あく
「痛ぇ…」
結構思いっきり殴られたな。
普通に痛い。
「…。」
血は出てないけど、
まあ無様っちゃ無様だな。
痣になるのか、痛いと分かっていても撫で続ける。
「…。」
とりあえず保健室でも行くか。
と、その前に教室に荷物を取りに行くことにした。
既に帰りのHLは終わったようで、
人混みを避けて自分の机に着いた。
机の中は何もなかった。
普段から置き勉しているロッカーにはゴミが詰まっていた。
それらを払って、荷物を取り出す。
家の鍵はある。
他は、 もうどうでもいいや。
教室を出ようとして足を引っ掛けけた。
いや、引っ掛けられた。
無警戒だったので顔から行った。
実際は腕で庇ったが、それでも痛い。
起き上がるのが面倒だ。
「何してるの?」
差し伸べられた手。
「…。」
それに頼らず立ち上がる。
「腫れてるわよ。」
頰に翳された手。
それを払い除ける。
「触るな…」
「誰にやられたの?」
「黙れ…」
軽蔑の目を向けた。
「何に怒ってるの?」
「…。」
そのまま家までまっすぐ帰った。
家の鍵が開かない。
おかしい。
確かに見覚えのある鍵。
差し込めるが回せない。
その鍵を投げ捨てようとした時、
やっと思い出した。
正義から貰った鍵だ。
家の鍵が開かないので、
とりあえず正義の家に行った。
正義は転校したはず。
そこの表札は変わらず、磯村だった。
鍵はかかっていて、使ってみると開いた。
中からは何も音がしない。
だが、何か臭う。
つい最近臭った、
それよりも強烈な、
あぁ
そういう事か
臭いにつられて中へ進むと、
女の人が首を上げて膝をついていた。
大口を開けて剣のような物を飲み込んでいる。
血は付いていないが、それは確実に死んでいるであろう。
恐らく、正義の母親か。
その鮮烈な光景に息を呑む。
立ち尽くしていると後ろから肩を叩かれた。
「こんな所に居た。」
幽はまたその両眼を輝かせながら笑っている。
「さあ、あなたが抜くのよ。」
さながら、選ばれた勇者の如く。
そう続けて、彼女は柄に触れた。
「さあ。」
「…お前が抜けばいいだろ?」
「出来るなら最初から頼まないわ。」
本当、こいつと関わってからろくな事がない。
「何故彼があなたにコレを託したと思う?」
「…」
「あなたにコレが必要だからよ。」
「…」
もう訳が分からない。
一体俺の周りで何が起きているのか。
「俺には必要ない。」
「ええ、でもあなたにとっては必要よ。」
「"俺"には必要ない!」
「あっそう。
それでもあなたは抜かなければならない。
ここまで来て帰れる訳がないでしょ。」
そもそも、あなたに帰る場所はない。」
あなたに帰れる場所はない。」
咄嗟に幽を殴りかけた。
自分ではない何かが止めた。
それはきっと幽が言う
なら俺じゃなくていいだろうが
「っああああ!!」
まっすぐに引き抜いた。
その真っ黒な剣に血が滴る。
それを見ても何も感じなかった。
「これで、いいんだろ。」
「ええ。もっと自分に素直になればいいのよ。
やりたい事をやれるだけの力をあなたは手にした。」
そして今、あなたは世界を変える力を手に入れた。」
あなたが、望むことは?」
切っ先を幽に向ける。
動じない幽。
自分から首元を晒した。
「それでもいいわ。
あなたが望むなら。」
「…」
「まあ、私は望まないから嫌だけど。
私はまだ死ねない。」
剣を払い、そのまま手を差し出した。
「さあ、私と一緒に来なさい。」
俺は望んでいない。
その手をとった。




