送り先
「待った。」
帰ろうとした俺は呼び止められた。
「なんだ?」
なんとなく面倒なことを言われる気がしていた。
「空、暗いわね。」
「ああ。」
ため息を堪えて、それはあくびだったのかもしれないが、とりあえず、今日は疲れた。
「はぁ…ま、期待した私が馬鹿だった。」
明日も学校とかふざけんなよ、と心の中で憤慨してると、幽は何かを待ってるように俺を見ていた。
「…ちっ、分かったよ、送るよ。」
「ん、よろしい。」
「んで、お前の家どこだよ。」
「教えるとでも?」
「あーー、帰りてぇ!」
「うるさい男。」
「はぁ…面倒くさい女。」
「つまりお似合いじゃない?」
「じゃない。」
「ほんと、甲斐性なし。」
「結構結構、なんとでも」
一々棘のある言い方をする幽に対して、流石の俺もね、グッとくるね、何がとは言わないが熱いものが込み上げてくるね。拳を握るほどの。
が、
「明日、学校来る?」
『学校行く?』と以前正義からサボりの誘いが来たのを思い出す。
「そうだな、」
サボったとして、家に電話来たとして、どうせ親が居ないのを思い出した。
「行くよ。」
正義になら『行くんじゃない?』と返していただろう。
でも今は、今の俺は、家に一人きりで長くいない方がいいのかなと思っていた。
かといって部活に入るでなし、そう言えばこれからは家事をしなくちゃいけないんだったな、全部。
いまさら自分が一人暮らしになったのだと、孤独になったのだと思い出した。
「そう、良かった。」
何が、
「心配なさそうだね。」
だから何が、
「また明日。」
幽は笑顔で落ち込んでいる俺の肩を叩いて、それはさながら友達のようで。
いつの間にか着いていたマンションの中に消えていった。
その幽の表情に思わず釣られて笑ってしまった。
自分は何を不貞腐れているのかと。
それからさっきより幾分軽い足取りで来た道を戻り
やっと家路に着いた。
誰に言うわけでもなく
「おやすみ」




