お前はどうして、そんななんだ?
少し自分の演技に酔いしれた気分だ。
いや、そんな小さなことでいい気になってるんじゃねぇぜ。
あれを手に入れる。それが大事だ。
ぶん殴って、手に入れるってのもあるが、それじゃ、寝起きが悪いからな。
「待ってください」
よっしゃぁ。俺は再び、心の中でガッツポーズを決める。
振り返ると、男はごそごそとポケットに手を突っ込んで、昨日と同じことをしている。少し途中に変化はあったが、未来は変わっていなかった。
おい、待てよ。
そこで俺は少し気になった。
結局未来は変わらないのか?
いや、そんな事はない。現に、俺はワル共にからまれたではないか。
未来は変えられる。俺はそう確信した。
「助けてくれたお礼に、これを差し上げます。
これはある科学者が造った人生を一日リセットする装置なんです」
「はい?」
昨日と同じ返事を返しながら、今度は手を伸ばしてみる。
男はその装置を俺の手においた。
間違いない。昨日見たのと同じ物だ。
やったぜ!
俺は何とも言えぬ昂揚感に包まれた。
しかしだ、俺はすぐにこの男に聞かなければならない事があることに気付いた。
こんな便利な物を持っていながら、その姿は何なんだ?
それをはっきりさせなければ、俺は安心できないじゃないか。
ところが、俺がその事を口に出そうと思った時には、その男は俺が素直にこれを受け取ったためか、すでに俺に背を向け、よたよたと俺から遠ざかり始めているじゃないか。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ」
俺の声に男は振り向いた。
「これってさぁ。
本当に1日を戻せるとして、何か制約っちゅうか、何かそんなものがあるの?」
男は俺の問いの真意を測りかねているのか、少し首をかしげただけで、返事を返さない。
「ほ、ほ、ほらさぁ。そんな便利なものがあるんなら、じゃんじゃん使えばいいわけじゃん。
だったらさ」
俺はちょっと言葉を詰まらせた。
「あんたみたいになる訳ないんじゃね?
使うと何かがあるから、使わなかったんだろ?」
そう聞きたかったが、俺だって人様に言っていい事と悪い事の判断くらいできる。
これはさすがに言えない。
「だったら?」
男が何がいいたいんだ、はっきり言えよ的な表情で、俺を見つめる。
何か言わなければ、そう思い、俺は頭の中に色んな選択肢を浮かべた。
とりあえずこの場を取り繕うに足る言葉。
聞きたかったことではなく、そんな言葉が口から出てしまった。
「ほらさぁ、使うと命を吸い取られるとかさぁ」
な、な、何、言ってんだ俺は。江戸末期の写真の迷信じゃあるまいし。