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春の徒花  作者: たい
第二章 夏休み編
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雨のち遊園地

 山の天気は本当に変わりやすい。

 来るときは雨だったのに今はすっきりと晴れ渡っている。

 雨で来場者も少なくなって観察対象が減るなと思っていたが、雨は朝方に降ったのでそこまで影響はなさそうだ。


「晴れてよかったね」


 目的地に着いたので車から降りる。

 伸びをしながら茜はそう言った。


「まったくだ」


 さっきまで寝ていたので日の光が目に染みる。駐車場にできた水たまりのせいで余計に眩しい。


「本当によかった。それでは二人で楽しんできてくれ。午後六時にここに集合だ」


 千代さんがそう言うと茜は「はーい」と返事しながら俺の手を引っ張る。


「やめろって」

「いいじゃん。せっかくのデートなんだし」

「だからデートじゃ……」

「はいはい細かいことはいいの。ほら行こ」


 茜に引かれて受付へ向かい受付のお姉さんにチケットを二枚渡す。


「はい。どうぞ楽しんできてくださいね」


 いやにニコニコとしたお姉さんに気が付かない茜は意気揚々と入園する。

 まだ早いため客はほとんどいない。……てかいなくね?

 見渡す限りでは人影は見当たらない。


「やったね陽介。貸し切りだよ貸し切り!」


 茜は無邪気に喜ぶ。

 まったくいちいち可愛いんだよお前は。この調子じゃいつか悶えて死ぬぞ……俺が。


「わかったから。混まないうちにたくさん乗るぞ」

 

 この場所に当てられたのか柄にもなく積極的になってしまう。

 せっかく来たんだし楽しまなきゃ損だよな。そう思ってしまうのもこの場所が悪い。


◆◇◆◇


 ジェットコースターにゴーカート、コーヒーカップ……。

 人が少ないことをいいことに次から次にアトラクションに乗った。


「そろそろお昼にしよっか」

「もうそんな時間か。そうだな混む前に食うか」


 フードコートに行くと俺たちと同じように考えた人たちが結構な数いるが座れないほどではない。


「茜、俺が買ってくるから席取っといてくれ」

「了解!」


 俺がそう言うと茜は大げさに敬礼して席を取りに行った。

 ……あ、茜に何食うか聞くの忘れた。まぁ適当に買ってくか。

 俺はハンバーガーのセットを二つ頼んで茜が取っておいてくれた席に座る。


「ハンバーガーでよかったか?」

「あたしはなんでもいいよ。あれ、もしかして陽介と同じ?」

「あぁそうだけど」


 そう言うと茜は妄想モードに移行したのか呟き始めた。


「陽介と同じ? それじゃあ『あ、そっちも美味しそう』って言ってあーんしてもらう計画がぁ……。いやでも陽介と同じなのは嬉しいし……」


 ……茜には心の声が口に出る特性でもあるの?


「ハッ!」


 なにかひらめいたのだろうか。顔を上げるとハンバーガーを凄い勢いで食べ始めた。

 俺がなんのこっちゃと思っているうちに茜はハンバーガーを平らげる。


「おい茜。いっきに食べて大丈夫か?」


 さすがに心配になったので声をかける。


「ねぇ陽介。あたし食べ足りないから陽介の一口貰ってもいい?」


 ……斬新すぎる。はたして今までこんな子がいただろうか。いや、いない(反語)

 いっそ健気ですらある。

 そしてその健気さに俺の嗜虐心がくすぐられた。


「足りないなら新しいの買ってこいよ。金はまだあるから」

「え、ほ、ほら足りないけど買うほどじゃないっていうか」

「いいよ残ったのは俺が食うし」

「うぅ……」


 茜は「ぐぬぬ」といった風な表情をする。

 さすがにこれ以上いじめるのはかわいそうかな……。


「茜、ほら」


 と、俺は茜にハンバーガーを差し出すと茜はパァッと顔を輝かせる。


「あ、ありがと……」


 茜は少しだけ身を乗り出して口を近づけてきた。屈んだことで胸元の隙間が大きくなる。

 頑張れ重力! もっと服を引っ張るんだ!


「あーーん」


 茜は口を開ける代わりに目を閉じ、動きを止める。

 あくまでも俺が食べさせるって訳か……。

 なんだろう……仮にも可愛い女の子が目を閉じて口を開けて「待て」をしているこの状況がひどくいけないことをしているように思えてきた。

 茜も「あーーん」してもらえると思って恥ずかしいのか頬を染めている。

 ねぇなんで頬染めるの? そういうプレイなのかって思っちゃうよ? 「プレイ」て言っちゃったよ……。

 これ以上は精神衛生上よろしくないので茜に食べさせることにする。


「はむっ……ん、ありがと陽介」

「お、おう」


 視線を横にそらすと一組のカップルがこちらをガン見していた。

 慌てて周りを見ると好奇の目にさらされていたことに気づく。


「おい茜、そろそろ行くぞ」


 たまらず席を立ってごみを捨て、この場所を離れる。


「あ、ちょっと待ってよー」


 茜も遅れてついてきた。


「陽介、午後は何に乗る?」

「なんで乗るのが前提なんだよ……」


 午前中遊んだ分午後は依頼をこなさないとな。

 恥ずかしさで早足になりながら俺は午後の予定を考えていた。


◆◇◆◇


 よくよく見ると男女一組よりも数人のグループで行動している人が多いことに気づく。

 俗に言う「ダブルデート」ってやつだろうか。

 こういう遊園地やテーマパークでデートをするとなると、一日ずっと一緒に行動しなければならない。疲れてくると沈黙も生まれるだろうし、相手の嫌なところが目に着くようになるだろう。

 ならばそれをごまかすために数人でというのは理にかなっているのかもしれない。


「ねぇねぇ陽介。お化け屋敷入ろうよ」

「いやだ」


 茜の意見に俺は断固拒否する。


「えーなんで?」

「怖いから」

「普通こういう時って男子は見栄張るもんじゃないの?」

「そんな見栄を張ってなんになる」


 俺の言い分に茜は不満顔。

 世の中の男子諸君に忠告しておこう。お化け屋敷でワンチャン狙おうとするのはやめておけ。

 確かに吊り橋効果ははたらくが、そんな余裕はない。

 なぜなら本気で怖いからだ。

 学園祭程度のものならいいが、こちとら金を払っているわけで脅かすほうもそりゃ全力でやるに決まっている。なにより装置に金がかかっている。

 甘い気持ちで入ると逆に女子が幻滅しかねないから注意するように。以上!


「とーにーかーく、入るよー」


 俺が心の中で高らかに注意勧告している間にお化け屋敷の入り口まで連れてこられていた。


「や、やめろ茜! 俺は死にたくない!」

「死なないから大丈夫。ほら、腹をくくって」


 ふぅ……仕方ない。ここまで来たからにはやるしかないのか。


「よし茜。入り口でクラウチングスタートするぞ。あとは奇声をあげながら走りぬけばミッションコンプリートだ」


 お化けもドン引くくらいの声を出そう。そうすればスタッフも「こいつやばいぞ」ってなってスルーするだろ。


「他のお客さんの迷惑になるからやめて」


 ――茜がドン引きしてた。


「じゃあ入ってすぐに非常口から出よう」


 これならば誰にも迷惑はかからないはず。


「あたしがさせるとでも?」


 Oh……。四面楚歌である。

 もう入るしかないのか……。


「さ、行くよ」


 暗幕の向こうには薄闇の世界が広がっている。

 無事に出てこれますように……。

今回も読んでいただきありがとうございます。


いやぁ……茜は可愛いですねぇ。


書いてて恥ずかしくなるくらい可愛いです。


いつ私が暴走するかもわかりません()


あたたかく見守っていただけたら幸いです。


感想などお待ちしております。


それから新しくファンタジーものの連載を始めました。


更新は気まぐれですが、ぜひご覧ください。


それでは失礼します。

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