消臭
「ふぅー…」
ため息ばっかりだとため息を吐きそうになる。
いや、これは落ち着く為の一息。
そーっと鍵を開けて誰にも気づかれないように自室に辿り着いた。
良し、と扉を開け、盛大に足の小指をぶつけた。
「い゛っ!!、!」
痛みで思わず上げた声。
誰かを起こしてしまったと焦りに冷や汗をかくも、起こしたのはこの家に誰もいないという記憶。
その真実に呆れてしまう。
ため息を乾いた笑いに変え、膝に手をついて立ち上がる。
そのまま笑ってベッドに身を投げる。
どれだけ音を立てても…
それから、もう一つ起こされた記憶を整理する。
…そう言えば、、
若干部屋の中が血生臭い。
普段とは違う匂いに何度か鼻が反応するが、臭ってきているのは自分の体から。
来ている服は暗めで統一されていて、夜だった事もあってあまり目立たなかった。
それをいまさらになって誰も居ない家ここで思い出した。
思い出して虚しくなる。
その虚しさを怒りと共にぶつけてある。
復讐した、そのことが余計に虚しい。
行き場のない感情は彷徨う前には涙になっていた。
誰も居ない虚しい家で一人、布団に顔を埋めて泣きじゃくった。
最初は漏れていた、誰にも聞こえない泣き声を徐々に徐々に殺していく。
泣くことで虚しさを忘れて、虚しさだけが泣かせる。
水も飲んでいないのに大量の涙、声は殺しているつもりがもう枯れている、なのに涙と鼻水だけは止まらない。虚しさは永遠に廻り続ける。
泣いて鳴いて哭いた。
久しぶりにこんなにも感情的になった。
いや、泣いた事自体久しぶりだったのかもしれない。
前に泣いたのは、
たしか転校の時か。
離れたくないと、しがみついて涙を流しただけだっけ。
誰に、というわけではないが。
それから郷愁に駆られ、少し昔を思い出す。
もう哭き疲れたのか、喉の痛みか。
鳴けなくなって、涙も少しおさまってきた。
泣き疲れたのか、今は夢中になって昔を思い出していた。
昔は今よりも友達が多かった。
それは俺が今よりも明るく元気に振舞っていたから。
何時からだろうか、何時からかだろうか?
考えて行くうちに思考にハマり、気が付いていたら眠っていた。
今日見た夢は、昔の経験を基もとにするものだった。
でも、俺の記憶にはそんなものはない、はず。
なのに、あたかも経験したかのような記憶がある。
昨日の寝る前に考えていた事も未だ覚えている。
だから、夢あの記憶は何だったんだ。
明確なのは、恐らく、転校、拓人と別れてからだろう。
なのに、記憶上にはない。覚えている、はずなのに。
不安になる思考を他所に体がいつも通りに時計に向かう。
視界に移した時には時刻は10時を回ろうとしていた。
「…。」
枯れた所為か寝起きの所為か声が出なかった。
今はそんな事を気にせずに、これからどうするかをベッドに腰掛けて考えた。
ふと、鼻に鉄の匂い。
そうだな、服、洗わなきゃな。
とりあえず、制服と下着を持って風呂場に行く。
服を洗濯機に放り込んで、遠目でしか見た事ないが母の真似をしてみる。
洗剤を、元の量が分からないが一応多めに入れて、「スタート」のボタンを押す。
洗濯機が騒々しい音を立て起動し、次期に洗濯が始めた。
それを確認して、シャワーを浴びた。
念入りに、覚えているだけの血がついた箇所を入念に洗った。
いつもの倍以上時間がかかった。
洗い流しても不安感に駆られまた洗う。
洗濯もきっとそうだろう。
シャワーが終わってもまだ洗濯機は絶賛稼働中だった。
「…」
下着をはいて次にする事を考えた。
そういえば、昨日から何も飲んでないな。
風呂上がりもあって水分を欲して冷蔵庫を目指しリビングに向かう。
入る直前立ち止まって、無いはずの 死体を跨またいで行った。
水道水をコップ一杯飲んだ。
口を軽く拭って、風呂場に戻って制服に着替える。
まだ洗濯は終わってない。
歯を磨いて待った。
自分が噛みついた事を思い出して、また三度ほど歯を磨きなおした。
それでもまだ洗濯機は落ち着いただけで終了の合図は出ていない。
「…」
とりあえず学校に行く準備をしに、玄関の消臭スプレーをありたっけ吹きかける。
それから、自分の部屋の見える所にある全てに何回か消臭スプレーを吹いて回った。
元あった量の半分以上を使っているのに重さで気づき、少し冷静になって、やっと準備を始めた。
靴下を履いて、ベルトをして、朧げな時間割を適当に鞄の中に詰め、財布を、
そういえば、財布も洗濯してるんだったな。
出来るだけの準備を済ませ、再び風呂場にやって来た。
ようやっと洗濯は終わっていて、蓋を開けるとクタクタの洗濯物がそこにあった。
それを確認して、臭わない匂いを気にしてまた洗剤をかけて洗濯機を起動する。
あ、財布取り出すの忘れてた。




