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春の徒花  作者: たい
第一章 一学期編
4/40

彼と彼女の過去&きな粉棒

4

 土曜、日曜と対策を考え、今日が月曜。

 対策と言っても、石蕗に会わないとどうにもならない。だから、対策を考えるよりは人を観察する上で役立つ知識をグーグル先生に教えてもらっていた。

 何でこんなに月曜って憂鬱ゆううつなんだろ。あー、学校行きたくないよー。と考えても体は自然と家に鍵をかけ、自転車に跨がり、漕ぎ始める。

 俺は徒歩でも自転車でも登校できるが、遅刻しそうな日は自転車が多い。

 川に沿って自転車を漕いでると、後ろからチリンチリンと自転車のベルが鳴った。

 何だよ、抜かすなら早く行けよ。と考えている間もベルは鳴っている。

 あぁもう、うるせぇな。後ろを振り返ると、朝日を背にしたあかねがいた。


「陽介ー、おはよー」


 少し距離があるため、間延びした声が聞こえる。スピードを落として茜と並ぶ。


「おう」

「何よ、冷たいなー。もっと明るく挨拶したら? 挨拶が暗いと心も暗くなるよ」

「生憎と俺の心は、挨拶くらいじゃ明るくならないんでね」


 それに、俺には挨拶するような友達いないし♪


「あ、陽介。今日一緒に帰ろ」

「別にいいけど。何なら今から帰るか?」

「違ーう。放課後!! 少し買い物に付き合ってほしいの」


 あー、荷物を全部持たされるやつだ。それに今日はちゃんとした用事があるし。


「悪いな。今日は用事があるんだ」

「え、用事? 何の?」

「あー、いや、友達に遊びに誘われててな……」

「ふーん……友達。ボッチの陽介に友達ねぇ」

「違う!! 俺はボッチじゃない。精神的ボッチだ!!」

「怒るとこそこ? それに何が精神的ボッチよ。普通のボッチと何が違うのよ」

「物理的に周りに人がいないのが、普通のボッチ。周りに人はいて、会話をしても、心がボッチなのが精神的ボッチだ」

「心がボッチって……」

「そういうわけだから、今日は荷物持ちは無理だ」

「つれないなー」


 そう言うと、茜は腕時計を見て、少し顔を強張こわばららせる。


「陽介、あんたの時計、今何時?」


  と聞いてきた。そう言われて自分の腕時計を見ると、時刻は八時二十五分。あと五分で遅刻だ。少しゆっくり漕ぎ過ぎたか……。


「遅刻だーー‼」


 唐突に茜が叫ぶ。近所迷惑だからやめろ。


「このまま遅刻したら、なに月曜から遅刻してんだって怒られて、宿題増やされて、宿題終わるまで学校に残されるーー‼」


 はい。出ました。茜の癖。今日は軽いな。


「そんなこと言ってる暇があるなら急げ」


 そう言って俺らは一生懸命にペダルを漕ぐ。たぶん間に合わねぇな……。


◆◇◆◇


 チャイムが俺の意識を現実へと引き戻す。今日は朝から疲れた。結局間に合わず、俺と茜は説教を受け、罰として今度雑用をすることになった。

 気が付けば、もう昼休みだ。午前の授業はほとんど寝ていた。寝てても予習はしてあるから、特には困らない。

 クラスメイトに声をかけられる前に教室を出て、俺は購買こうばいに向かう。

 基本的に俺は昼飯を教室で食べない。居場所がないとか、そういうわけでは決してない。

 話しかけられるのが面倒だから、俺専用の場所で食べるのだ。

 その場所は新館の屋上。新館に生徒はほとんど来ないし、屋上に続く階段は椅子と机が積んである。だが、屋上へのドアは鍵が壊れているのか、コツをつかめば簡単に開けられる。

 俺はパンを二つ買い、廊下を進み、階段を登って、屋上へと出る。

 うん。今日はいい天気だ。上を見れば心なしか、青空を近くに感じる。

 ――パンをかじりながら、ふと今朝のことを思い出す。

 ……あの時は、あれしか手段がなかった。

 俺が持っていた手札で最善のカードだったはずだ。

 それでも相手にとっては、そうじゃなかった。

 結果、相手を――茜を傷つけた。

 中学で茜は勉強にしても、運動にしても、成績が良かった。

 だが、自己顕示欲、自己承認欲求が強まる年頃だ。周りにとって茜の存在は邪魔だった。だからあいつらは、団結して茜を攻撃した。

 俺はボッチ――物理的ボッチだった。そんな俺には大した影響力などなかった。だから茜を助けたい一心で、あの方法を取った。

 結果、攻撃対象は茜から俺になった。俺にとって、あいつらの攻撃は、日常にスパイスが振りかけられたぐらいのものだった。

 しかし俺が茜を傷つけたということが、一番つらかった。

 高校に入学する頃には、茜は俺と会話してくれるようになったが、その頃から茜のあの癖が始まった。まるで現実逃避をするかのように……。

 ……悔いはない。悔いたところで過去は変えられない。なら、悔いることに何の意味があるのだろう。

 けれど、それでも、何の意味もないと分かっていても……。

 はぁ、青空を眺めて、トラウマを思い出すとか……。青空を眺めても心は晴れないことだけはわかった。


◆◇◆◇


 午後の授業も寝て過ごし、やっとこさ放課後だ。さーて、石蕗つわぶきのところに行くか。確か二年六組って言ってたな。

 鞄を肩に掛けて、六組の教室へ向かう。

 しかしその途中、運の良いことに廊下で石蕗を見つけた。だが、あっちは気付かないみたいだ。……少しついてくか。

 彼女について行くと、新館の一階にある部屋に着いた。彼女がこの部屋に入ったのを見るに、どうやらここが新聞部の部室らしい。


「失礼しまーす」


 そう言いながら、ドアを開ける。


「うひゃぁ!!」


 何だ、その声。可愛いな。


「ど、どちら様……あっ」


 どうやら俺のことを覚えていたらしい。


「えーと……」

「そういや自己紹介がまだだったな。俺は、紫花しばな陽介だ。」

「陽介か!! なら、素の口調でもいいのじゃな?」

「あ、あぁ。」


 相変わらず、子供っぽいな。いきなり呼び捨てする辺り、パーソナルエリアも狭そうだ。そんな性格に、この口調はギャップが凄すぎる。


「今日は何用じゃ?」

「あぁ、この前の依頼について相談しに来た」

「そうか。なら、空いてる椅子に座るとよい」


 改めてこの部屋を見回す。


「部員が一人じゃと、学校も金を出さぬのじゃ」


 なるほど。この部屋にあるのは、長テーブル、壁際に積み上げられた椅子と机、パソコン、コピー機くらいだ。

 積み上げられた椅子を取って、テーブルの近くに座る。


「早速だけど、例の新聞を見せてくれ」


 そう言うと、石蕗はパソコンの近くにあるプリントの束から一枚取って、俺に渡した。


「ほれ、これじゃ」


 その記事は一見すると、クラスメイトを取り上げた普通の記事に見えるが、所々にその人をディスるような表現があった。


「これはまだ発行してないのか?」

「うむ、またじゃ」

「なら、簡単だ。これを書いてほしいって言った奴に、俺がこの記事は書かないって言ってくる。それと、安心しろ。きな粉棒は俺が買っておいた」


 そう言って俺は鞄からきな粉棒の束を取り出す。


「な、なぬ!? きな粉棒じゃと?」


 そう。俺は休みの間にきな粉棒を大人買いしたのだ。


「あぁ。だから、安心して断れるだろ?」

「う、うれしいぞ陽介。さ、咲は感激じゃー!!」


 石蕗は目に涙を貯めながら、俺に抱きついてきた。


「わ、わかったから、離れろって。お、お前、俺の制服で鼻水拭くな」

「えへへー。よ、陽介。そ、その……た、食べてもいいか?」

「あぁ。そのために買ってきたんだから」


  そう言うが早いか、石蕗は目にも止まらぬ速さできな粉棒に飛びつき、封を開けかぶりついた。

 彼女はカッと目を開く。


「ふおぉぉ。この柔らかな水飴みずあめと、素朴なきな粉のうま味。やはりきな粉棒は美味しいのぅ」


 頬に手を当てて、うっとりしながら食ってる……。

 喜んで食うのはいいのだが、きな粉をこぼしまくってるよ。こういうところも子供っぽいよなぁ。


「ありがとうなのじゃ、陽介。この礼は、きっといつか返すぞ」

「気長に待ってるよ。そんじゃ、今から断りに行くとするか」

「ま、待て。咲も行くぞ」


 そう言って俺らは部室を出る。薄暗い廊下には、俺と石蕗の会話と足音が響いていた。

どーも「たい」です。


次回は、依頼が解決するところまで書きたいと思っているので、よろしくお願いします。では、この辺で失礼します。

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