第11章 作戦開始!
「牙さん、これを持っていてください」
クラリットは、ほら貝のようなアイテムを牙に渡した。
「これは?」
「それは『ほら魔貝』と呼ばれるアイテムです。魔力を通じて会話をすることができます。本当は牙さんにも魔力があれば、双方向で会話ができるのですが、僕からの一方通行になりますね。今回の作戦はタイミングが重要です。矢に込められる魔力は微量で、直ぐに色が消えてしまいます。なので、僕が弓を撃つ瞬間にこの『ほら魔貝』を使って合図を送ります。チャンスは一瞬、気を引き締めてください」
「おう! わかった。それじゃ、行ってくる! 『スタンプ』!」
牙はクラリットから受け取った『ほら魔貝』を懐にしまい、『スタンプ』の魔法を唱えて、上空へと飛翔した。
「『スタンプ』! 『スタンプ』! 『スタンプ』!」
さらに数回の『スタンプ』の魔法を使い、牙は再び白い霧の中へと進入した。
「ギャオォオオォオオオオ!?」
白い霧は牙に触れたとたん、ガリゲイオスに牙の位置を伝えた。牙を感知したガリゲイオスは再び戦闘態勢に入り、攻撃を加えるために牙のいる所へと歩み寄った。
「『スタンプ』! 『スタンプ』!」
霧の中に入ってから、さらに数回の『スタンプ』の魔法を使い、牙は暗黒剣デイのつばの上に再び降り立ち、直ぐに暗黒剣デイの柄を掴んだ。
(準備はOKだ。あとは、クラリットからの連絡待ちか……)
「ギャオォオオォオオオオ!!!!」
白霧によって視覚が悪くとも、その威圧的な鳴き声と大地を鳴らす歩行音から、ガリゲイオスが接近していることを牙は感じていた。
(頼む! 速くしてくれ! できれば、ガリゲイオスの攻撃が来る前に……)
牙は心の中で催促していた。さすがの牙でも、数発の攻撃であれば防ぐ自信はあったが、何十発もの攻撃を無傷で防ぐことはできないと実感していた。
「先手を取りたい」、戦闘に身をおく者ならだれもが思うこと。牙もまた、そう思うことで暗黒剣デイを握るコブシに、無意識的に力が入っていた。
“牙さん、聞こえますか?”
ようやく『ほら魔貝』から声が聞こえた。
「遅いぞ! クラリット速く弓を射てくれ!」
“それでは今から弓を射ります”
「頼むぞ! ……無事に倒せたら、一緒に酒でも飲もう」
牙には魔力がない。だから、いくら『ほら魔貝』に話しかけても、その声がクラリットに届くことはない。しかし、牙はこのとき自分に酔っていたため、その事実を完全に忘れていた。そのため、冷静になって聞くと、非常に恥ずかしいセリフを真顔で吐いたのだ。
「無事に倒せたら、一緒に酒でも飲もう」
誰に届くこともない、かっこつけた寒い言葉は、白霧に溶けて消えた。
~用語解説~
『ほら魔貝』
魔具の一種。魔力を通じて会話をすることができる携帯電話のようなもの。お互いの距離が遠ければ遠いほど、強力な魔力が必要になる。嘘か真実か、魔力が無くても会話できる場合があるらしい……そこに、愛があれば。
『無事に倒せたら、一緒に酒でも飲もう』
さぶいぼが出る言葉。自己陶酔野朗が発する寒すぎる言葉。言っている本人はカッコイイと思っているが、そうでもない。「私は下戸なので!」とキッパリ断るのが良い判断。