カメラがあるじゃないか!
とても、俺の記憶力で手におえるものではない。
だとすると、記憶は他のものに任せるしかない。
そんな都合のよいものが???
ある!
俺はグッドなアイデアに思い至り、ポンと思わず手を叩いてしまった。
試験中の不審な俺の動きに、先生がじろりと目を向ける。
何でもありませんと言う雰囲気で、俺は再びテスト用紙に目を向ける。だが、それは表向きである。左手でズボンのポケットに突っこんでいるスマホを取り出し、立ち上げた。目的のアプリはカメラである。
俺は机の下で、カメラアプリが立ち上がったのを確認すると、おもむろにスマホでテスト用紙を写真におさめた。
チロリーン!
カメラのシャッター音が教室に響いた。当然、それに気付いた先生の形相は怒りモードである。
「誰だ!」
先生は教室を見渡しているが、当然クラスメートたちも音がした方向に目を向ける。
みなの視線が集まる中央にいる者が、その犯人である。
まぁ、俺な訳であるが。
予想外と意味不明な俺の行動に、クラスメートたちの非難の声がざわざわと聞こえてくる。
「何やってんだ、あいつは?」
「ばかなんじゃね?」
先生が俺のところにつかつかとやって来ようとしている。そんな事より、俺はもっと気になることがある。
奈央は?
俺は奈央が今の俺をどう思っているのかが気になって、奈央の席に目をやった。
奈央もみなと同じように、俺に視線を向けていた。それも冷たい。
俺の心は痛んだ。この場から一秒でも早く逃げ出したい。
ズボンのポケットから、あの装置を取り出すと、保護カバーを開け、ボタンを押した。
あの時と同じように、一瞬くらくらとめまいのようなものを感じ、俺は目を閉じた。




