外に出たくないんだけど……
山から帰ってきて夏休みも中盤。
俺はと言えば、クーラーをガンガンにして毛布にくるまってゴロゴロしている。
時刻はまもなく正午。
ここ最近は千代さんからの連絡もないのでのんびりした日が続いている。すると突然チャイムが鳴った。と思ったらノータイムで幼なじみである天雄茜が入ってくる。
名前の通り茜色の髪を今日もツインテールにした彼女はホットパンツに半袖といったラフな出で立ちだ。
「陽介おはよー」
「なんでお前はチャイムを鳴らしたのに待たないんだ」
「だって陽介って出るのがメンドクサイと居留守決め込むし、どうせ陽介しか家にいないし」
「お前なぁ……。俺だって急に入って来られたら困るかもしれないだろ?」
「……そ、そうだよね。陽介も男の子だもんね。そ、そういう事もするよね……」
なにやら茜さんがひどくうろたえてらっしゃる。
「で、でもね陽介。あたしが入ってきたら入ってきたでいろいろ捗ると思うんだ! そのままの勢いで陽介のお手伝い……」
いかん。茜の悪癖が……。彼女はすぐに自分の世界に入ってしまうのだ。
「茜。お前が何を考えてるのか知らんがとりあえず落ち着け」
「お手伝い……私は何をすれば……なんなら」
ダメだ。俺の言葉が聞こえてない。多少強引だが、餅のように柔らかい茜の頬を軽くつねってみる。
「痛い痛い、離ひへ」
頬が伸びていて何を言っているのか分からないが、なんとなく伝わったので手を離す。
「まったく……。にしても茜、何しに来たんだ?」
茜との頭の悪いやり取りで肝心なことを聞くのを忘れていた。
「そうそう陽介、アルパカ見に行こ。アルパカ」
ポンと手を打ちながら思い出したように言う。
アルパカってあのアルパカか?ラクダ科ビクーニャ属かラマ属に属し、その極めて良質な体毛を持ち古くから衣類などに用いられていた……。と、そこまで考えて気づいた。
「なんだ茜、アルパカの毛でも刈りに行くのか?」
「ごめん言ってる意味が分からない。とにかく、今日は牧場からベルモールに出張してくるんだって。だから行こーよ」
「悪いが俺以外の奴と行ってくれ。外暑いし、俺が外に出る理由が一つも見当たらないんだが」
「えー、じゃああたしとデートってのは?」
「ますます嫌だ」
「とーにーかーくー、行くったら行くの!」
茜はそう言うと俺の手を取って立ち上がる。
「ちょ、止めろって。離せよ」
「ほら立って。いいから行くの! 幼なじみ命令!」
「んな横暴な……」
俺はそうぼやきながら茜に引かれ、炎天下に繰り出していった。
◆◇◆◇
ベルモールまで直通の送迎バスに乗ってるが車内はとても混んでいるので身動きが取れない。俺と茜は自然と後方ドアの付近に立っていた。
「うおっと」
バスの運転が荒いのでよろめいてしまった。
「大丈夫?」
結果、茜に支えられる形になってしまった。
「つかまる所ないならあたしにつかまってな」
……なんか茜、かっこいい。って普通こういうイベントは逆なんじゃないの?
と、茜が突然腕に抱きついてきた。
「茜さん?」
「なに?」
いや、そんな「なにか変なことあった?」みたいに言われましても。
「何で腕にくっついてんの?」
「だってほら陽介がつかまるところないから」
「だから何でお前がつかまってんだよ」
「細かいことは気にしないの。それにあたし、吊革より陽介につかまった方が楽なんだもん」
「さいですか……」
「それにこうしてた方が色々やりやすいでしょ?」
「あぁそうだな」
……って今なんて行った? ちゃんと聞いてないのに適当に同意しちゃったけど。
「そんな……陽介が積極的に……。こんなに人がたくさんいるのに……でもそういうプレイも……」
やっぱダメだったー! しかも今プレイって言ってたぞ。それそろ本格的にダメじゃないかな……。
茜の症状が悪化しない事を祈りつつバスに揺られるのだった。
◆◇◆◇
「ついたーー!」
「あちぃ……」
人ごみから解放されたら今度は太陽に灼かれる。なんて過酷な世界なのかしら……。
「んでアルパカはどこだ? さっさと拝んで帰るぞ」
「えーと確か外に特設の場所があるはずだけど」
茜と二人でキョロキョロするが、それらしいものは見当たらない。
「もしかして反対側なんじゃないのか?」
「そうかもね。行ってみよっか」
茜とベルモの中に入る。冷えた空気が心地いい。心地よさからか、昼飯がまだなのを思い出した。
「なぁ茜、アルパカみたらどっかで昼飯食おう。昼飯食べたか?」
「そういえばあたしもまだだったなー。アルパカが来るって知って急いでたから」
ベルモを突っ切って反対側のドアから外に出る。もわっとした風が肌を撫でた。茜の髪がたなびいて俺の顔をくすぐると同時にシャンプーのいい匂いがする。
「いたー! アルパカだよアルパカ!」
アルパカを見つけた茜は小走りで近づいていく。木の柵で囲まれた場所に二匹のアルパカがいた。
柵の周りには子どもがいて、親は近くの木陰のベンチで子どもたちを見守っている。
「ほら陽介、はやくはやくー」
茜が手をぶんぶん振ってくる。恥ずかしいからやめてほしい。ほら、ママさんたちに温かい目で見られてる。
俺は恥ずかしさを隠すように茜のもとまで早足で、けれど走ることなく向かった。
今回も読んでいただき、ありがとうございます。
前回の更新からだいぶ間が空いてしまい、すみません。
今回から更新を再開したいと思います。
亀更新ですが今後もよろしくお願いいたします。




