台本どおりだぜ!
次の日の学校帰り、俺は駅を出て家に向かう途中、ずっと祈るような気分だった。
本当なら見たくもない光景だが、あの浮浪者みたいな男がいて、中学生どもがその男をいじめている事を。
しかしなんだ、電車一本違っただけで、その確率は下がるはずだ。俺は昨日と言っていいのか、今日と言うのか、本当にこの電車に乗っていたのだろうか?
公園の入り口を目の前にして、俺の鼓動はどきどきと高鳴っている。
一歩足を踏み入れる。ここは広い。出口の方で、あの事件が起きているのかどうかはここからでは分からない。
小走りで確かめに行きたい。しかし、そんな事は昨日、いや今日、どっちでもいい、昨日にしておこう。昨日はしていなかったはずだ。
はやる心を押え、普段のペースで歩いて行く。だがどうしても、視線だけは少しでも早く結果を確かめたいと、出口に向かう。
どんどん近づいてくる。
木々に隠れて視界から遮られていたが、そろそろ出口のあたりが見えてくる。
「やったぁ!」
そこに昨日と同じ光景が広がっているのを確認すると、心でそう叫び、ガッツポーズをした。後は、昨日と同じように俺は出口を目指す。すると、あの男が俺に助けを求めてくるはずだ。
俺は緊張に耐えながら、出口にいる奴らのところに足を進める。額から汗が流れるのは暑さからだけではなさそうだ。腕で流れてくる汗をぬぐう。
やがて、奴らの声が聞こえてきた。
「きっちゃねぇなー」
「お前さぁ、そんな生活していて恥ずかしくないのかよ」
「社会のごみだな。ごみは掃除しないとな」
一字一句同じかどうかは俺には分からないが、まあ昨日とほぼ同じような事を言っている。
「やったぜ!」
再び俺は心の中で、叫んだ。
俺は昨日と同じように知らんぷりをして、通り過ごそうとした。
「来た!」
服をつかまれたのを感じた時、俺はそう思った。
昨日の事を思いだしながら、振り返る。予想通りだ。俺に助けを求めてきている。
「助けてください」
うんうん。いいぞ。昨日のとおりだ。俺は役者気分で、昨日と同じことをやるだけである。
お前たちもうまくやってくれよ。俺は中坊たちを見ながら、心の中でそう思った。
俺から言えば、台本通り奴らは俺の周りにやって来た。
「弱い者いじめは止めな」
そう言った俺の言葉には、昨日以上に力が入っていたかもしれない。何しろ、俺の人生がかかった大勝負である。続いて、こうだ。
「ああ?どうなんだよ?」
昨日以上に気合の入った俺の威圧に、奴らが引き下がっていく。
「じゃ」
中坊たちが立ち去るのを確認すると、俺は昨日と同じようにそう言ってこの場を立ち去るふりをする。
何だか、映画の主人公のラストシーンの気分じゃないか。