。
「榊様は僕を会社の仕事には関わらせてくれません。表向きは秘書ではありますが本来はただの護衛です」
「なぜ仕事をさせてくれないの?接待には向かないけど優秀そうだし、頭が悪いわけじゃないんでしょ」
理由はライトシェイドにも分からないようで、ぎこちない動作で首を傾げる。
英語やフランス語だけでなくどこの国かわからない単語を口にし始めた。
終わらない数式を口に出して、頭が混乱しそうになった。
「頭が悪いわけではないのはよくわかった」
彼の技能は優秀である。
なぜその才能を使わないのか、今度榊本人に聞こう。
取り合えず今日は全部忘れてすぐに眠りたい。
「榊、なぜライトシェイドに仕事をさせてあげないの?」
どうしてライトシェイドを護衛だけにしているのか、榊にたずねた。
「だってライはあの通り、優秀だろう?」
やはり、本人もそれは認めているのか。
「口出しするつもりはないけど、優秀だというなら尚更仕事をさせる人材じゃないの?」
まだ学生でビジネスのことなどわからないが、優秀な人材なら仕事で沢山使われる。
そこは学生でもわかることだ。
「ライが気になる?」
「…」
なぜそんな事を聞くのだろう。
彼が気になったわけではないとおもう―――――。
「ここだけの話、ライは人じゃないんだ」
榊は無表情でカリカリとペンをはしらせている。
「は?」
「なんていうか、アンドロイドに近いらしいよ」
驚くほどさらりと言われた。
そういえば、先日彼から心臓の音がしなかったが、そういう理由だったのか。
「ずいぶん落ち着いているね
信じないかもっと驚くだろうと思ったんだが…」
「むしろ榊がとんでもないことをバラしたことに驚いているから」
ライトシェイドがアンドロイドに近い存在ということは、確実なそれではないのか。
「また連絡するよ」
榊と話を終えて、帰る時間だ。
私は携帯を持っていないため、連絡は家の電話にしてもらっている。
「携帯を持っていないとは珍しいですね」
「そう」
法律で定められているなら持つけど、無くても困らない。
第一私は機械系があまり好きではない。
「機械は嫌いだから」
「僕のことも嫌いですか?」
ライトシェイドはイスの上で捨てられた犬のように小さくなっている。
「貴方は機械?」
「中身はそうです」
ライトシェイドが差し出した腕をつついてみる。
表面は滑らかでシリコンのような柔らかい素材のようだ。
「水をかけても大丈夫?」
「ええ、まあ」
「なら嫌いじゃない」
「イチャつくならよそでやってね」
普段にこやかな榊がなぜか怒っている。
「榊様、モテないから八つ当たりですか?」
なぜ煽る。
「あはは」
にこやかに笑う榊は恐い。
「…帰る」
「おくります」
まだ夕方なのに、わざわざ?
「それじゃあ私は仕事を片付けるよ」
榊はひらひらと手をふる。
「いきましょう」
「わかった」
帰り道、腕を組んであるくカップルを見かけた。
「僕達も腕を組ましょう」
「なぜ」
「あの二人の真似です」
カップルに触発されるな。
「一見、僕達も恋人同士に見えます」
「だからどうしたの」
「僕も腕を組みたいです」
「いいよ…」
とにかく早く帰りたいし。
「姉さん…なにその機械人形」
葉陽斗が恐ろしいオーラにつつまれている。
というかなぜ見ただけでわかる。
「塩水まいてやる!」
「なんで塩水」
「片付けが大変だから!」
そう言って塩水をライトシェイドにかけた。
ライトシェイドは水でも平気だと言っていたので、大丈夫だろう。
そう思いながら見ていたが、ギリギリ鈍い音がして、目を疑った。
材質の違う髪を除いて身体の奥が錆びている。
塩水は機械の大敵だから流石にだめだったようだ。
なんて冷静に分析している場合ではない。
はやくどうにかしないとライトシェイドが…。
榊は仕事が忙しいようで、連絡がつかない。
ライトシェイドを修理してくれる人を葉陽斗がネットで調べ、私はその場にいく。
ライトシェイドを運べないので、まずは修理してくれる職人を家に呼ぶしかないのだ。
この辺りは…お金持ち学園のエリアではないか、本当にこんなところに職人がいるのだろうか…。
「おや、こんなところでどうしたんだい、お嬢さん」
学園内からお金持ち学園とはいえ、現代に場違いな英国紳士が現れた。
「君…面白い素質を持っているね
他校に通う子が、ここにいるということは別件で招かれたのだろうか」
機械には詳しくなさそうだが、彼に聞いてみよう。
「…アンドロイドは直せますか?」
「アンドロイド…ああ、機械人形のことか、ちなみにどういった類いの者だい?」
この様子だと、直せるのかもしれない。
事情を詳しく話し、家につれていく。
「おや、ライトシェイドじゃないか…随分派手にやられたものだ」
「…マジェス…ティ…エンジェ…リオン」
互いに名を呼び会うあっている。
たんなる知り合いではないようだ。
彼がライトシェイドを造った人なのではないかと思う。
「治らないかもしれないね」
「そんな…」
「君は、彼が好きかい?」
「嫌いではないと思います」
「なるほど…修理するから数日待っていてくれ」
2日後、直ったライトシェイドが宅配で送られて来た。
「内部を合金からシリコン系に、やわらかな貴女方人間のような肉体に近づけてもらいました」
「まあ顔は前より違和感ない」
イラッとする表情は相変わらずだが、まあ目元が前よりマシになった。
「僕と一緒に白い家で幸せになりませんか」
「なにそのらしくない抽象的な話は」
だいたい榊のことはどうするんだ。
「人間は白い一軒家に犬を飼う光景が好きだとインプットされています」
「あなたを作った人はきっと普通の暮らしがしたいんでしょうね」
高性能なアンドロイドの類いを作れるほどの天才学者ならきっと豪勢なメカハウス、または暗い研究所に人を避けながら暮らしているタイプだろう。
「おおよそ的を射ています」
「いつから心までよめるようになったの?」
「元から表情にて相手の考えを想定できる機能があります」
「…」
ライシェに対する気持ちが読み取られないように、更に無表情になろう。
「園崎様」
「抱きつかな…あ、前より柔らかい」
中身が綿になったみたいだ。
「柔らかいものが好きなんですか、動物のようにファーでも着けますか?」
「毛が舞うからいらない」
とにかく先のことは考えずにしばらくこうしていたい。




