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アスティアの翼  作者: 水瀬紫苑
復活の章
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復活4

 さして待つ事もなく、その存在は目の前に現れた。

 「それ」は未だ稚さの残る少女であった。

 良く知る気配が、見知らぬ気配に包まれている様な、妙な感覚。

 知っている。でも知らない。そういった存在は知っているが、矢張り慣れるものでもなく。

 (――気持ちわりぃ)

 それが目の前の少女に対する、第一印象であった。


 その少女は不安気に此方を見つめているが、その瞳に恐怖は見えない。豪気なのか愚鈍なのか。取り敢えず話しかけてみる事にした。


「お前、誰だ?」

「クレアと申します」

 幼いながらもしっとりとした美しい声。確りとした答えには不信も不安もなく、真っ直ぐに此方を見つめる瞳には強い光が宿っていた

 (ふぅん……?)

 その眼には覚えがあった。喩えどんな時でも逸らされる事の無かった「彼女」の意志の強さを表す瞳は、最期の瞬間でさえ自分を捉えて離さなかった。



「それで、そのナントカがなんで此処に居るんだ?」

 ――まぁ、何となく想像はつくけれど。

「此処?」

 きょとんと首を傾げた少女は、どうやら此処がどこであるか分かって居ないらしい。ともすれば、前後の記憶すら危ういであろう。

 まぁ、誰も自分が殺された時の事なんて覚えていたくもないだろうが。そう思い少女をぼんやりと見ていると、むくむくと悪戯心が騒ぎだす。

 からかってやろうかと人の悪い笑みを浮かべると、何となく適当な言葉を紡ぎ出した。

「男の寝室に勝手に入り込んでくるとか、良識のある女のする事じゃねぇな。……夜這いか?」

「よばっ……!!」

 クレアの頬が真っ赤に染まる。

「そ……そんなつもりでは……!!それに、此処が何処で、何故私が此処に居るのかも分かって居なくて――」

 林檎の様に真っ赤な顔であわあわと言葉を紡ぐ少女を眺め、男は思った


 (――気持ち……悪ぃ)

 何だ。何なんだこのイキモノは。

 「彼女」と同じ気配、そしてあの強い瞳をしていながら、この初な言動。

 今までの「彼女達」とは全く違う反応に、思わず頭の中が真っ白になってしまった。からかってやろうと思ったのに、痛烈なしっぺ返しを喰らった気分だ。


 もういい。疲れるから早く追い出そう。

 大きく溜息をつき、慌てふためくクレアを一瞥すると、男は心底面倒くさそうに呟いた。

「お前、アストールとティアの末裔だろ」

「え……何故それを?」

 何故も何も、これだけ強くアストールの気配をさせていれば、一目瞭然だ。その上、この場所にまで来られるとすれば、彼らの末裔以外では有り得ない。

「見りゃわかる。……あ~……なんかすげ~めんどくさそう……」

 男は心底面倒くさそうに呟いた。

 先程から、幾つかの声や映像が頭の中を巡って居る。これが、今外界で起こって居る事なのだろう。

 ともすれば、あの醜いブタモドキが、なんか良く分からん思考の元、自分の力を手に入れようと画策し、その為の贄として目の前の少女を殺した、という事なのだろう。


 面倒だ。本当に、心の底から面倒だ。

 正直、この少女を飛ばして、再び心地よい午睡を貪りたい気持ちでいっぱいだった。

 ――しかし……


「そう言う訳にも……いかんだろうなぁ……」

 良く分からないと小首を傾げる少女を眺め、男はついにこの心地よいまどろみを手放す事を決めた。


「……あ~……お前、自分が死んだって事は理解してるか?」

 何の事だろうと首を傾げていた少女だったが、ふと記憶が甦ったらしい。真っ青な顔をして小さく頷いた。


「因みに、だ。多分もう直ぐ此処が崩れるから、俺も非常に不本意ながら此処をでなくちゃならん」

「ええと……はい?」

 何が言いたいのだろうとその瞳に書いてあったが、正直説明なんて面倒な事はしたくないし、そういう面倒事はオストロ辺りにでも押しつけておくべきだ。


「で、だ。俺は此処を出るが、お前はどうする?」

「どう……と仰いますと?」

「先ず選べ。俺と一緒に此処を出るか、この場に残るか。この場に残る場合はお前の魂が閉鎖したこの空間に閉じ込められ、生まれ変わる事も出来ず、ともすれば魂ごと消滅する可能性もある。」

「私が出たいといえば、貴方は私を連れて行って下さるのですか?」

「まぁ、面倒だがついでだからな。俺様が出る時ついでにお前の首根っこ掴んだ所で大した手間じゃない」

「まぁ……」

 あまりの物言いに目を丸くする。

「では、お願い出来ますでしょうか?」

「お~お~即答だねぇ。んじゃ次第二問。此処を出るときの状態だ」

「状態……ですか?」

「ああ。お前、自分が死んだってことは分かってるんだろ?」

「……はい……」

「つまり今のお前は肉体から弾き飛ばされた魂の状態だ。このまま出ても、どちらにせよお前は死んでるんだから、出た瞬間仲間との感動の再会なんてことにはならん。……生まれ変わったとしても前世の記憶は失われるんだ。出たってどっちにせよ、『お前』はなにも変わらんぞ。お前の人生は既に終了してる」

 ぴくり、と少女の肩が揺れる。

 泣きだすのだろうか。ああ面倒くさいなと紳士らしからぬ事を思いながら、男は続ける。

「で、だ。第二問。特別に此処を出た後の事を選ばせてやる」

「?」

 血の気が失せ青ざめた少女の状態も気にせず男は続ける。

「先ず1つ目が、出た瞬間そのまま死んでお終い。メデタシメデタシ。次が、肉体が滅んでいないという前提条件があってだが――お前の魂を肉体に戻す事も可能だ。因みに俺様としては、最初の提案をお勧めする。色々面倒だからな」

「……魂を……?ですが私は……」

「正確に言えば、お前は死んでいない。……まぁ、面倒だから詳しい説明は省くが、今のお前の状態は、肉体から魂が弾き飛ばされた状態で、未だ肉体と魂は繋がっている。つまり、肉体が無事であれば魂を戻す事は可能だ。但し、魂を戻したとしても、身体が回復不可能な程に痛んでいれば再びお前は死ぬぞ」

 何でもない事の様にさらりと告げられた内容に、少女は眼を見開いた。

「本当に……生きる事が出来るのですか?」

「ああ。今言った条件をクリアし、尚且つ場合によっては更に条件が追加されると思うが」

「……条件?」

 少女は男の告げた内容に目を見開いていたが、僅かにも悩む様子を見せずに頷いた。

 あまりにもあっさりとしていたので、どうせ内容を理解できていないのだろうと男は大きく溜息を吐いた。

 まあ、いい。理解してそれが嫌だと言いだせば、直ぐに切り離せばいいだけの話だ。


「本当に構わないんだな?」

「――ええ。貴方が共に在るのなら」

 その強い瞳に、変わらぬ言葉に。男の口元が綻んだ。


「じゃあ、行くか」


 そして2人はその場を後にした。




 ※ ※ ※


 ずっと眠り続けていた所為か、頭にもやがかかっているかのようにぼんやりとしている。

「あ~……ねみぃ……」

 起きる事を決めたは良いが、正直まだまだ寝足りない。矢張り戻って寝なおすべきかと半ば本気で考えつつ周りを見渡すと、予想以上に面倒そうだと思い、直ぐ様踵を返したくなった。

「なんだ!!貴様は!!」

 声の元を見やると、未だ若い少年が此方を睨みつけている。

 良く知る気配、知らぬ気配。しかし何処か「彼」の面影を残す少年を目にし、男は呟いた。

「なんか……今度のはえらく頭が悪そうだな……」

 大きく溜息を吐くと、次いで先程からわめいている煩い物体をみやった。

「おお!!邪神よ!!我に力を!!」

 取り敢えず一番面倒そうだったので無視しておこうと思ったのだが、彼にとって最も面倒な人間が視界に入り、思わず「うげっ」と声を漏らした。

「……久々にお会いするというのに、随分なご挨拶ですね。グリード様」

 かつかつと音を立て、緩やかに歩み寄ってくる人間を目にし、一目散に逃げ出したい気持ちに陥った。

「……ご無沙汰をしております。グリード様。……随分と長くお休みになって居た様で」

「……出会いがしらに嫌味と説教かよ。相変わらず似た様のばっかりだなお前ら」

「同じ記憶を受け継いでおりますからな」


 ゆるやかに歩み寄ってきた老賢者は、しかし言葉とは裏腹に万感の思いを湛え、その瞳は僅かに潤んでいた。


「久しいな。オストロ」

「ご帰還、心よりお待ちしておりました。グリード様」



魔王様完全復活。

因みに魔王様の第一印象

 ヒロイン→気持ち悪い

 ヒーロー→頭悪そう

……そりゃないぜ魔王様。


因みにクレアに対して割と酷い事行ってますが、回を増すごとに優しくなるとか在りません。万事あんな感じです。グリード様は「気遣い」という言葉はしっていても使いません。面倒だから。


今回グリード様は何回「面倒」という言葉を発したでしょうか。

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