次の日
玄関で靴を履いて、鍵を閉める。
念入りに戸締りを確認する。
満足して学校へ向かう。
学校の近くまで来てやっと同じ制服を着ている奴がいた。
「よう!お前も遅刻か?」
どうやら遅刻の常習犯のようで、話しかけてきたことで分かった。
そういえば時計見てなかったな。
「…」
自分の中では返事をしたつもりだった。
「どうしたー?気に障ったかー?」
「…ぅじゃなぃ…」
「おう、なら良かった。」
今度は伝わったようだ。
それで、こいつは何故か俺の隣を同じペースで歩く。
曰く、「いつもの事だから、急いで行くよりも言い訳考えて行く方が気分も楽でいい。授業が減ることもある。」
そう甘くはない。
「…補習があるだろ。」
「まあ、何とかなるだろ。」
逃げていたってツケは回ってくる。
「それでも授業よりマシか…」
独り言のつもりだった。
「お?分かってんな!授業よりも時間短いんだよなー、難しいけど。」
「結局は一緒のことをやってるんだからな。」
「ま、それもそうだけど。
ここらだな。
あんま俺と仲良くしてるとこ見られるとお前に被害がありそうだから、俺はこれで。
あんまり正直に言い訳すんなよ!」
最後に助言だけを残して彼は先に行ってしまった。
「同じはずなんだよ…」
既に遅刻の事など忘れて朝からの思考に後戻りする。
気がつけば運動場から声がする、正門は閉まってる。
その前に佇み、裏門は何処からだったかを思い出す。
やっとで職員室に着くと、
「遅かったな。俺はお先に。」
とすれ違った。
そんなに時間は経ってないと思ったが。
彼はもう釈放らしい。
俺は今、罪を告白している。
助言なんて忘れて、ただ
「…寝不足で…」
と言っただけ。
それから、10分くらい簡単な質疑応答が億劫に続いた。
最初のうちは具体的に話すよう問われたが具体的なものが無いので短く済ませていると、途中からイエス・ノーだけになった。
「何はともあれ、学校に来てくれて良かった…塞ぎ込んでしまうのはいけないからな、ただ、夜道は気を付けろよ。物騒だからな。」
いつも集会で怒鳴っている先生だが、今はまるで別人のようだった。
先生は一旦そこで区切って一口茶を飲んでから続けた。
一瞬だけ俺から目を逸らし、口を開けた。
「…同学年の、『 』が行方不明になった。原因は不明。夜にバイトから帰ってきたと思ったらまたフラリと出て行って、最後には 中学校の近くで目撃されている。
それきり、今朝はまだ戻ってきていていない。警察も動き始めている。
誘拐の可能性もある。だから事情徴収なんかもあるかもしれない。」
また区切って、一息つき、言い辛そうに
「お前、昨日 中学校で何してた?」
空気が余計に重くなった。
昨日、俺がフラリと出かけたのが目に留まった近所の人が後を付けて、中学校の近くで姿を消したと。
だが、その時間にはもう中学校の中に入るはずだった。
近くの防犯カメラには映像は残っていないらしいが、目撃情報がある以上、疑われるって。
カメラならハッキングして誤魔化したはずだから大丈夫なはず。らしい。
中学校の周辺は暗く、人通りも少ない。
そこに用事なんて無い。
中学校の近くに居たって言うなら近所の人だってそうだろう。
そう言うと次は声が聴こえてきたと、さっき電話があったようだ。
それは深夜、俺の家の方から男の咽び泣く絶叫と、いつまでも繰り返す嗚咽。
それは自分ので、自分はそれで遅刻をした。
ここだけは本当のことを言うと、さすがに先生も押し黙った。
まだ疑ってるのか、俺を憐れんでいるのか。
どちらにしろ俺は殺ってない。はず。だ。
少しクラッとしたと思ったら、保健室にいた。
倒れたようで、辺りを見回してる内にチャイムが聞こえてきた。
時計を確認すると、それは昼食ランチタイムを告げるものだと分かった。
それから保健室の先生が来て、軽く問診を受け、熱も貧血も無いようだからと、ちょうど様子を見に来た保健委員に連れ添われてやっと教室に入った。
何かと出入りが激しいはずなのに、だんだんと視線が俺に集まった。
それを気にせずに席へ向かうと理由がわかった。
遅刻もそうだが、大元はやっぱりコイツだろう。
先に鞄を机の横にかけると、幽は起きた。
「おはよう」
「…」
「おはよう。」
目を擦り終わった幽はズイッと席を立ち隣に居る俺に顔を近づけた。
まるで背の小さいヤンキーかのように俺を下から見上げてくる。
「おはよう」
観念すると少し微笑んで、
「良かった。ちゃんと来たね。」
至近距離だから目が笑ってないのが分かった。どうやら内心はお怒りのようで。
「悪い。」
「いいけど。このまま来ないのかと思って寝てたら、目を覚ましたら目の前に本物がいるって素敵じゃない?」
少し角度を変えて尚も威嚇するように見据えてくる。
口は微笑んでるが。
「寝坊した。」
「へー、」
一旦俺から離れて伸びをして、
「じゃあ行きましょうか。」
「何処へ?」
「私、お腹空いてるの。」
俺の前を悠々と歩いていく幽の後ろ姿を目で追うと自然と周りの視線に気づいた。
幽の方は、教室のドアを半分開けて俺が来るのを待っている。
「…」
心配しすぎてお腹が減ったと言って俺に奢らせようとしていたらしいが、
財布を忘れて一文もないと言うと、ため息をついて奢ってくれた。
周りの視線に別の意味での視線も加わったような気がした。
「それで?」
「は?」
「あなたはどっち?」
わざわざ正面に座って見据えてくる。
「知らん。そもそも俺は何にも知らないんだ。
むしろ説明してくれ。」
「めんどくさい。」
こいつ面倒くさいな。
「じゃあ何でお前は"俺"を助けたんだ?」
「それがあなたの答えね。
私は、…ただの気まぐれよ。」
「…あっそう。」
まあそんなに期待はしてなかったけど。
それからも収穫のない会話で昼放課は終わった。
そういえば、午前の文の授業誰に聞こうか。
クラスの中に友達は何人かいるが、
みんながみんな幽に憧れを抱いているから、
今の状況ではちょっと聞き辛い。
なんせ、掃除の時間に絡まれるのだから。
「お前、調子に乗るなよ」
4対1、
さて、どうしようか。
あけおめです。
今年もよろしくです。




