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贈りもの  作者: lycoris
1.離別
39/73

'大山友慈"

ズズズ

夜の調理室に茶を啜る音が2つ。

「ふぅ…」

友慈がため息を漏らす。

「さっきと味が違いますね。」

「口に合わないか?」

「いえ、これはこれで。」

「ならよかった。そっちも大丈夫か?」

聞かれるまで確証は持てなかったが、不味くはないので頷く。

それをみてサンタは満足そうにして自分の分のも注ぐ。


「まあお前を恨んだと言っても、ほぼ逆恨みだけどな。俺とお前は同じはずなのに違う。そしてその違いは有無の差が殆どだった。俺に両親はいない。お前があの絵を手放した時に、呪いによって誕生した。

俺に親友はいない。生まれたばかりの俺は友達が少なかった。だが、お前に負けまいと中学で友達の数を増やした。それでもそいつらの中に胸を張って親友だと呼べるような奴はいない。所詮なりふり構わない付け焼き刃のような奴らが多かったから表面上だけだったかもしれない。

俺はバカだった、お前以上に頭が悪い。

だから必死に勉強してお前と同じ高校に何とか合格した。

合格発表の日は舞い上がっちまったよ、そこに居たお前に声を掛けるほど。ただ、覚悟しておけよと言いたかったのかもしれない。悲願に一歩近づいたと。」

何でだろうな、さっきから延々とこいつだけが喋り続けている。

おかげでさっきまで眠かったのに、今は…

「だがよ、どれだけ俺がお前に近づこうとしても、

俺に親はいない、親友もいない。

変わらなかった。頭はどうにかなるがよ、コレだけは変えられなかったんだ。だから、

だからおまえからも無くしたのさ。くくく。亡くしたのはお前なのによぉ!くわっははははは」

友慈は歪んだ笑顔を浮かべ一人でドッと笑い出した。

上手いこと言って笑ってるのか俺への挑発か。

しかし、わかってはいても腹が立つな。

いつもならこのまま拳でも握って我慢してるのに、今日はなんだか…



「ふんっ!」

バチッ!

友慈を殴ろうと放った俺の拳をサンタが受け止めた。

「…」

「やれやれ、休戦中じゃなかったのかよ。」

「お、おっと、ありがとうございます。たぶん先生が止めてくれなきゃ俺は反応出来ずに殴られてたと思います。」

「結果殴られなかったのだからいいだろう。それに俺もそろそろ持ち場に戻ろうとしてたところだ。これを飲み終わる頃にはな。だから、そろそろまとめてやってくれ。」

「はい。」

「…」

受け止められた手を払い、椅子に座る。

落ち着くために一口茶を啜った。


今日はおかしいな。

ファンクラブの奴を殺した時も今と似た感覚だったな。

何だろうな、自分が分からないというか…

黙って考え込むも早々に友慈がニヤけ面でさっきの続きを始めた。

「お前も思ったことあるはずだ。『勝たなくても、勝てなくてもいい。負けなきゃそれでいい』と。いい考えだよなぁ。俺も気にいってるぜ。だーかーらー、実行したんだよ。負けなきゃいい。お前が俺に優っているというのなら、俺が優れるのではなく、お前を劣らせればいい。そこからなら幾らでも勝負が出来る。勝機も。」

そういえば、こいつは俺だったな。

俺にこいつは分からない。

でもこいつになら今の俺が分かるのだろうか。

「それが、今日!

今日この場所で俺はお前に勝つ!!

ふふふふ、長話が過ぎたな。そろそろ幽も起きる頃だから俺は先に出てるわ。じゃあな。」

俺の思いなど知らんとばかりに友慈は勝利宣言を言い切ると持ってきた物を雑に片付け、出口に向かった。

出て行ってドアを半分閉めて止まった。

「先生、ごちそうさまでした。また、いずれ。」

「おう、そっちのも美味かったって伝えといてくれ。あるとするならば、また会おう。」

「はい、絶対に。それと大山、俺は2階で待ってる。最初に居た場所だ。もう時間もないし、鬼ごっこはここら辺にして、とっとと終わりにしようぜ。エンターテイメントはもうクライマックスだ。まあ、お前が怖気ずくのなら鬼ごっこを続けてもいいんだがな。もっともお前なら」

バタン。

そこで話を区切り友慈はドアを閉めきった。


やはり友慈は俺を分かっているのか。

分からない。


おしゃべりがいなくなったので当然静かになると思いきや、次に口を開いたのはサンタだった。

「まだ、あいつにも言ってない事があるんが…長いが、どうする?」

俺は急いでいないし、サンタの話にも興味があったので頷いて答えた。

「では。ごほん。」

口に手を当てわざとらしい咳払いをして、話が始まった。

「うむ、大山友慈、お前とお前の分身は互いに削りあって生きている。大体逆になるように調整されている。

お前の視力が減ればあいつの視力は上がる。そんな感じに。

だが、物理的なものは最初にあるものの有無で決まる。

例を挙げるなら親や彼の言う親友ってところだな。

そして物理的なものでないのは、学力や体力みたいなものだな。

まあ、体重や身長なんかはお前と一緒になるようになってるらしいが。

それで、

最初、生まれたての彼を見つけた時、素直に醜い、哀れだと思ったよ。

なんせ親もいなければ友人もいない。彼を支えるのは誰一人と居ない。それに加え何も見えず、聞こえず話せず嗅げず味わえず。立てるようになるのにしばらくかかったよ。

そんなヘレンケラーも真っ青な彼も、彼女と同様、ゆっくりだが次第に普通の人間に近づいて行った。

だが、普通の人間には、ヘレンケラーにはなりきれなかった。それはやはり親、教師の支えが無かったからだ。」

長いと言ったが予想外だった。

サンタはわざわざ途中に間を設けて話す。

その口調は聴きやすいが退屈だった。

「だから…」

勿体ぶっているサンタは友慈のような、いや、それ以上の笑みを浮かべた。

それは寒気がするほどの。

「だから俺が教師として、親代わりになってあいつを育てた。

あいつの中のお前への憎悪も含めて。

あいつが最初から唯一持ち続けてたのはお前への恨みだけだ。何も分からずともお前を恨んでいた。呪っていた。

見ていて滑稽(こっけい)だったよ。

ただひたすらに恨みだけでお前に追いつこうとするあいつも、何も知らずのうのうと恨まれながら生きてるお前も。だから俺はあいつにメガネを買ってやった、勉強も教えてやった、補聴器なんかも揃えてやった。

それだけやってあいつはやっとお前に追いつけるんだ。

どうだ、優越感は?

だが早まるなよ、あいつが良くなればなるほどお前は悪くなるんだからな。

だがな…」

ここで一旦区切ってためを作った。

俺の反応を伺うためか。

「まだ続くが、どうする?」

「友慈は無視していいですよ。」

「案外冷たいんだな。まあ似たもの同士というかまんま同じだからな。どっちかが熱血タイプでもいいと思うが、難しいものだな。」

「どっちかがまだ冷めてるだけで実は熱い奴かも知れませんよ。」

「自覚無しか。話がそれたな。まあここからが面白いんだ。

それでだな。物には限度が、限界がある。

いくらあいつがお前から何かを奪おうともそれが尽きたらそれ以上は奪えない。お前が無限にもつものは何一つとないはずだ。そこで、とある問題が生じる。

寿命も半分にしてると言ったが、それがもう尽きかけている。

簡単に言うと、あいつがお前から奪う寿命は全体の半分だ。お前が死ぬ時あいつも死ぬ。その逆も(しか)り。

全体の、"大山友慈"の寿命が【32歳まで生きる】ものとしたら、お前とあいつでこれを半分にしている。つまり"大山友慈"という人間の寿命は2人になったことで【16歳まで生きる】ものになった。これはあくまで具体的な例えだが、あいつが言うには半分になった"大山友慈"の寿命にあまり余裕はないらしい。」

「それで?」

話に釣られて思わず相槌を打っていた。

サンタはそれに満足したようで、笑顔で続けた。

「問題には必ず答えがある。そうでなければそれは問題とは別の呼び方をすべきだ。これでも私は教師なんでね。

まあ私の持論は置いておいて。

あいつがそうだったから、もう何と無くわかってるんじゃないか、答えが。」

サンタは二ヤケながら答えを問いかけてくる


友慈は…

話の途中から探し始めていた答えが、

あいつの顔が浮かんだだけですぐに、(おぼろ)げだが見つかった。

「…2人分を、また1人分に戻す。」

「つまり!?」

後はそれをハッキリさせるだけ。

「片方を消す。」

「はーっはっはは。さすがだ!いや、ヒントを与えすぎたか?まあ(なん)にせよ正解だ!」

期待するように俺の答えを待っていたサンタが盛大に笑い出した。年相応のおっさんらしい豪快な笑い方だった。

「そうだよ、消せばいい、殺せばいいんだ!あいつは一石二鳥だと言って舞い上がっていたよ。ふはははは。」

これで、今宵の奇妙なエンターテイメントの真の目的が明らかになった。


「ははは、いやあ、ふふ、まあ、ふぅ。

ふっ、すまないな、少し前言撤回させてくれ。」

サンタは溜まった涙を拭いながら調子を整えている。

訂正があるようだから、先を促した。

「どこをだ?」

今度こそしっかりと整えてサンタは再開した。

「ふふ、はー…

あれだ、あいつのは言ってないってところをだな。

あいつは自然と自分の死期を悟ったようでな、だからそこだけは教えてやった。もう1人がお前の寿命を半分にしているってね。

それ以上は教えていないが、自分で見つけたんだと思う。お前への恨みでね。」

訂正内容はどうでもいい内容だった。

「そんな事ですか。」

「ああ、ただ寿命以外は教えてないが、たぶんもう感覚的に分かってると思うぞ。」

「良かったじゃないですか。直感的熱血タイプは彼ですよ。少なくとも恨みに燃えてるわけだし。」

「気が早いな〜。まだ2人共生きてるんだから、断定するには早いよ。

まだ、だけどね。」

「今日で決まるといいですね。」

最後に残った少量の茶を飲み干し、席を立った。

「それじゃあ話がそれだけなら俺はこれで。」

「ああ。と言いたいところだが、まだ続きがある。」

「何ですか?」

重要な話の続きは当然重要であるはず。と思い、再び椅子に腰掛けて聞く体制に戻った。

「お前は一方的に削られるのは理不尽だとは思はないか?」

口振りからやはり重要な話だと分かったので素直に答えた。

「そうですね。」

「だから俺はお前にそいつを渡したのだがね。」

サンタは俺に渡したノコギリが入っている俺のポケットを指差して言った。

渡されたノコギリは、刃が持ち手にある溝の間に収納されるようになっている片刃の物で、大きめであるが畳んでしまえばポケットに収まるほどで、今は畳まれて俺のポケットの中に入っている。

友慈が気付いているかは分からないが、まもなくこれを使って戦う事は明白だった。

「助かりま「だがな。」」

サンタが人の礼に割って入った。

「だがな、どれだけ優れた武器を使おうと使用者によって結果が変わる。何て事は良くある話だろう?実際お前がそれを使ったって運動神経のいいあいつを傷付けられるか、い「使い方によっても結果は変わりますよ、先生。」」

サンタの方を見ずに視線を机の上のティーカップに向けながら、意識をポケットの中のノコギリを弄っている手に集中させて言い返した。

「ははは、これはこれは。要らない心配だったようだ。

どうやら熱血タイプはあいつで決まりのようだな。

君は中途半端ではない、面倒を通り越して面白いよ。

根っからかそれとも既に戻って来ているか。」

「分かりやすく言ってください。」

「その反応からだと後者のようだな。さっきの話の続きも絡めて言うと、お前は徐々に元に戻ってきている。削られた部分が修復されつつある。」

「その代わりに友慈が。」

「そう、そういうことさ。ただ単に戻るだけじゃない。

あいつの全てがお前に吸収される。

呪いが薄れて来てるんだよ。寿命が縮まるのと同時にお前は段々と元に戻る。

だが、完全に戻ったと同時に寿命が尽きる。と、言いたいんだがな、あいつがお前を越えようとがんばった分が加算されて元のお前を超えたお前になる。

良かったな、何の努力もしないで必死に頑張った奴の力が手に入るんだ。

ま、結局死ぬんだが、死んだ上でその加算分が追加されて行くんだがな。」

「あまり興味はありませんが、要は勝てばいいですよね。」

「そこでさっきの話に繋がるって訳さ。いやー、理解が早くて助かるよ。」

どうりで運動不足気味の俺がさっきあんなに走り回れた訳か。

「そんな訳で奴は焦っているんだ。段々と薄れて行く自我と力で得体の知れない不安を感じている。そろそろ行ってやってくれ。」

「話は今度こそ終わりなんですね。」

「ああ、長々とすまなかったな。ここまで話して何だが、こんな話を信じるのか?」

「自分で話しておいて何を言ってるんですか。それに実体験もありますので信用出来ます。話だけは。」

「はっはっはっはっは。そう、それでいい。お前はそういう奴だ。」

今まで不気味な笑顔ばかりのサンタが屈託のない自然な笑顔を見せた。

それに少し面食らっているとまた白い袋から何かを取り出した。

「これもお前に必要な筈だ。餞別として持って行け。」

渡されたのは一枚のカード。

見覚えあるそのカードを表に抜けるとやはり予想通りの絵面だった。

「このカードは!何であんたが!?」

「お前の持っていたカードよりも新しい。大事に持っていろよ。」

「そんな事よりどうし「良いから行け!言ったはずだ、あいつは焦っていると。この機会を逃すと今後何をしでかすか分からんぞ。決着を付けるなら今日なんだ。」」

カードの事が気掛かりだが、答えてくれそうにないようだ。

確かに言う通りだ。

引き下がってこの場を去ることにした。

「納得いきませんが、そこまで言うなら。」

「すまんな、俺のわがままで。今日だけなんだ、あいつがお前と対等に、全力で戦えるのは。」

「分かりましたよ、散々言われたら。」

これで何度目か、椅子から立ち上がる。

今度こそは止められなかった。

「ははは。相変わらず、お前は賢いな。それでいてやさしい。安心しろ、お前が渡したカードはちゃんと彼が持ち続けている。」

「それを聞いて安心した。だが、あんたに俺の何がわかるんだよ。」

出口に進みながら、相手を見ようとせず吐き捨てた。

わざと音を鳴らすようにして、近くにあった箸入れから数本引き抜いた。

「信用してくれてありがとう。残念だけど、全ては知らないよ。知っていることだけが全てさ。俺が知ってるお前が俺にとって全てだ。

時期にお前も俺の事を思い出す。その時を楽しみに待ってるよ。」

足が勝手に止まった。

ドアに手をかけて振り向く。

「"生きていたら"でしょ。」

「言わないでおいてあげたのに。だが、そんなお前だから

負けないさ。頑張れよ、友慈!」

先ほど困惑した笑顔を向けられた。

名前を呼ばれて照れくさくなった。

それ以上サンタの顔を見れなくなるほど。

だが、それらには不思議と懐かしさがあった。

そんな感情が湧いてくると、一緒に体が軽くなって、力が湧いてくるような気さえする。

この気持ちを抱いたまま、入った時とは真逆に、堂々と調理室を後にした。





「だが、死んでも思い出すのさ。さよなら、友慈。」

調理室は、大山友慈が出て行った後、片付けをする物音がなり、それが止むとドアが開いた。

1階の廊下に響く1人分の足音はそのまま職員用出入り口へ向かって行った…

上の階とは違い、そこは平穏であった。






今回は長めになりました。それでもお付き合い頂きありがとうございます。


ほぼ解説回の中説明がほぼサンタからなので、前回の友慈(ドッペル)を追い抜くくらいサンタがお喋りでした。

『サンタが言うには・・・ということらしい。』というのもありますが、私としてはその時のサンタと友慈の反応を書きたかったので会話形式にしました。

サンタさん長文お疲れ様でした。


そんなサンタの口からは大山友慈を分けるために"お前"と"あいつ"を使用したのですが、分かりづらかったでしょうか?

こちらも私の好みでそうしています。ので、(本文と一緒に)ご理解頂けるとありがたいです。


最後の方の補足ですが、主人公が懐かしんだ『それら』はサンタの笑顔と名前呼びに対してです。

自分でも分かりづらいと思いましたので一応。他にもありそうですが、切りが無いのでそれぞれの脳内変換でお願いします。

改善は心掛けているんですが、書いているとどうしても…

まあ、いっか。という悪魔の囁きがよく聞こえてきます。

すみません。


箸は2本で1膳だと思ってますので、本でいいですよね?日本語おかしいところ多いけど大丈夫ですよね?

その辺も脳内変換でお願いします。


本当に最後になりますが、

あんまり時間が取れず更新が遅れてすみません。

次回も遅くなります。気長にお付き合い頂けるとありがたいです。


それでは

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