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共通① 波長が合う者達・教師の無茶振りと転校生 ・病は樹から、やる気はないから

私は園崎華、その名の通り花が好き。

友達と遊ぶことより水やりが大事。

いつまでも花だけを見ていたい。


ホームルームの時間、いつものように花のことだけを考えていると、転校生がやってきたと教室がザワザワし始めた。


「茎ノ葉実成(けいのばみなり)君だ皆、仲良くしてやれー」

「…」

花のことにしか興味がなかったのでぼんやり窓を見ている。

ちらりと名前を見て、植物みたいだと思った。


「じゃあ席は…」

中津風(なかつふう)先生が私の隣を指さした。


「…よろしく」

中津先生も長いけど、茎ノ葉君も少し後ろが長い。

染めているのかしらないけど銀髪だ。


「うんよろしく」

花としか話したくないけど人として無視するわけにもいかないので軽くそう言った。


「…後ろの席も空いているな」

私の後ろは病弱で中々来られないらしい雨瓦くんの席だ。

まあ私が説明しなくても誰かが教えるだろう。


帰宅すると弟の葉陽斗(はびと)がにこやかに出迎えていた。

やはり弟であっても興味がない。


人が善だろうが悪だろうが咲いている花の前では霞む。


そろそろ新しい花が入る時期なので花屋に行く。

私は小さい頃に花屋で買った花から種を抽出する技術を密かに編み出した。


綺麗に咲くかわからない種を蒔くより、綺麗に咲いた花から種を作れば確実に綺麗な花を咲かせられる気がするから。


決して遠くまで種を買いに行くのが面倒くさいわけじゃない。


「いらっしゃいませ~」

「こんにちは」

彼は花屋の店長、紫倉シグレさん。

菫色の髪が素敵な人だ。


標準語で話しているけど、少しなまりがある。


今日もこの花屋はガラリとしていた。


「皆バラッド・榊の店に行くから」


バラッド榊は有名なカリスマ実業家。

ファッションブランドだけでなく、スイーツ、家電、サブカルチャー専攻者の支援などやれることを全てやっているようだ。


「ワタシ、ダンデリオ、イイマース、ココハ、ジャパニーズフラワーショップ?」

カタコトで話すカッコイイ外人が来た。


「あ二人目だ…」

お客さんが来たので当然紫倉さんは嬉しそうにしている。


取り合えず新しい花を買って帰った。


「こんにちは、僕はライトシェイドと申します。

突然ですが、貴女は花がお好きですか?」

本当に突然すぎる、作り物のような容姿がなければ、ただの不審者ではないだろうか、と思った。

それにしても、金髪で、外国人だろうにとてもすらすら話している。


「大好きです」

「ありがとうございます。…答えてくださって」

ライトシェイドさんは何のためにその質問をしたんだろう。


「バラッド・榊はご存じですか?」

知っているも何もついさっき話題に出ていた。


「有名な実業家ですよね」

話題に出たといっても儲けている人、というくらいしか知らない。


「今度、榊に会っていただけますか?」

なぜただの女子高生が実業家に会ってくれなんて言われる訳がわからない。


「言い忘れていましたが…僕は榊の秘書です」

「秘書…ね」

一先ず返事をしないで、連絡先を貰った。



「よう、花なんて持って…デート帰りか?」

さらっとした黒髪の男。

がっちりした名前には合わない細身の人だ。


「グランデさん…」

彼とは園芸大会で知り合った趣味仲間。

私同様に人より花が好きだという。

グランデという名前はハンドルネームというやつで、外国人ではない。

ただ本名は知らない。


やることなすこと面倒だというのに、花の世話はちゃんとしていたし、年は違うけど互いに花好き仲間と認めている。


「愚問だったな、三度の飯より花のお前が花以外とデートなんてありえない」

グランデさんの言う通り、デートなんてありえない。


「確かに動いたり話したりできる花ならデートしますけど」

ありえないついでに、さらにありえない事で笑いあった。


「じゃ、次の大会まで頑張ろう」

「来年が待ち遠しいですね」


グランデさんと別れ、家に帰る。


この時の私は、あんな事が起きるなんて夢にも思わなかった。


――――


彼の後押しでなんやかんやで結局榊に合うことになった。


「それ、私服ですか?」

ライトシェイドは嘲笑った。


挿絵(By みてみん)

…この素晴らしい花で作られた服を侮辱するとは、万死に値する。

眠っていた力が覚醒するわけではないので怒りを落ち着かせる。


「ムカついた。榊には会わない。帰る」

「すいませんでした。もう笑いませんから…」

そういいつつ、まだにやにやしている。


案内されたのは絵に描いたような高層ビル内にあるオフィスの社長室。


「待っていたよ」

赤毛の細身男には偉い人間が座るあのイスが似合っていない。


テレビで見るときはアバンギャルド、絵の具をぶちまけたような、いかにもファッションデザイナーの好む服。


だが今はきっちりスーツを着ている。


「ところでどうして…」

私は一般家庭生まれ、普通校在学中で頭も運動神経もよくないただの一学生。

なのに何故実業家で金持ちの榊が私に用事があるなんて、本当にありえない。


まさか、花から種を生成する技術を――――――


「やはり、私が見越した通り…!」

「は…?」


「…榊様」

ライトシェイドが暴走した榊を落ち着かせる。


「その服のデザイン、材質…実に素晴らしい!」

この服の良さを理解するとは…さすがカリスマ実業家。

何はともあれ花から種を作る技術を持っていると知られたわけではないらしいのでよしとしよう。


だがしかし、ライトシェイドはなんだか不服そうにしている。

雇い主が認めるこの服にまだ文句があるというの?


「榊様…本来の目的をお忘れでは?」

「そうだった…」

本来の目的、どういうこと、この服を誉めたかっただけじゃないの、と私はがっかりした。


「新種の花を開発する方法を一緒に探してくれ」

「…いつ花を種に変える方法を私が知っているなんて知ったんですか?」


「君が花を異常に愛でる変わり者だとある人に聞いて?」

私は知られていなかったことを自ら暴露したようだ。

いまの情況はやぶへび?墓穴をほった?身から出た錆?

なんと呼べばいいんだ。


「それで、どうかな?」

持ちかけられた協力ってなんだ。

榊の財力と私のバイオテクノロジーで一緒に世界を滅ぼそうよ!だったかな?


「世界征服なら協力出来ない」

私は花に囲まれて静かに生きられたらそれでいい。


「世界制服なんて…恐ろしい…服装に個人の自由を!」

榊は別の方を想像しているんだとわかった。


「話が進まないので僕が変わりに説明します。榊様は新しい花を貴女と協同開発したい。と言っています」

さっきの無駄な会話はなんだったんだ。

第三者の一言で理解できた。


「新しい花を開発…やりましょう」

花の品種を増やせるなど滅多とないチャンス。

協力しないわけがない。


「ありがとう。これから頑張ろう」



次の日の放課後、中津先生から私と茎ノ葉君は呼び出しがあり、すぐに話を聞きにいった。

「明日は土曜日だ、お前、転校生に町の案内してやれ」

「なぜ」

「さすがに休日まで一緒にいたら勘違いをされる…」

茎ノ葉君は何か嫌な思いででもあるのか、小学生でもあるまいに、今時ひやかすやつなどいるはずがない。


「ヒューヒュー仲良く呼び出しか~」

通りがかったクラスメイトが冷やかした。

あの毬栗頭を剣山にして生け花を作ってやりたい。

毬栗は野球部入れ。なぜ帰宅部なんだ。


「お前らお似合いだぜ?喋らねーしなに考えてんのかわかんねーもん」

まるで毬栗はいなかったかのように軽くスルーした。

これが大人の余裕か、と感心する。

しかし、お似合いなど全然嬉しくない。


「とにかく明日はなにかしてこい」


面倒だが行くしかない。

嘘がバレたらまたやり直し、と言われるだろうから仕方がない。


「はあ…」


ついでに榊さんのオフィスへ立ち寄る。


「昨日、協力してくれと言っておいてなんだが、今日は都合がつかない。明日なんてどうだろう?」

「個人的に協力はしたいけど…明日はちょっと…明後日ならまあ…」

明日は中津先生が隣の席だから、色々転校生に教えてやれ、と意味のわからないことを言っていた。


「そうか、なら明後日を楽しみにしているよ」

「はい」


家に帰っている途中、誰かの気配がして、それでも気にせず歩いていると、一メートル先に茎ノ葉くんがいた。

彼もどこかに寄っていたのだろうか。


「ああ、明日は町の案内をしてくれるんだったな…先生もお節介というか」

それは確かに、学校外でどうでもいいクラスメイトと会っても仕方ないと私は思う。


「まあ取り合えず明日はよろしく…あ」

「なに?」

茎ノ葉君がなにかを言いたげなので一応聞いてみた。


「これ、君のだと思うんだが…」

かわいらしい花のモチーフのビーズアクセだ。


「私のじゃないけど、ほしい」

基本的にアクセサリーには本物の花を使うからビーズは持っていなかった。


「まあビーズだし問題はないだろう」


茎ノ葉君からビーズアクセを受けとり、帰宅する。


茎ノ葉くんと別れた後榊の所で今後の計画と、スケジュールを相談して、家まで送ってくれたライトシェイドが去り玄関に入ろうとしたとき、黒い人影が蠢いた。


まるで教会にいる神父のような格好をして、フードで顔を隠している。


「“君”があのファイス教授の来孫だね」

発音は上手いが、ところどころのイントネーションや、背丈から外国人だとわかる。

…ファイスって誰だろう。


「単刀直入に言うよ、君の花に関する知識や技能を応用して、不死もしくは不老の研究や開発を助けてほしい」

こいつら、なにを言っているんだろう。

ただの女子学生にそんなメディカルな話をされても困る。


「よくわからないから協力はできない」

生憎花に関係しないことは理解出来ないし、しようとしない都合のいい頭だ。


「ならまた来るとしよう」


あれはなんだったのか、そのときは気になったが家に入って夕飯を食べている頃にはそれを忘れて、すやすやと眠った。


貴重な休日は先生からの茎ノ葉君に場所の案内、のせいで色々潰れた。


今日は雨が降っていたので、傘をさしながら登校する。

久々に私の席の後ろに雨瓦君がいた。


「久し振りに皆と会えて嬉しいよ」

彼からは薄幸さ、育ちの良さが滲み出ている。


「病気大丈夫なの?」

雨瓦君の回りに女子が群がる。

「うん、今日は調子がよくて」

完治していないのに来るなんて容態が急変したらどうするんだ。


それに顔色もよくない。

もし早退することになったら中津先生が保健係でもない私に保健室ついて行ってやれと言いかねない、というか過去に一度あった。


放課後、雨瓦くんが無事に下校した姿を見届け、私も門から出た。


きっと迎えが来ているだろうと思っていたが、雨瓦君は徒歩で帰宅している。


雨があがっているとはいえ、足元は水溜まり。

いい所のお坊っちゃんだという話だったが、なぜ一人なのだろう。


まあ他人の事情だしどうでもいいか。

帰って花の世話をしよう、そう思った瞬間、雨瓦君が倒れた。


どうしようか、無視するわけにはいかない。

もし見ないフリをして手遅れになったら気分がわるい。


近くに人はいないし体や植物に悪そうな、携帯などは持っていない。


軽そうだし、どこかに運ぼう。


「オウ、どうしたんでーすかー?」

花屋に来た二人目の客、たしか名前はダンデリオ。

まだ5日ほどしか経っていないがこの前より発音はうまくなっているような気もする。


「クラスメイトが倒れました」

「れいきゅうしゃーよばないとだよー!!」

それはまだ早い。

一先ず番号を教えて連絡してもらい、事なきを得た。




ある屋敷の地下室に、怪しげな蝋燭が灯る。


「――容態はどうだ」

仮面の男が部下に尋ねる。


「なんとか、一命を取り止められました」

金髪の男は畏まって説明をした。


「ならいい…一刻も早く、あの娘の技術を我々に加え、あの子の病を治さねばな」

仮面の男は白い髭を撫で、今後のゲームを始めると言い、部下を下がらせた。

―――


日曜日、花屋で買い物をすませたら


また変な集団が現れた。


「協力する気にはなったか?」


そもそもこの集団はなんなんだろう。

協力しろとだけ言われてもしっかり利益のある話をしてくれない限り返事は出来ない。

今の時点でなにもメリットが無く、わけのわからない要求をされて腹が立つ。


いきなり現れて、健全な民間人に悪の片棒を担がせようなど、何を考えているんだ。


「その反応を見るに、良い返事はないようだ」

集団は全員怪しい目出しフードをしている。

しかし微かな特徴があって最近ある聞き覚えのある声がしたのだが、誰だったろう。


「我々はこれで失礼するよ」

また会おうと言い残し、集団が去る。

どうやら話をしていた男が頭のようだ。


植物を人型のボディーガードにしたほうがいいかな。


それにしても今は朝方。

いかにも闇に潜む立場、というかカルトがあんな目立つ格好でよく明るい時間に出てきたとある意味尊敬した。



「おはよう」

朝からしたしげに声をかけるなんて、誰だろうと思って振り向くと、雨瓦君がにこにこと手を振っていた。


「うん…おはよう」

やはり、彼はこの前倒れたとは思えないほど元気だ。


「なにか用でもあるの?」

「あ…その、父さんが僕を助けてくれたから園崎さんに会いたいんだって」


雨瓦君の誘いにのるべきだろうか。

喫茶店にいくかいくまいか、迷った。

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