赤いあいつの白い髭
「ハァ…ハァ…」
駆け足とは言え最近ろくに運動して無かった上に、3階からだから結構疲れる。
だが、目的地はすぐ目の前だ。
敵影も無し。
そのまま鍵を使って開ける。
出来るだけ慎重に、中の様子を覗き見ながら。
中には誰も見えなかった。
よし、と途中から開ける速度を上げ、半身で入れるほどになると手を止め中に入って閉めた。
さて、お目当ての包丁を探す。
始めて入ったが、いつもここで給食を作っていたのか。
たまに母親が弁当を作れなかった時にはお世話になったが、あまり印象に残ってないな。
カレーうどんは美味かった。
そこまで広くはないが複数人で調理してもぶつからない程度の広さはあった。
見渡せば大体把握出来るが、窓の代わりに換気扇がちらほら付いていて月明かりがささない、影ばかりで視界が悪い。
隣の食堂は所々に月明かりが漏れているがさすがにこっちまでは届かない。
明かりを付ければすぐにでもバレるだろう。
たとえ一瞬でも。
そんな気がして止まないので、自分の足を使って探し回った。
心臓の鼓動で他の音が聞こえていなかったが、冷蔵庫に近づいた辺りで人影と物音に気付いた。
鍵はしまっていた筈だぞ。
内側からの鍵は付いてない。
ずっとここに居たのか?
いや、食堂側から回って来たのか?
どちらにせよ、友慈ではないはずだ。
「誰かいるのか?」
気にしてもしょうがないので、呼びかけて見た。
「ん?そっちこそ誰じゃ?」
返事は一応帰ってきた。
「ここの卒業生だ。あんたこそこんな時間にどうしてここに?」
「ほー、そうじゃったか。」
最初の言葉には反応したが、最後の質問には答えなかった。
ごそごそしていた手を止め、影がこちらに向かってくる。
そして、闇の中でも分かるほどの白髭を携えたおじいさんの顔が目の前にぬっと出て来た。
その時点で友慈じゃないと確信した。
だが、安心は出来ない。
闇の中、お互いにお互いの顔をジロジロと見回す。
やっと闇に慣れた目で見回すと、おじいさんの姿に見覚えがあった。
それは誰もが知る、サンタクロースだった。
数秒見つめあって、サンタはやっと顔を離した。
「ほー、ほー、ほー、これはまた。ふむ。」
おじいさんは何かに納得したように髭を上下に弄っている。
どうやら質問には答えてくれないようだ。
「なあ、あんた。こんな時期・時間に何してるんだよ?」
もう6月の半ばだ。地球温暖化の影響か、既に暑くなって来ている。なのに夏休みにはまだ1ヶ月もあるという。
そんな中このおじいさんは北半球でこんな格好で何をしているのか、疑問に思わない方がおかしい。
「ふむ…」
サンタはどこか宙を見つめながら未だに髭を弄っている。
耳が悪いのか無視しているのか。
そのどちらかだとしても、共通の解決策がある。
「なあ、サンタさん。こんな時間にどうしてここに?」
しつこく聞くのが得策だと俺は思う。
「ん?ああ、おおう。ほっほっほ。まあ、そうじゃな。『おぬしに会いに来た。』ってことじゃダメかの?」
やっと気づいた挙句、間をあけてからの質問を質問で返す。
このサンタ、ただのサンタじゃないな。
…
そりゃあこの季節にこんな格好してるのが正常な人間っていうのも無理があるな。
「ダメだ。」
「ふむふむ、とな。なら、『おぬしに贈り物がある。』ならどうじゃ?」
ハッキリしない奴だな。
顔を見た時にそこまで老けてはいない事に少し驚いたが、見た目の割りに中身はだいぶ高齢者なのだろうか。
「んー、中々わがままじゃのお。確かにおぬしに渡すものがあってこの場に来たんだが、ここに居るのは腹が減ったからで…うーむ。」
黙ったまま様子を伺っていると、サンタが独り言を始めた。
離れた距離ではないので、はっきり聞こえた。
「最初っからそう言えば、いいじゃないか。」
「ん?ああ、それで納得してくれるならそれでいいのじゃが…それで、おぬしは何をしにここに?わざわざ受け取りに来た風にも見えぬが。」
サンタに気を取られていて当初の目的を忘れてしまっていた。
「武器の調達。」
「そういえば、喧嘩の最中じゃったな。なら丁度いい、ここの包丁の棚は鍵がかかっていて空かないんじゃ。これを持って行くといい。」
サンタが自分の後ろにあった白い大きめの袋から何かを取り出す。
どうやら先ほどは袋で何かをしていたようだ。
「ほれ、こいつが欲しかったんじゃろ?」
サンタは自分に刃を向けてノコギリを差し出した。
見覚えのあるそのノコギリは、この学校の美術室に置いてある、安全を考慮して片側にのみ刃が付いた大きめの片手サイズのノコギリで間違いなかった。
「あんた、これ?」
「ん?要らないのか?」
「いや、あ、ありがとう。」
予想外のものが出て来たから戸惑ってしまった。
「ほっほっほ、これくらい気にするでない。
む、ちょっとこっちに来い。何もしないから、ほれ、早く。」
サンタが手招きをする。
信用していいのか分からないが、ノコギリの礼として従った。
「よしよし、じゃあそこで屈んでおれ。
なに、少しの間だ。」
サンタが調理台の影を指す。
そこにしゃがみ込むと、サンタが前を塞いだ。
暑苦しいサンタを退けようとした時、調理室のドアが開いた。
「ん?誰だよ、あんた?」
ここからは見えない。
立ち上がれば見えるが、サンタの指示もあるし、嫌な予感がしてたまらなかった。
どこかで聞き覚えのある声。
あと少しで出てきそうなその人物の質問にサンタが答えた。
「ほっほっほ、やはりおぬしか。久々じゃのお。暗くて見えんか?それとももう忘れたか?」
「あんたは…」
「おっと、待て待て。急に電気をつけようとするな。わしは鳥目じゃから勘弁してくれ。」
「すまん。」
「いい加減気づかんか、友慈。」
「あっ!先生ですか!?すみません、暗くて気付きませんでした!」
「ああ、いやいや、いいんだ。暗いし仕方ない。それにしても、もう夜だからもう少し静かにしてくれ。目は悪いが耳はまだ大丈夫だから。」
急にサンタの話し方が変わった。
さっきまで年寄りを装っていたのか、友慈に『先生』と呼ばれてから話し方が若くなって、それこそ先生が生徒と話すかのように。
「それで、俺がここに居る理由だったな。
簡単だよ、腹が減ったからだ。ほら、お前も食うか?」
そう言ってサンタは俺の隣置いてある白い袋からタッパーを取り出して、開けずに友慈に見せる。
「あ、自分の分は用意してあるんでいいですよ。なんなら先生も一緒に「いや、いいよ。俺はこれを食ってるから。」」
「そうですか。ところで、友慈の奴を見ませんでしたか?」
「ここに居るのは知ってるが見てはいないな。」
「そうですか。見かけても手助けとかやめて下さいね、不公平ですから。」
「残念だが、それは俺が決めることだ。と言っても、友慈と会えればの話だが。それにお前が必要としないだけで向こうは要るかもしれないぞ。」
「それもそうですけど…なら本人が望むなら、少しだけ助けてやって下さい。」
「結局最初から最後までアンフェアという訳だ。ツケが回ってきたと思え。」
「はい、わかりあした。それでは俺はこれで、お邪魔しました。」
「いや、いいんだよ。また何かあったら来なさい。出来ることならしてやるから。」
「はい。それでは。」
「ああ、がんば…いや、最後まで楽しめよ。」
サンタの挨拶の後にドアが閉まる音がした。
その後、サンタは屈んで袋から筒を取り出した。
筒からは香しい匂いがした。
サンタがその筒を取り出すと一緒に、もう片方の手で俺の頭に手を乗せて「まだだ。しばらくそのままにしてろ。」
と囁いた。
しゃがむのに疲れて、尻を床につけて調理台を背もたれに座る。もう友慈は去ったのだからこれくらいはいいだろう。
サンタも姿勢の変更を見ていたが文句は言わなかった。
サンタは黙々と調理室内を漁って、ヤカンを見つけてくると、そこに筒の中身を入れた。
あれは茶筒だったのか。
サンタはそこに水道水を入れ、コンロに乗せてガスの元栓をひねり、火をつけた。
沸騰を待つ間に食堂から湯のみと椅子を2つずつ拝借して来た。
それらを向かい合うように並べると、
「ほれ、もういいじゃろう。」と言って、立ち上がる許可をくれた。
「よこいっしょ。っと。」
まるで集会の時のような疲れが体を襲った。
座る時にはヤカンは沸騰して、もう少しもすれば騒ぎだそうとしていた時にサンタが火を止めた。
「紅茶じゃが、構わんな?」
返事を待たずにそれぞれの湯のみに注ぎ始める。
「それはいいけど「砂糖なら自分で探して入れてくれ」」
このサンタは人の考えを読みすかしたような時が度々あるような気がする。
気のせいではないだろうが。
とりあえずは黙って紅茶を一口飲んだ。
いや〜、更新したと思ったらして無かったでござる〜。
なんて言い訳も考えたんですが、すみません。
忙しさに放置してました。
遅れることを掲示したことに甘えてサボっていた、もとい放置していました。
ですが、投げ出して失踪なんてする気はありませんので。
当然ながら拾い札の方の続きも考えてあります。
ただまとまらないだけなんです!というか、この作品のネタバレを含むと思い、一時停止してるだけです。
はい。ほんとうです。
そんなわけで久々なので、誤字脱字などがあるかもしれませんが、大目にお願いします。
ちゃんと更新は続けますのでこれからもよろしくお願いします。
それではまた次回。
本当に遅れてすみませんでした。
とりあえず、調理室の設計でも書いてお別れです。
調理室の中心に長い調理台があり、壁側にそって食器や調理器具などが揃えてあります(もちろん戸棚などの中に)。
それで、一方の側面は、洗い場で付近にポットや大きめの冷蔵庫など。
もう一方が食堂と一部繋がっててそこから食事を手渡せる様な空き空間と、コンロや電子レンジが置いてあります。
食堂への出入り用ドアもあります。
食器返却口は無く、わざわざ外でまとめてからこちらに持ってきます(設定ミスとかじゃないんだからね!)。
それでもって窓はなく、換気扇が何個か。
といった具合でしょうか。
矛盾があったとしても優しく「こいつ馬鹿じゃね」みたいな感じで見逃してくださいお願いします。
それとサンタの「ほー、ほー、ほー」はサンタ特有の笑い声では無く、感心して何度も「ほー」と繰り返してる様子です。
分かりずらかったらすみません。分かってた方はなおすみません。
それではそれでは。




