アルパカ
「……」
「…………」
俺と白い毛のアルパカが互いに見つめ合う不思議な時間が続く。
「なんで陽介はアルパカとお見合いしてるの?」
「してねぇよ」
ただなんとなく目をそらしたら負けな気がしただけだ。下顎を横に動かして、草をすりつぶしながらこちらを見つめてくる。その顔がそかはかとなく俺を馬鹿にしているようで……
「なんか腹立つな……」
「なにアルパカ相手にムキになってんの。ほらこんなにおとなしいし、懐いてくれて可愛いじゃん」
そう言われて茜の方を見ると彼女は茶色のアルパカと戯れている。
「へっ……」
……今こいつ、俺のこと見て笑ったよな? 茜に撫でられながら俺のこと鼻で笑ったぞ。
「こいつ……その自慢の毛を刈り取ってやろうか? え?」
「陽介ー、こんなに可愛いのになんで怒ってんのー?」
茜は更に茶ルパカをなでなで。それに気を良くしたのか茶ルパカが鳴く。
「ふっ……お前には出来まい」といった顔でこちらを見てきた。
「よ~しよし。ほら、白い子もおいで」
茜に呼ばれて白のアルパカも近づいていく。……アルパカって鼻の下伸びたっけ? なんでここには下心満載のアルパカしかいないんだよ……。
アルパカが茜の元に集まると他の子供たちも自然と茜のいるところへ集まってくる。
「もふもふー」
「アルパカさんは暑くないのー?」
子供もアルパカにさわるが当のアルパカたちは茜しか見ていない。あまつさえ子供にさわられると嫌そうにさえする始末……。ていうか、こいつら感情表現豊かすぎるだろ。
と思って一歩離れて見ていたら茶ルパカがいきなり茜の胸元に顔をうずめた。羨まし……じゃなくて……あの野郎。いよいよアルパカが女子高生に痴漢している中年のおっさんに見えてきた。
「茜、いったん離れろ。俺がこのアルパカの中におっさんが入ってないかチェックするから。具体的には毛を全部毟ってチャックがないか調べる」
俺が茜を引き離すとアルパカは露骨に不機嫌な顔をした。
「もー。なにするの陽介? あたしはアルパカと戯れてたいの」
「いやこのままじゃ茜がおっさんとお戯れになる未来しか見えないんだが……」
「陽介って妄想癖あったっけ?」
「お前だけには言われたくねぇ」
そして今度は俺がアルパカに近寄る。
「おぅおぅアルパカさんよ。あまり調子に乗るなよ?」
ガラの悪いチンピラのようなことを言いながらアルパカにガンを飛ばす。するとアルパカもこちらを睨むようにして近づいてきた。
「ぺっ」
……俺は何をされた? なんか生暖かいものが俺の顔に……。
「ふひっ」
「あはははははは。陽介が唾かけられたー! ひー、お腹痛い」
今思い出したが、アルパカは威嚇のために唾を吐きかけることがあるとか……。そんで「唾」とは言っても唾液ではなく、胃の中にあるものだとか。つまりは……吐瀉物に近いわけで……。
「くっせぇ……」
遅れてきた臭いに顔をしかめる。目に入らなかったのは不幸中の幸いか。
それとアルパカ。お前、俺に唾かけて笑ったよな?
「ふぅー笑った笑った。陽介も顔洗いたいだろうし、そろそろ行こっか。あ、臭いが移ると嫌だから近づかないでね」
俺はアルパカを一瞥してから、茜と少しだけ距離を取って歩いて行った。
……茜の言葉にも少しだけ傷ついたのは秘密だ。
◆◇◆◇
とりあえずトイレで顔を洗う。若干だが臭いは取れた。服についてなくて本当に良かった……。
アルパカも見終わったのでこれから茜と遅めの昼飯だ。
「どう? 少しは臭い取れた?」
トイレの前で待っていた茜が出てきた俺に話しかける。
「あぁ少しはな」
そう言った俺に茜が急に距離を詰めてきて、俺の体をスンスンしている。あのー……これでも俺、年頃の健全な男子ですよ? 可愛い女の子に急に距離を詰められると普通にドキドキするからね? 俺もそのサラサラの髪をスンスンしてやろうとも思ったが、茜にドン引きされるのが目に見えてるのでやめた。
「うん。これなら大丈夫だね。それじゃ早くご飯食べよ。さっきたくさん笑ったからもうお腹ペコペコ」
「じゃあそこのマックでいいか」
俺の提案に茜が不機嫌そうな顔をする。
「陽介? 普通女の子とご飯食べるって言ったらもっとオシャレなとこに行くもんだよ」
「なんだマックじゃ嫌なのか」
「別に嫌って訳じゃないけど……」
「ならいいだろ。それに女子と飯なんて行かないだろうし。行ったとしても茜とぐらいだろ」
「えっ…………そ、そうだよね。陽介は仲いい友達だっていないのに仲いい女の子がいるわけないよね。あたしだけかぁ……えへへ」
なぜか急に俺をディスり始めた茜。その顔は朱に染まっていて、身をくねらせている。
「陽介、早く行こ」
茜はマックに入ってからも終始ご機嫌だった。
◆◇◆◇
昼飯を食べ終え、せっかくだからとベルモ内を見て回ることになった。
「なぁ茜、早く帰ろうぜ」
「せっかく来たんだからもう少し見てこうよ」
茜は何か買うつもりは無いらしく、店頭に置いてある商品を眺めては次の店へ……を繰り返している。
ただ見てるだけで何が楽しいのだろうか。買わないなら時間の無駄でしかないんじゃ……とも思ったが、ホームセンターで買うわけのない工具をいじって時間を過ごす男も同じかと一人納得する。
「ねぇねぇ陽介、この服可愛くない?」
洋服店に置いてあった白のワンピースを自分の体にあてがって俺に見せる。
「こういう時って『可愛い』しか言えないよな」
「ふふっ、そうだね」
茜はそう言って服をたたみ、元の場所へと戻す。
「それじゃそろそろ帰ろっか」
「そうだな」
さて帰るかとなった時、ふと目を店の奥に向けた。
……。……俺は見てない。なにも見てない。こちらを物陰から覗いていたゆるふわサイドテールのカウンセラーなんか見ていない。
俺はギュッと目をつぶって数秒前の光景を脳内から削除しようと試みる。
「あ、あれ竜胆先生じゃない? 千代さんもいるよ」
虚しいかな。その試みは茜の一言によって打ち砕かれた。
今回も読んでくださりありがとうございます。
前回に引き続き、傍から見れば茜とイチャイチャしてるだけの回でした。
次回もよろしくお願いいたします。




