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裏章壱 エレナ

 これは、本編では描かれない物語の裏の話です。本編が統也の視点で進む(場合によっては例外あり)のに対し、この章は本編の裏で起こった出来事であるため統也以外の人物の視点で描かれます。


 先ずは『裏章壱 エレナ』第二話と第三話の間の話になります。

 ファルセナール大陸は王国オルドロワがクリスト伯爵領ハルメイア。この街でレイル達が泊まっている宿所の一室に人影が二つ、レイルとエレナだ。

 他の三人は各々の用事を済ませているため、今部屋に残っているのは二人だけである。


「それで……レンジョウ、と言ったか。彼の事はどうするつもりだ? まさか、慈悲のみで助けたわけでもないだろう。態々助けたという事は、我々に同行させるつもりだな?」


 葡萄酒で口を湿らせ、レイルは団長たるエレナへと問いを投げかける。


「随分とあの遺跡に拘っていたようだが、それと関係があるのか?」


 そもそも、最近は隣国で活動していた彼らがこの街に来たのも、エレナの意向によっての事。

彼女がその決定を下してから今に至るまで、レイル達にその理由を語ってはいない。


「いい加減、教えてはくれないか。確かに俺たちのリーダーは貴方だが、だからといって最近の貴方の行動は不可解に過ぎる」


その問いに、エレナは小さく嘆息を返す。


「――そうね。私としたことが、少し焦りすぎていたわ」

「では?」

「ええ、教えてあげる。ただし、フィエナ達にはまだ秘密にしておきなさい。それが無理なら、教えることは出来ない」


 構わない、とレイルは先を促した。元より、フィエナがエレナの決定に異を唱えることはないし、ジーンもレイルが説得すれば一先ず追求を止めるだろう。

ナターシャに至っては、彼女の目的が達成できさえすればよく、いたずらに此方の事情に踏み込もうとはしてこない。


「あの遺跡の帝国が何故亡んだか、貴方も知っているでしょう?」

「……確か、後継者争いがもとの内紛で自滅したんだったか」


 国家凋落の原因としては、ありふれた話だ。嘗て大陸に覇を唱えた大帝国も、繁栄の末に王の権威は地に落ち、王族は我欲に塗れた俗物どもの権力争いの道具となる。別にこの帝国に限った事ではない。


「だが、それとどんな関係が?」

「これを見て」


 そう言ってエレナが差し出して見せたのは、刃に呪符の巻かれた一振りの長剣。呪符によって抑えられてはいるが、魔術師のレイルには、その長剣が放つ禍々しい気配が感じ取れた。


「……これは……、こんなものを一体どこで……?」

「彼――錬条統也を見つけた時に、その手に握りしめていた物よ」

「あの少年が――?」


 僅かに目を見開くレイルに、エレナは是と答えるように頷いた。話の流れからして、てっきりエレナがあの遺跡から回収したものかと思ったが……。

――然し、そうか。この剣が遺跡に封じられていたとして、あの少年がそれを所持していたとすれば、成る程エレナが彼を保護した理由も察しが付く。


 エレナの目的がこの剣だったのならば、それを持って遺跡に居たあの少年を捨て置く訳にはいくまい。しかも、彼の装備を見るに、いざ遺跡を探索しようという格好ではない。まるで、街中で過ごすような軽装ではないか――。

 そんなレイルの考えを悟ったかのように、エレナは首肯した。


「多分、貴方の考えている通りで間違いないわ。私があの遺跡に行った目的はこの剣よ。帝国末期に鍛えられた代物なのだけど、色々と曰く付きで……神殿の隠し聖堂に封印されていた――筈の『魔剣』よ」

「魔剣……」


 一般的には、恒常的な魔術を付与された刀剣の事もそう呼ぶが、エレナの言っている『魔剣』とはそれではあるまい。恐らくは、本来の意味での『魔剣』。即ち、人の手によらぬ武具か、若しくは悪魔や魔人の類が封じられたもの。

 エレナは、帝国末期に鍛えられたと言っていた。となれば、前者ではなく後者。既存の刀剣に、超自然的な存在を封じ込めた『魔剣』の事だろう。


「……色々と疑問はあるが、取り敢えずは一つ聞こう。その魔剣、封印されていたと言ったな?」


 ならば、なぜあの少年が所持していたのか? その問いに対して、少し考え込むようにした後、答えを返した。


「……そこは、私も疑問に思っている事なのよ。精霊に調べさせたのだけど、この剣が封じられていた隠し聖堂の壁の一部が、封印術式ごと完全に破壊されていたわ。恐らく、トロールに襲われたあの少年は神殿に逃げ込んだ。逃げているうちにトロールが聖堂の壁を壊し、逃げ切れないと思った少年は、中にあったこの剣を見つけて応戦した。けれど、力及ばず殺されかけていたところを私が助けた……そんなところでしょうね」


 でも――、と眉根を顰めながらエレナが続ける。


「――そもそもあの隠し聖堂、いくら掛けられた封印術が劣化していたといっても、トロール如きに破壊できるはずがないのよ」


 確かに、本来封印術とは物理的な力で破壊できるものではない。劣化したとはいえ、これ程の邪気を放つ魔剣を封じていた封印術だ。それが施された聖堂が、こうも容易く破られたとなると――


「――封印術が、解けていた?」

「そう考えるのが、妥当だと思うわ。問題は、何故それが解けたのか……ね」

「ふむ……」


 自然に解けたということはありえない。これ程の魔剣を封じる封印術が、そこまで脆弱である筈がない。ならば、何らかの外的要因によって封印が解かれたと考えるべきだが……成る程、エレナがあの少年を気にする理由はそれか。

 彼があの場に居た事と、聖堂に掛けられていた封印が解かれていたことが、全くの偶然とは思えない。

レンジョウ・トウヤがあの場に居たから、封印が解けた。その可能性があるからこそ、エレナは彼を助け、挙句我々に同行させようというのだろう。


「成る程、あの少年を助けた理由は理解した。――最後にもう一つだけ聞きたい。この魔剣、封じられているのは何だ?」

「……分からないわ。それについての資料は、何も残ってないのよ。多分、意図的に情報を隠蔽したのね」

「……そうか」


 恐らく、エレナは語っていないことがある。レイルに語ったことが全てなら、態々フィエナ達に隠す必要もない。

 だが、これ以上追及しても無駄だろう。エレナがこれ以上を語る事は、決してない。少なくとも、レイル達がそれを知る必要性が生じるまでは。


「ふう……。取り敢えずは、それで納得しておこう。もう直ぐ皆戻ってくるだろう。俺は一足早く休ませてもらう」

「どうぞ。私はこれの処理もあるから、今日も徹夜ね」

「処理……その魔剣、どうするつもりだ?」


 部屋の扉に手を掛けたところで、ふと気になってエレナに問いかける。


「あの少年に使わせるわ」

「なッ……正気か、エレナ! 何が封じられているかは知らないが、これ程の邪気の魔剣、使えば無事では済まんぞ……!」


 魔剣は使い手に類稀なる力を与えるが、同時に使い手を破滅の道へと誘いもする。強力だが、同時に極めて危険な武器だ。封じた状態で所持するならまだしも、実際に使用するなど正気の沙汰じゃない。


「もう遅いわよ。聖堂の祭壇からこの剣を抜いた時点で、彼は魔剣に魅入られているわ。下手に引き離した方が、何が起こるか分からないわよ」

「…………」


 レイルの剣幕を意に介した様子もなく、エレナはそう告げた。

 魔剣だのなんだのと、そういったことはエレナの方が専門だ。そのエレナが言うのならそうなのだろうが、それでも実際に使用させる必要があるとは思えない。

 だが、話はこれで終わりとばかりに、エレナはレイルから視線を外す。これ以上一切の問いに答える気はないのだろう。レイルの詰問するような視線を無視し、エレナは手元の魔剣を弄っている。


「……何れ、全て話して貰うぞ」


 最後にエレナの手にある魔剣を一瞥し、小さくそう呟いてレイルは部屋を後にした。



          †



 エレナは、レイルが部屋を出るのを確認してから、小さくため息を吐いた。


「……悪いわね、レイル。貴方の危惧していることは分かるけど、もう手遅れなのよ」


 最早、錬条統也が魔剣に魅入られたとか、魔剣を使うのは危険だとか、そんな次元の話ではなくなっている。そもそも、この魔剣に封じられていたモノは、既に解き放たれているのだから。

 恐らくは、錬条統也がこの魔剣の封印を解いたその瞬間だ。彼は、同時にもう一つの封印すら解き放ってしまった。数百年魔剣に封じられていたモノは、その時自らを縛る全てから解放されたのだ。

 だが、元々この世界の存在ではないソレは、自己をこの世界に括る楔がなくては、この世界で存在し続けることは出来ない。だから、解き放たれたソレは、新たなる楔となるべき宿主を探したはず。


「あの場でそうなりえたのは、ただ一人だけ……」


 相当深層に潜り込んでいるのか、エレナをして確証を得ることは出来ていないが、恐らくその推測に間違いはあるまい。ならば、彼こそがエレナの目的に対する重要な因子となる。


「祓え。祓え。祓え。我が祈りのもと浄化せよ」


 呟き、エレナは呪符の巻かれた魔剣の刃をそっと撫でた。仄かな光と共に、呪符が解ける様に消えていく。

 禍々しい邪気の消えた刀身に、今度はただの布を巻き、エレナは部屋の壁に立てかけた。

 ふと、エレナは何とはなしに窓から夜空を見上げた。

 冷たい月光を降り注ぎながら、赫い月が夜天に浮かんでいる。――彼の居た世界の月は、どんな色をしていたのだろう。


「……見極めさせてもらうわ。貴方が、本当にそうなのか……」


 静寂の夜空に、その呟きだけが静かに溶け込んでいった。


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