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春の徒花  作者: たい
第一章 一学期編
24/40

紫花 陽介は画策する

24

 公平性を保つ……か。

 トーナメント表を変えるか? でもそれだと、苧環おだまきのグループが問題を起こしかねない。

 何より、今から変えられるかも怪しい。

 俺は今、グラウンドに向かっている。苧環にコンタクトするためだ。もちろん生徒会長には断ってきた。

 外に出て、グラウンドの方を見やる。すると、そこでは青春劇が行われていた。

 全員が役者であり、観客でもある。

 一つのボールを追いかけ回し、時々女子の黄色い声援が飛ぶ。

 ……ゴールの設置と白線引きが終わったなら早く仕事に戻れよ。

 俺は声を掛けるべく、その集団に近づく。

 その瞬間、女子達の視線が俺に刺さる。あぁやっぱ、これは慣れないな。『お前じゃない』『誰だお前』っていう排他的な視線。

 だが、声援が止まったことで少しだけ静かになった。これなら大声を出さなくても聞こえるだろう。


「苧環、話がある」


 するとイケメンがこちらを見る。爽やかな笑みを浮かべて近づいてきた。


「何だい? えー……」

紫花しばなだ」


 もちろん俺の名前を覚えてない。話したことないし、知ってたら逆に怖い。

 知名度の低さには自信がある。でも同じクラスなんだよな……。


「紫花くん、話って?」


 どうやって聞くかな……。警戒させないためにも、こいつの調子に合わせるか。


「いや、今回の男女合同の案って、苧環が考えたのか?」


 笑顔を張り付けて、軽い調子で問う。


「うーん……アドバイスを元にね」


 アドバイス? どういうことだろうか。


「へぇー、そうなんだ」


 やばい、すごい棒な声が出ちった……。


「やっぱさー、学校行事は楽しまなきゃ損でしょ。」


 楽しむ……か。


「球技大会だって、友達と楽しくやった方がいいでしょ?」


 苧環の口から出てくるのは美しい言葉ばかり。

 これ以上会話を続けると反吐へどが出るかもしれないので


「明日が楽しみだな」


 とだけ言ってきびすを返す。

 グラウンドにはリア充の笑い声が響いていた。


◆◇◆◇


 ――友達。

 世の中は何でそこまで妄信的に友達を信じることが出来るのだろうか。

 俺には解らない。

 友達が多いと楽しいのだろうか。

 友達が多いと青春をエンジョイ出来るのだろうか。

 そんなことは無い。俺は一人が楽しいし、一人の学校生活は快適だ。

 それに友達が多ければ、軋轢あつれきや、面倒な事も多くなる。

 俺が思うに、リア充にとっての友達は一種のステータスではないだろうか。

 青春劇を演じる上で必要だから、友達を作るのではないか。

 ……なんて利己的で傲慢ごうまんなのだろう。

 友達は素晴らしい、友達は大切にしよう。

 そんな言葉もおためごかしに聴こえる。



 ――そんなことを考えながら、会議室に向かう。生徒会長に確認を取るためだ。

 会議室に入ると、生徒会長はパソコンをカタカタやっていた。


「生徒会長、少し相談が……」


 周りに聞かれるとマズイので、声のボリュームを少し落とす。

 彼女は俺を視認すると、耳を寄せてきた。

 俺が思いついた案を言うと、生徒会長が複雑な顔をする。まぁ、所々ぼかしたが……。


「……大丈夫ですか?」


 実行して効果があるのか? という意味だろう。


「自信はあります」


 本当の事なので、それだけ言う。

 生徒会長は眉をしかめて考えている。まぁ、そう簡単に決められないよな。


「……わかりました。君は……ひねくれてますね」

「自覚はあります」


 生徒会長はこめかみを抑え、息を吐く。


「では、今日は帰っていいですよ。……お願いします」


 心配そうに俺を見る。軽く会釈してトーナメント表を一枚取り、俺は会議室を出た。

 さて……少し準備するか……。

 俺は考えをまとめると、新聞部に足を向けた。


◆◇◆◇


 ペタペタと足音が廊下に響く。窓からの光が、暗い廊下を所々照していた。

 新聞部の部室のドアに手を掛けると、中から話し声が聞こえてきた。先客かな?


「失礼しまーす」

「おぉ陽介ー、久しぶりじゃのぅ。会いたかったぞー」


 石蕗つわぶきさき。小さい体と年寄りみたいな口調でギャップが凄い女の子だ。

 椅子から降りると、テテテと走ってきて抱きつかれる。


「久しぶりだな」


 そう言いながら頭を撫でると、嬉しそうに目をつむった。


「で、草太郎は何でここにいんの?」


 銀のフレームの眼鏡をした、見た目だけは良い男にも話しかける。二人は同じクラスだが、そこまで親しくは無いはず……。


「はっ! まさか……妹っぽい石蕗に手を出すつもりなのか?」


 こいつならやりかねないと思えるから怖い。


「そんな訳ねぇだろ」


 だよな。いくら何でも……


「対価だって払えないし」


 理由が残念だった……。でも対価はきな粉棒で良いと思うの……。


「で、何でここにいるのかって話だが、石蕗に礼をしようと思ってな」


 草太郎はだるーんと机に寄りかかりながら話し、俺は手近な椅子を引いて座る。石蕗は当然の様に俺の膝の上に座る。ちょっと困るんだけど……。


「礼?」

「あぁ、前にちょっとあってな」

「陽介、実は前の新聞の依頼でネタにされていたのは、こいつだったのじゃ」


 衝撃の事実……。でも草太郎だもん、しょうがないね♪ だって、こんなキャラが強いんだよ?


「そういうこと。だから石蕗の後に陽介のとこにも行く予定だったんだ」

「別にあれは仕事だからやっただけだ。礼を言う必要は無い」

「して、陽介は何用で来たのじゃ?」


 そうそう、明日の事について話さなきゃ。


「実はだな……」


 俺は二人に向かって、事情と計画の説明を始めた。


◆◇◆◇


「……という訳だ」


 五分くらい喋っただろうか。少し疲れた。


「なるほどのぅ。球技大会の裏でそんなことがあったとは」

「んで、陽介は俺たちに何か頼みがあるんだろ?」


 理解が早くて助かる。


「あぁ、と言っても難しいことじゃない」


 俺は鞄からトーナメント表を取り出す。


「石蕗にはこれをコピーしてもらいたい」

「コピーしてどうするのじゃ?」

「『組合せの都合が良すぎない?』とか『くじ引きしてないかも』とか添え書きして掲示しておく」

「でも、それだと効果が薄くないか?」

「いや、いいんだ。役員を少しでも疑わせれば、それでいい」


 ようは火種だ。あとは俺が当日に火を付ければいい。


「ふーん、で俺は何すればいいの?」

「草太郎は……大きくリアクションしてくれ」

「はぁ?」

「だから、大声で賛成、反対の意思表示をしてくれ」

「それだけでいいのか?」

「あぁ、たぶん大丈夫だ」


 実際は分からない。ただ、少しでも可能性は上げておきたい。


「だが、この計画は陽介が危険じゃぞ?」


 石蕗が上を向いて俺に聞いた。早く膝から降りてくんねぇかな……。


「それも大丈夫だ。なるようになる」


 そう言いながら俺は石蕗を降ろす。脇の下に手を入れて少しドキドキしてしまった。


「そんじゃ、明日は頼んだ。それと石蕗、報酬はきな粉棒でいいな?」

「もちろんじゃ!!」

「ねぇ陽介、俺は? 俺には何かないの?」

「……じゃあな」

「おい! 思いつかないからって逃げるなよ!!」


 俺は草太郎の声を聞きながら部室を出た。


◆◇◆◇


 夜、俺は自室で交渉術について調べている。

 ドア・イン・ザ・フェイスか……。

 非現実的な要求をして断られてから、本当の要求をするというテクニックらしい。


『1万円貸してくれ』←非現実的な要求

『嫌だ』←断る

『1000円だけでも!!』←本当の要求

『そ、それなら……』←了承


 こんな感じだろうか? 何か違う気がするが、例えだからまぁいいだろう。

 あとは、千代さんに教えてもらった集団心理を利用すれば……。

 俺は目を閉じ、明日に向けて思考を巡らせた。

どーも、「たい」です。


今回もお読みくださり、ありがとうございます。


ストーリーも佳境なので、盛り上げて書ける様にしたいです。


次回もよろしくお願いいたします。


では失礼します。

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