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春の徒花  作者: たい
第一章 一学期編
22/40

紫花 陽介は見抜く

21

 俺は今、風呂から上がって、インターネットで知識を入れている。

 千代さん達と関わるようになってから、こうして自分で調べるようになった。

 調べる内容はもっぱら交渉術や、人の心についてだ。

 俺が電子の世界を彷徨さまよっていると、俺のスマホが着信を知らせる。茜からだ。


『今から行くねー』


 茜の声が聞こえたかと思うと、すぐに無機質な機械の音が耳に届く。

 三十秒も経たない内に


「おばさーん、明日の朝までお邪魔しまーす」

「あらー、茜ちゃん。朝ごはんは?」

「あっ、お願いしてもいいですか?」

「もちろんよー」


 と、茜と母さんの会話が下から聞こえてくる。

 今日は熟睡出来なさそうだ……。

 ドタドタと階段を昇る音がして俺の部屋のドアが勢いよくひらく。


「ようすけ、暇だったから遊びに来た」


 茜はパジャマ姿で、ご丁寧に枕まで持ってきてる。

 茜が暇という理由で俺の部屋のに来ることは、昔からよくあることだ。

 だが、俺は心の中で大きなため息をついた。



 俺の母さんは茜を気に入っている。そして茜が泊まる時は、俺の部屋で寝るように勧めるのだ。

 けれど茜だって恥ずかしいはずだ。現に、以前お互いの両親が居ない時も茜は泊まりに来たが、俺が母さんの部屋を勧めると素直に従ったし。


「やったー勝ったー」

「あ……」


 茜と対戦ゲームで遊んでいたが、気を抜いていたら負けていた。俺の不敗神話が……。


「ふぁああ」


 茜が大きな欠伸あくびをする。夜もだいぶ更けてきた。


「そろそろ寝るか。茜はベット使え。俺は床で寝るから」


 そう言って俺は枕を取って床に転がろうとする。この季節なら風邪もひかないだろう。


「陽介、ほら一緒に寝よ」


 茜がベットの空いているスペースを片手でポンポンと叩きながら言う。何その仕草、かっけぇな。


「断る」


 それだけ言って俺は床に転がる。


「もう、一緒に寝てくれないと、おばさんに『陽介に襲われたぁ~』っていうよ?」

「ひ、卑怯だぞ……」


 そんなことを言われたら、俺の家族内の地位が大変なことになる。勘当までありそう……。


「陽介が一緒に寝てくれれば、それでいいの」


 このまま押し問答してても時間のムダなので


「分かったよ、寝ればいいんでしょ寝れば」


 と、やけくそ気味に了承する。


「やった。このまま既成事実……」


 小さな声で何やらブツブツ言っているが、気にしない。三分で寝てやるぜ。

 俺は茜に背を向けて、ベットの端に寝る。寝返りをうったら落ちるかもしれないが、むしろそれでいい。


「じゃ、陽介、おやすみ」


 茜がそう言って電気を消す。部屋が暗闇に包まれた。



 俺、嘘ついた。三分どころか十分経っても寝れない。

 さっきから茜の寝息が規則正しく続いているが、もう寝たのだろうか。

 今、俺の背中には茜の手が触れている。これじゃ下手に動けない……。

 柔らかい手の感触と女の子特有の甘い匂いのせいで、俺の頭は冴えてしまった。早鐘を打つ俺の鼓動が手を通して茜にバレないか心配だ。


「陽介の心臓、バクバクしてる。緊張してるの?」


 ……速攻でバレた。


「寝てなかったのかよ……」

「寝れる訳ないじゃん」


 茜の吐息が俺の首に当たって、ゾクゾクする。


「今夜は寝かせないぞ♪」


 キャピルン♪とした調子で茜が言う。


「頼むから寝かせてくれ……」


 俺が懇願すると、唐突に茜が抱きついてきた。


「ちょ、離れろって」


 具体的には言わないけど、凄く柔らかいモノが当たってるよぉおお。


「い・や・だ」


 茜が俺の耳元で言の葉を紡ぐ。直接頭の中に声が響くみたいだ。

 かと思ったら、今度は足を絡めてくる。何で女の子の身体って柔らかいんだよぅ。茜の吐息が熱を帯びてきた。

 これ以上は不味いと思い、俺は緊急離脱を試みる。つまり、寝返りをうって床に落ちた。


「きゃっ」


 だが、茜も一緒に落ちてしまった。そのうえ茜は仰向けの俺に覆い被さるようになってしまった。

 か、顔が近い……。暗闇に目が慣れたから、表情もしっかり分かる。


「陽介も大胆だね。ほら分かる? 私、ドキドキしてる……」


 茜はさらに強く抱きついてくる。双丘が形を変えて押し付けられる。

 茜の言う通り鼓動は早かった。けれどそれは、俺の鼓動なのか茜の鼓動なのか、判別がつかない。


「陽介と……このまま……」


 ……嫌な予感。すると突然、月明かりが部屋を少し明るくする。上体を起こした茜の姿が視界に入る。

 月に照らされた茜は俺を見下ろしている。茜色のツインテール、ほのかに染まった頬。とても魅力的で畏怖の念さえ抱く。


「高校生には早いかな……でも……」


 ここで発症するのかよ……。茜は俺に顔を近づけて、俺の顔に手を添える。目と目が合う。

 部屋のせいだろうか、茜の瞳はとても暗く、深淵の様に光が無い。茜は瞳を閉じる。かと思ったら、俺の胸に顔を当てて……そのまま寝てしまった。

 よ、よかった……。とりあえず一安心だ。それより、俺もこのまま寝るしかないんかな……。



「球技大会を男女合同にします」


 開口一番、生徒会長がそう言った。


「「「よっしゃーーー」」」


 うるせぇ……茜も耳を塞いでる。それと、今朝は俺が起きた時に茜は居なかった。まさに不幸中の幸いだ。


「球技大会まで残り一週間を切っています。精一杯やってください」


 会議室は熱気に包まれている。ただでさえ暑いんだから、勘弁してくれ……。


「オラ、会場準備班は外行くぞ!」

「まだいいだろ。それより撮影機材運ぶの手伝ってくれ!」

「救護班のテントも建てるぞ!」


 そこかしこでやり取りが起きる。最初のモチベーションとは大違いだ。うるさいのは変わらないが……。

 生徒会の役員もこの変わり様に驚き、処理が間に合ってないみたいだ。雑用班も仕事しますか……。


「茜、生徒会を手伝うぞ」

「おっけー」


 てんやわんやの生徒会長に声を掛ける。


「手伝います」

「わぁ、天雄てんゆうさんに……彼氏君、助かります」


 まだ俺の名前、覚てられて無いのか……。茜が顔を紅くして俯いているのを見ると、こっちまで恥ずかしくなる。


「では、この書類に間違いが無いか確認してください」


 そう言われて眼前にどかっとプリントが置かれる。

 うわぁ……時間かかりそう……。



「では、今からトーナメントのくじ引きを始めます。各クラス一名、前に出てきてください」


 生徒会長が皆に声を掛ける……が、誰も動かない。俺は行こうとしたが、他の奴らがニヤニヤしているのを見て動かなかった。


「どうしました? 早く出てきて……」

「生徒会長ー、そのことなんですけど、こっちで決めちゃいましたー」


 役員の女子が手を挙げて、生徒会長の声をさえぎって言った。


「え、え?もう決まった?」

「はい、それにもう印刷しちゃいましたー」


 生徒会長は文字通り、開いた口が塞がってない。


「そのプリント、見せてください」


 受け取ったプリントに目を通している。


「……公平ですか?」

「大丈夫ですよー、くじ引きで決めましたし」

「そうですか……では、トーナメントは決まりですね」


 生徒会長は渋々という様子で許可を出した。

 あの様子じゃ、くじ引きなんてやってないんだろうな……。

どーも、「たい」です。


今回もお読み下さり、ありがとうございます。


では、失礼します。

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