第4章 白い霧
「ギャオォオオォオオオオ!!!!」
戦闘を始めて数時間、強固な鱗の鎧を持つガリゲイオスにも限界が見えてきた。体中のいたる所から鮮血が流れていた。動きもだいぶ鈍くなり、急所への一突きでガリゲイオスの命も尽きるであろう局面まで牙は追い込んでいた。
「さてと、そろそろとどめといきますか!!」
牙は最後の一撃と言わんばかりに、両の腕に力をこめ、巨剣を持ち上げた。そして、上空から急所目掛けて巨剣を振り下ろそうとした。
「なに!?」
その瞬間、ガリゲイオスの角から白い霧が噴出し、牙の視界を遮った。
(どこにいるかわからん!?)
困惑する牙は、闇雲に霧の中にいるはずであろうガリゲイオス目掛けて剣の先を振り下ろした。
「ドン!」
「ギャオォオオォオオオオ!!!!」
手ごたえは、浅かった。多少の手傷は与えたものの、命を奪えるほどの一撃ではなかったと、牙自身わかっていた。
(ただの目くらまし、あせる必要もない)
牙はいたって冷静であった。例え白い霧で姿を隠そうとも、あれだけ巨体な存在を隠すことなど、不可能だ。あの赤い鱗の鎧は白い霧の隙間から見え隠れしているし、その巨大な体から発せられる騒音は容易にガリゲイオスの居場所を牙に伝えた。視界が悪く、急所を狙い撃ちすることは出来なくとも、だいたいの居場所がわかれば、ガリゲイオスの巨大な体のどこかにダメージを与えることが出来る。
(時間がかかるかもしれないが、このまま戦えば俺が勝つ!)
牙はそのように考えていた。
「ギャオォオオォオオオオ!!!!」
「うお! あぶねぇ!」
牙の頭上数メートルのところをガリゲイオスの赤いコブシが通り抜けた。
「ギャオォオオォオオオオ!!!!」
「うおっと!」
今度は牙の数メートル横の空間を切り裂くようにガリゲイオスの赤いコブシが弧を描いた。
(おかしいぞ、さっきまでこいつは巨剣を狙って攻撃していたはず。それが、明らかに俺めがけて攻撃している……まさか!?)
牙の不安は的中していた。白い霧の中から赤い豪腕が次々とパンチを繰り出してくる。
「うお! はっ! くぅ!」
牙は2本の巨剣をうまく使いながら防御をして、思考をめぐらせていた。
(こいつ、『感知能力』を持っているのか!?)
牙は改めて思った、割りにあわない仕事だ、と。