こしらえ
「よっと。」
上半身を勢いよく起こす。
先ほどのようにぶつかることは無く、体力も回復しているのでそのまま手をついて立ち上がる。
そして出口に踏み出そうとした時、
ズボンの裾を引っ張られた。
「ん?」
振り返ると尚も幽は可憐に座ったまま。
「貴方のせいで足が痺れて立ち上がれないんだけど。」
若干の上目遣いにドキッとする。
「だから、責任取って?」
俗世の男達ならこれで堕ちていただろう。
「…はぁ、それは悪るかったな。」
何とかため息を吐いて誤魔化す。
『これが俺じゃなかったら…』なんて今更な言い訳をしつつ、そうでもしないと俺も…
だから、屈んで幽を背負う準備をした。
「そこは友達なんだから、お姫様抱っこでもいいんじゃない?」
「おも…俺にそんな力は無い。」
「そんな筈はないよ。
貴方はその為に努力したんだから。」
「何の話だ?」
「ま、ソレはまた今度でいいや。
とりあえず」
手を差し伸べられた。
「ん。」
それを握り引き寄せた。
立ち上がった幽はそのまま手を繋いでる。
「お腹空いてない?」
そのまま手を引かれ、案内されたのは別の階の廊下。
転がっている死体。
「ちょっと時間経ってるけどイケるでしょ?」
「いや、ない。」
「えー。後で私襲われるのヤだよ。」
「何でそうなる。」
「だって、あなたはもう人間じゃないから。」
「…。」
「気付いてるんでしょ?
で無ければ今頃生きてるのはおかしい。」
「…。」
自分も胸に手を当てるとまだ血が付いている。
確かに刺されたんだ。
「力の代償。
今の内に食べとかないと後々面倒くさいよ。
それに私にも迷惑がかかるし。」
「何でだ?」
「貴方が私を守るんでしょ?」
「いや、何でだよ。」
「だって、それが友達でしょ?」
「…」
そうか、こいつは…
兄弟は居ないが、昔は公園で学年の違いを気にせず色んな子と遊んでいた。
泥まみれになって遊んだ事もある。
けど、血まみれは初めてだ。
「どう?」
「知らん…」
骨以外の食べられる所は食べた。
驚くほど抵抗は無く、それほど時間もかからなかった。
「で、この後どうすんの?」
「まあ絵の具でもばら撒いとけばいいんじゃない?」
「骨は?」
「理科室の薬品で溶かせば?」
「…。
慣れてるんだな…」
「別に。
これが初めてじゃないし」
血を水で流してノコギリを片付ける。
ついでで赤い絵の具を何種類か取った。
その間に幽が適当な薬品を取ってきた。
「さて、実験を始めよう。」
目を輝かせている幽。
とれる血は雑巾で拭きとり、染み付いたのには上から絵の具を塗っておいた。
「そういえば、俺の死体は?」
「私が食べた。」
「…あっそう…」
「意外だった?」
「いや、予想もしてなかった。」
「ふふ、本当はあそこで死ぬはずだった貴方を助けたんだから、高くつくわよ。」
「ああ、ありがとう。」
「いえいえ。」
「さ、帰ろ。」
大体の片付けを終えた。
日が昇るまでにはまだ時間がかかりそうだ。
階段を降りて昇降口を抜けた。
二人とも最初から靴を履いたままなので下駄箱で履き替える必要はない。
が、癖で元の自分の場所の前で止まってしまった。
「どうかしたの?」
幽に言われるまでただジッと無いはずの自分の靴を下駄箱から探していた。
「いや…なんでも。」
グラウンドを抜けて、街灯に照らされている校門を目指す。
「お前、登れるか?」
当然校門は閉まってる。
出るとしたら登るしかない。
「…つまり下から覗き見たいと?」
「…。
どうしてそうなる?」
疲れてるんだから俺にツッコミを求めないでくれ。
「じゃあ俺が先に登ればいいのか?」
「それだと私が登れないけど?」
「…。」
ため息も出ない。
「俺がそこで台になるから。」
周辺の小石を退けて四つん這いになる。
「ああー」
なるほど、と幽が何故か得意な顔をする。
「踏めばいいのね。」
何やら様子がおかしい。
幽は先ず左足を乗せた。
左足に力が入る。
「ん?何してるんだ、早く乗れよ。」
「両足で乗るの?」
「おう。」
「はい。」
思ったよりキツイかも。
「いけるか?」
「こっちのセリフじゃなくて?」
何やら幽が誤解してる事に気付いた。
こいつは頭がおかしい、ってことを忘れてた。
「いいから、そっから門によじ登れ!」
「え?」
そろそろ限界かも。
「こんなの飛び越えればいいでしょ?」
「は?」
「よっと」
俺の背中から降りて幽は門と距離をとった。
幽はスカートだと言うのを気にせずに、
門に吸い寄せられるように両手を着き、両足を綺麗に畳みながら、
鮮やかに、軽やかに校門を飛び越えた。
ザッ、と着地して汚れていないスカートの誇りを払う。
その華麗な一連の動作に釘付、心を奪われ、感動すら覚える中、思わずため息が出た。
そのため息には色んな感情が含まれる中大半は呆れだったのを何を勘違いしたのか。
「あらやだ、惚れちゃった?」
小首を傾げて可愛らしげに挑発してくる。
「んなわけあるか!ちょっと待ってろ。」
一方の俺は校門を惨め(?)に柵の間に靴先を無理矢理差し込みほぼ腕力で登って越えた。
幽に比べると時間がかかるわモタモタしてるわで、何故か情けない気持ちの中着地した。
幽は俺に何か言いたげな顔をしていたが、
気のせいだろう。
さて、帰るか。
長かった。何もかも。




