年長者と年少者
幼稚園の年長になった6歳の娘がいる。娘が僕に「散歩しようよ」と言った。
僕はうなずき、娘と二人で雲一つない空を見上げながら歩いた。
(娘の歩く速さが遅い)と僕は感じ、背中を軽く押した。
娘はすいすいと早歩きした。
途中、自宅から歩いて1キロ先にあるスーパーに立ち寄った。
スーパーは他のお店よりも価格が安く、色々揃っている。
僕は娘に80円のジュース(三ツ矢サイダー)を購入した。
娘は言う。「私がお金を払う」
僕はうなずき、100円を渡して娘の後ろについた。
娘の前には、たくさんの商品をカゴに入れた50歳の女性がいた。
上は茶色のジャンバーで、下は黒のジーンズ。
紅色の口紅、茶髪を1つに束ねている。
女性が娘を見て「先どうぞ」
しかし娘はその場から微動だにしなかった。
「どうしたの、いいのよ」彼女は再度言ったものの、娘は動かぬ。
僕も言った。「ほら、譲ってくれているよ」
しかし娘は言う。「いいの」
娘の背中を押しても、ものすごい反作用が働く。
僕と女性はしばらく娘をじっと見つめた。
女性の順番になり、3分ほど待って娘の番になった。
1分もかけずに買い物を終えた。
この時、僕は心のなかで思った。「なんて応用のきかない娘なんだ」
サイダーを購入して家に帰る際、僕が軽く娘の背中を押しながら尋ねた。
「どうして先に購入しなかったの?」
娘がスイスイ歩きながら答えた。
「幼稚園で先生がね、年長者は敬いなさいって言ったの」
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歩きながら娘がサイダーを飲む。
ジュースがあと少しで空になる寸前で、僕は理解した。
(例えばバスに乗った場合、優先席を老人に譲るようなものか)
少しばかり額から汗がこぼれ落ち、僕は娘の背中をポンポン叩く。
「いやあ、お前は温かくとても良い子だ」
日光が娘の顔に当たり、彼女はニヤリと微笑んだ。
ペットボトルから反射した光が僕の目に入った。