化け物2
案の定、3人は一緒にトイレに行った。
1人が個室に入り、残りは鏡の前で自分の髪をしきりに弄っていた。
そういえば正義がまだ居た頃は俺もたまに連れションしてたな。
そんな事を思い出しながら掃除用具入れからホースを取り出した。
「おい、お前何やってんだよ!」
「見てわかるだろ?掃除だよ。」
制止する声を他所に、蛇口を思い切り捻り、ホースの先を個室の上に向けた。
「おわっ!!?」
個室から間抜けな声がしたと思ったら放水はすぐに止んだ。
「お前!本当にやりやがったな!」
「お前らだってやっただろ?」
「ふざけんじゃねぇ!!」
拳でも飛んでくるのかと思ったら、2人して凄んで出口を塞いでるだけだった。
「分かった分かった。
じゃあどっちでもいいから交代で個室に入ってよ。順番に両方濡らしてやるから。」
「お前舐めてんのかよ!?」
胸ぐらを掴まれる。
「先に喧嘩売って来たのはそっちの方だろ?」
同じように見よう見まねで胸ぐらを掴み返す。
「やめろ」
見ているだけだったもう1人が俺の腕を掴む。
瞬間、全身の毛が逆立った。
「その手を離せ」
だから逆に、そいつの手を掴んだ。
「嫌だって言ったら?」
腕の骨が潰されたかと思うほどの痛みに、思わず手を離してしまった。
「もちろん力づくだ」
「なら、まどろっこしい事はやめて、分かりやすく行こうぜ。」
「おう!やってやれ!」
トイレの個室から野次が飛ぶ。
睨み合い、構える。
そこに邪魔が入った。
「こんな狭い所じゃなくて、もっと広い所でやったら?」
平然とした顔で男子トイレに幽が入って来た。
「ねぇ?」
笑いかける幽に向こうの連中は困惑していた。
「え!この声ってもしかして!?」
個室が分かりやすくガタガタ暴れていた。
それと同じくらい目の前の奴らも動揺して、
もはや今から喧嘩する雰囲気ではなくなった。
授業も終わり下校時間になった。
普段からあまり行かない体育館の裏に7人。
あの時トイレに居た俺を含めた5人と、見物人の幽とその金魚の糞。
「じゃあ両者ともに整列!」
幽が仕切る。
今日はとても楽しそうだ。
順番に1対1。
以前に公園で拓人とやりあった事はあるが、
まさか学校でタイマンをする日が来ようとは。
順番は幽の独断。
1人目、2人目は特に問題は無かった。
が、3人目。
こいつのせいで今、こんな状況になっている。
俺に水をかけた理由は、幽に対する俺への嫉妬だった。
実に下らない。
それで終わらせていれば良かったのかもしれない。
幽の号令で向こうが殴りかかってくる。
それを防いだ筈だった。
骨が軋むような重い一撃。
瞬時に体が浮かんで、気が付けば後方の木に背中をぶつけていた。
理解が追いつかない。
そんな漫画みたいな。
考える暇もなく追撃にやってくる。
今度は防がずに避けた。
俺に代わりに蹴りを食らった木がへし折れた。
冗談じゃない。
悪態を吐く暇もなく攻撃は続く。
これ以上シラを切り続ける舐めるのは無理だと思った。
恐らく、仮定だが、ユウジは俺と同化した。
その方法や原理は分からない。
ユウジと殺し合った日から体に違和感があった。
まるで自分の体じゃないかのような感覚。
具体的に言えば、普段より優れていた。
その何もかもが。
まるで1人で2人分あるかのような。
そして、自分の中にはユウジが居る。
自分ではない自分。
そうでないと説明出来ない事は既に起きている。
ユウジは何かを知っている。
そして俺よりも俺の体を上手く扱える。
強いのだと。
だから今日も、その時と同じ様に、
ユウジに代われば、このバケモノは何とかなると思っていた。
使う必要は無いと思っていた剣を取り出し、
自分の腕を斬りつける。
その血を舐めると目が冴える様な感覚がして、
目が覚めた様な気がした。
後は任せた。
これで何とかなる。
そう思っていた。




