表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/23

第12章 ばかやろう


「ビュン!!」


 もやもやっとした白霧を切り裂くように、一本の赤い矢が飛ぶ。魔力を秘めた赤色は、白い霧の中でとても目立っていた。


「よし! よくやったぞ!」


 ガリゲイオスに刺さった矢を見て、牙は動き出した。結果的に、牙はガリゲイオスよりも先に攻撃のチャンスを得たのだ。


「ふんぬ! 『スタンプ』!」


 牙は腕に力を込めて暗黒剣デイを持ち上げ、上空へと飛翔した。


(俺の目測よりもかなり低い位置に赤い矢が刺さって見える。ははん、なるほど……。ガリゲイオスの野朗、俺の攻撃を感知したな? そして、しゃがんで避けるつもりだったのだろう。だが、あまいわ! お前の鼻には真っ赤な印が付いているのだよ!! この赤鼻のトナカイめ! やーい! バカバカ~!)


 牙は心の中で勝利を確信し、ガリゲイオスに向かって罵声を浴びせていた。


「死ねぇえええ~!!」

「ドン!」


 渾身の一撃! 牙は見事、赤い矢が刺さっている所に攻撃を与えた。


(よし! 手ごたえあり!)


 牙は勝利を確信し、ガッツポーズした。


「ギャオォオオォオオオオ!!!!」

 大型モンスターの断末魔…………にしては生命力に満ち溢れた叫び声。


(……何かおかしいそ?)


 一向に晴れない霧の中、牙は確実に鼻角を攻撃できたかどうか、その目で確認できなかった。


(もしかして……はずした?)


 自分の目で物事を判別できないということは、非常に不安なことだ。スイカ割りを想像してもらいたい。視覚を奪われた状態で、周りの人のアドバイスを信じ、スイカの場所を特定する。そして、スイカを叩く。そのとき、スイカらしきものを叩いた感触はあるだろう。おそらく99%それはスイカであるはずだ。しかし、それはもしかしたらメロンかもしれない。自分の目で確認できない以上、その可能性は否定できないのだ。そして、一度メロンかもしれないと疑ってしまうと、人はその『メロンの呪縛』から抜け出せなくなる。

 

 牙も今、同じ状況であった。視覚を奪われた霧の中、クラリットの矢だけを信じて、巨剣を振り下ろす。おそらく、そこにあるのはガリゲイオスの弱点である鼻角のはず……はずなのだが、もしかしたら、少しずれていたかもしれない……。牙がそう、不安に思った瞬間、


「ギャオォオオォオオオオ!!!!」


 牙目掛けて赤いコブシが飛んできた。


「うわ!!」


 先ほどまで、牙は巨剣を巧みに使い、相手の攻撃を“さばく”ことでその衝撃から身を守っていた。しかし、あまりに突然の攻撃に、“さばく”だけの余裕はなく、巨剣を“盾”として使うことしかできなかった。当然、盾では直接的なダメージは防げても、衝撃までは防ぐことはできなかった。


「ぐぅうううおおお!!」


 ガリゲイオスのコブシの衝撃に耐え切れなかった牙は、暗黒剣デイと共に後方へ吹き飛ばされた。朦朧とする意識の中、牙は空中で声を聞いた。


“牙さん、すいません。僕、弓へたくそなんです。どうやら、鼻角には届かなかったようです。ハハハ……”


「ばかやろうーーーーー!!!!!!!」


 牙の叫びは森中に響いた。


~用語解説~


『メロンの呪縛』

メロンを食べるときの、「本当は皮ギリギリまで食べたいけど、あまり深くまで食べると貧乏臭いと思われてしまう……」という心の葛藤のこと。

また、「どこまでがメロンで、どこまでが皮か?」というメロンの論争のことを『メロンの呪縛論争』と言う。過去100年間、世代を超えてこの論争は続けられているが、明確な境界線はまだ決定されていない。

現在『メロン協会』は、暫定案として「一番端から2.1センチメートルまでが皮である」と公表している。その理由は、「近年科学的検査により、そこから急激に糖度が減少することが判明したから」ということだ。しかし、「2.1センチメートルは厚すぎる!」「もっとギリギリまで食わせろ!」といった庶民からの反対意見が多く、近々見直しが行われる予定である。今後も、メロンから目が離せない時代が続くことだろう……。


『メロン協会』

メロンにまつわる全てのことを決定する協会。世界中のメロンは一度メロン協会に集められ、そこで品質評価を受けてから、再び全国へと出荷される。ちなみに、牙はメロン協会副会長である。


『ばかやろう』

悪口。ただ、使い方によっては何故か愛情が感じられる、不思議な言葉。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ