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春の徒花  作者: たい
第二章 夏休み編
32/40

胆試し

6

 小さな赤い玉が、これまたパチパチと小さな音を立てる。じっくり見ると火花が枝状になっているのが分かった。

 いつか終わりが来るから。それを知っているから美しく感じるのだろうか。

 終わりが近づく毎に激しくなる。最期に向かって着実に進んでいるのに尚一層、輝きが増す。

 大きく熟れた玉が震える。それに気づいた途端、光源は儚く地に墜ちた。

 残っているのは目に焼き付いた煌めきと、灰色の残骸と煙の匂いだけだった。


「終わっちゃったね」


 茜が残念そうに言葉をらす。


「そうじゃな。あとは寝るだけじゃ」


 謎の脱力感が場を覆っていた。


「みなさん、寝る前に胆試しはいかがですか?」


 振り向くとおばさんがいた。いつの間に来たのだろうか。


「胆試しじゃと?」

「ええ、最初に紹介した墓地での胆試しです」

「別に構わないが誰がおどかす側なんだ?」

「さて、誰でしょうね。そもそもいないかもしれませんよ?」


 おばさんがニヤリと笑う。今までにもこういうことがあったのか、慣れたように返した。


「いや、何だかんだ言って疲れましたし、もう眠くて眠くて。という訳で胆試しは出来ませんね」


 いやー、残念。本当に残念だ。


「えー、やろうよ陽介ー」

「いや待て茜。寝る前に胆試しとか寝れなくなるだけだから。それに健康にも良くないんだぞ」

「怖いの?」

「いや怖いとかそういうんじゃなくて純粋に眠いだけだから。ホント、さっきから欠伸が止まらなくて。決して怖い訳じゃなくて、いや、ホント、マジで」

「よし、こんくらい早口で理由をでっち上げられるなら眠くないよね。おばさん、胆試しやります! みんなもいいよね?」


 茜の言葉に一堂が頷く。


「ちょっと茜? 俺の話聞いてる? 聞いてないよね? 聞けよ」

「往生際が悪いぞ陽介」


 草太郎が俺に近づいて耳打ちしてきた。


「陽介、胆試しといえば?」

「人間がおどかす」

「違う違う。胆試しをやると男女の関係に進展があるだろ?」

「あぁ、女を置いて男が逃げて関係に亀裂が入るやつな」

「それも違う。分かってないなー陽介は。胆試しっていったらドラップラー効果だろ!」

「……。草太郎、もう一回言ってくれ。何効果だって?」

「ドラップラー効果!」


 なぜかサムズアップして自信満々に言い切った。

 ……草太郎が言いたいのは吊り橋効果、プラシーボ効果だろう。きっとドップラーとグラップラーが混ざったんだろうな。

 まさか本気で言っている訳ではあるまい。きっと最近グラップラーの漫画を読んだだけだ。ドップラー効果とプラシーボ効果についてのテレビを見てこんがらがっただけだよね。……よね?

 俺はさっきと同じような脱力感に包まれて、胆試しに反対する気も無くなってしまった。



「陽介……」


 不安そうな声が聞こえる。


「怖いから……手……」

「断る」


 胆試しのペアはじゃんけんで決めた。

 草太郎がドラップラーもといプラシーボ効果とか言うから、アニメやラノベの様に男女で……みたいなのを少しだけ期待した。


「えー……」

「なんで胆試しで男子高校生が手を繋がなきゃいけないんだよ!」

「だって怖いんだもん……」

「うるせぇ! きめぇ! 変にしおらしくなるな!」


 うぅ……期待した俺がバカだった。けれど男女のペアになる確率は高いはずだ。男が二人で女が四人なんだから。

 にもかかわらず男同士になった。ラブコメなんてこの世には無いんだ。ラブコメの作品の作者は俺に謝れ! そんでもって作品には『これはフィクションであり、現実に起こることは一切ありません』とか書くべきだと思う。


「まぁ冗談はこのくらいにして、さっさとやっちまおうぜ」


 草太郎がケロッとして言う。

 胆試しのルールは簡単。おばさんから渡された懐中電灯を頼りに、墓地を回ってスタート地点に戻るだけ。

 俺たちの前は千代さんと石蕗で何事もなかった様だった。

 特にこれといったこともなく進む。サワサワと音を立てる木々が昼間より大きく見えた。



 どれくらい歩いただろうか。ゴールの気配は無いが、夜の涼風を気持ちいいと感じる位の余裕は出てきた。

 草太郎も慣れてきたのか懐中電灯をせわしなく動かしている。

 と、突然手に冷たいものが触れた。それは俺の手を確かめるように触ってからギュッと握ってくる。


「なんだ草太郎、俺の手を握るな。ていうかビビりすぎだろ。手が冷てぇよ」

「それはこっちの台詞だ。いきなり握られてビックリしたじゃねぇか」


 ん? なんだか噛み合ってないような。草太郎も不思議に思ったのか俺たちの手の辺りを照らす。


「……」

「……」


 そこには眩しそうに目を細める小さな女の子がいた。よくよく見れば、その子の手が俺と草太郎の手を握っている。


「お兄ちゃん、連れてって?」

「マジかよ……」

「……」


 草太郎は目を見開いて固まってしまった。


「おい草太郎、大丈――」

「……妹キターーーー!」


 お巡りさん、この人を捕まえてください。



 草太郎が固まっていたのは、少女が突然手を握ってきた事ではなく『お兄ちゃん』と呼ばれたのが原因だったみたいだ。

 誰か助けて……。


「お嬢ちゃん、連れてくって何処に?」

「みんなのいるとこ」


 俄然やる気になったのか、草太郎がしゃがんで少女の応対をしている。


「お嬢ちゃんはこの宿に泊まってたの?」


 草太郎の問いに少女はコクンと頷いた。


「てことはゴールまで連れてけばいいのか?」

「そうするか」


 今後の方針が決まり、草太郎が立ち上がって少女に手を差し出した。少女も不安なのか、その手を握る。

 ……草太郎の対応に淀みが無くて少し怖いです。

今回もお読みくださり、ありがとうございます。


感想、指摘などお待ちしてます。


……グラップラーって通じますかね?

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