第13章 おとなしく死ね
「『ネット』!」
「ごふぅ!!」
ガリゲイオスの攻撃により、霧の外まで吹き飛ばされた牙。その勢いのまま地面に衝突していれば、致命傷は免れなかった。そんな窮地を救ったのは、またもやクラリットの魔法であった。クラリットはまさに牙にとって、命の恩人と言っても過言ではないだろう。そんな、命の恩人に対して牙は、こう言葉を発した。
「ばかやろう!! てめぇこの野朗!! 死ねカスぼけぇ~!!」
これが世に言う感謝の言葉……ではないようだ。
「ははは、ごめんなさい」
クラリットは薄ら笑いを浮かべていた。
「お前なぁ! もう少しで死ぬところだったんだぞ!! 弓へたくそなら、最初に言えよ!!」
「いやー、やっぱり無理でしたね。あの霧はガリゲイオスを中心に半径50メートルくらいに広がっていますからね。霧の外からあの鼻角をピンポイントで射るなんて、弓闘士でも難しいですよ」
クラリットは悪びれる様子もなく、完全に開き直っていた。
「……てめぇ、殺す」
牙の堪忍袋の緒がついに切れた。牙はクラリットの胸倉を掴み、右コブシに力を込めて殴ろうとした。
いや、ぶん殴ろうとした。
いやいや、コブシをクラリットの顔面にめり込ませようとした。
いやいやいやいや、クラリットの顔面をアンパンマンみたいに削ぎ落とそうとした。
いやいやいやいやいや、顔と胴体を切り離そうとした。
「ちょ、ちょま! 待ってください!」
身の危険を感じたクラリットは必死に牙をなだめようとした。しかし、全く効果はなく、3秒後に死ぬことがほぼ決定した。
「も、もう一つ! もう一つ秘策があるんです!! 今度こそ、今度こそガリゲイオスを倒せる秘策が! だから、殴る前に僕の話を聞いてください!!」
クラリットは3秒後の死を回避するために、必死で言葉をつむいだ。
「お前の話は信用できん! おとなしく死ね!」
「今度こそ大丈夫なんですって! とりあえず、見てください! 見れば僕の秘策が必ず成功するとわかってもらえるはずです! お願いです! 殺さないでぇええ~!!」
クラリットは目から鼻から汁という汁を出し、必死に命乞いをした。
「“見れば”ってどういうことだ? お前は俺に何を見せようっていうんだ?」
クラリットの見苦しい命乞いが功を奏し、牙はようやくコブシを下ろした。
「実はですね……」
クラリットは牙の気分が変わらないうちに、早口で秘策の説明を始めた。
~用語解説~
『感謝の言葉』
大切です。感謝の気持ちは、ちゃんと言葉にしないと伝わりませんよ。