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Satan's contactor ~悪魔の契約者~  作者: 鬼柳堂
第一部 悪魔の契約者
3/5

第二章 誰彼

 おぼろげに覚醒しかけた意識の中、数人が会話する声が聞こえてくる。


「―――で、随分と大層な拾い物だな?」

「……あの遺跡に居たのよ、置いて来るわけにもいかないわ」


 揶揄するかの様な男の声に、どこか聞き覚えのある声が苦々しげに答えた。


「からかうのは止めなさいよ、ジーン。エレナが彼を拾った理由も気にはなるけど……そんな事よりも、これから如何するかのほうが重要よ。でしょ、レイル?」


 女の声が、男を窘める。それに同意する様に、また別の声が答えた。


「確かにな。正直な話、見ず知らずの他人を保護している余裕など傭兵の俺たちにある訳がない。エレナも、それはどう考えて――――」

「あ、まってレイルさん。この人、起きたみたい」

「―――――何?」


 まだ幼さの残る少女の声に、部屋に居た数人の視線が集まってくるのを感じ、統也はゆっくりと体を起こした。

 寝起きの気だるさに顔を顰めながら、部屋内を見回す。部屋の中にいたのは、五人の男女。聞こえてきた話し声は、彼らの物か。


「……目、覚ましたのね」

「――――――――」


 話しかけてきたのは、軽くウェーブがかったブロンドの髪を後ろで纏めた、金眼白磁の女。およそ今まで見た誰よりも端麗な容姿をしたその女の美貌に、統也は束の間声を失う。


 女は、そんな統也を興味なさげに一瞥し、隣の黒髪のローブを羽織った男に促すように目をやった。

 ローブの男は、その視線に呆れたようにため息をつき、統也に話しかけてくる。


「――――さて、体の調子はどうだ? 傷は完全に癒したが、何せ三日間意識がなかったからな」

「……三日? どういう――――痛っ!」


 寝かされていたベッドの上から起き上がろうとした統也を、不意に眩暈が襲った。体を崩し倒れかけた統也を、ローブの男が咄嗟に支える。


「大丈夫か?」

「眩暈が……」

「まだ覚醒しきってないんだろう。三日間眠っていた後なんだ、無理もない。……どうやら、特に異常もなさそうだな。起きれるか?」

「はい、……有難うございます」


 支えられながら、改めて体を起こす。今度は倒れることなく起き上がった統也を見て、ローブの男は頷き支えを解いた。


「話を続けようか。今言った通り、君は三日間意識を失っていた。君の負った傷自体は、直ぐに癒すことはできたのだが……如何せんあれ程の深手だ、見た目は癒えども失ったルーハはどうにもならんからな」

「深手――――」

「……覚えてない? いや、覚醒したばかりで記憶が混乱しているのか……」


 そう……、そうだ。確か、何処かの遺跡で身が覚めて、それから……――――


「っ……!」


 真っ先に思い浮かんだのは、巨人。身の丈三メートルを超す巨体に、大身おおみの石剣を携えた醜悪なる異形。

 そして、その巨人に与えられた死の恐怖。既にそれから逃れたと解ってさえも、尚統也の心を苛むそれは、紛れも無く現実のもの。生死の瀬戸際に立った記憶を思い出し、顔から血の気が失せるのを感じる。


「衝撃で記憶の一部を失った可能性も考えたが……。その様子なら全て覚えていそうだな」

「あれは……あれは、本当に――――?」

「トロールと会うのは初めてか? まぁ、傭兵でもなければ先ず会うことなぞあるまいが」

「トロール……」

「そうだ、トロールに襲われていた君をエレナが助けたのだが……、如何せんかなりの重症だったものでな。治療のためにこの街まで運ばせてもらった」


 確かに、意識を失う寸前に誰かを見たような覚えがある。


「しっかし、最初見たときは手遅れなんじゃねえかと思ったぜ。実際、あと少し治療が遅れてたら、冗談抜きで手遅れになるところだったからな」

「ナターシャが神官で助かったな。俺もエレナも、術師としての特性上、治癒の魔術はそこまで得意ではない」

「魔術……?」


 魔術。今のが聞き間違いでなければ、この男は魔術と言ったか。


「ああ、自己紹介もまだだったか。彼女、エレナ・ファーリエルとそこの少女――フィエナ・ファーリエルは精霊術師、赤髪の男は剣士のジーン。俺はレイル・ハーヴィ、魔術師だ。……まあ、剣も使うが」


 男は、そこで一度言葉を切り、白いローブを身にまとった妙齢の女性を一瞥した。


「――で、彼女が愛と豊穣の神アイレディーナの神官、ナターシャ・アイレディア。君の傷を治したのも彼女だ」

「え……あ……」

「ナターシャと呼んで頂戴。聖家名のアイレディアで呼ばれてもこっちが困るもの。でも、貴方を助けられてよかったわ」


 ナターシャと呼ばれた妙齢の女性が、柔らかに微笑む。清純なりしもどこか艶やかなその笑みに、統也は自らの顔に熱が上がってくるのを感じた。

 対してエレナは、依然として興味なさげに無関心を貫いている。そんな彼女に苦笑を浮かべながら、レイルは「さて」と話を続ける。


「今君の置かれている状況はこんなところだ。我々も君に聞きたいことがあるが――まあ、今あれこれ質問するのも酷というものだろう。取り敢えずは一晩ゆっくり休むといい。明日また話を聞きに来よう」


 これで話は終わりとばかりに、レイル達は席を立つ。


「それと、この部屋は好きに使ってくれて構わない、空腹ならば下に食堂もある。金は払ってあるから安心してくれ。――ああ、そうだ。君の名前を聞いていなかったな」

「あ……統也、錬条統也」

「レンジョウ・トウヤ……。響きからして東国出身のようだが、トウヤが名前か?」


 その問いに無言で首肯する。


「そうか。ではレンジョウ君、また明日」


 その言葉を最後に、レイルは部屋を出る。続いて、エレナを除く他の三人も思い思いの言葉を統也にかけ部屋を退出していく。ただ一人、エレナだけが意味ありげに統也を見据えながら部屋に残っていた。


「……何か……?」

「貴方――いえ、何でもないわ。良い夜を、錬条統也」


 何かを言いかけたのを止め、エレナはそう言い残し部屋を後にした。

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