前話3
田舎町に住む老齢の男性の酒場での愚痴。
「まぁ、あれな訳よ。俺もなぁ、色々苦労はしてきた、してきたが、あいつほどじゃねぇ」
「はぁ」
「まぁ、聞けや兄ちゃん。あのな、ある若者がな、両親を早くに亡くした訳よ。それで、両親の知り合いの家に引き取られてな、まぁ養子になった訳よ」
「はぁ、大変ですね」
「いやな、そこまでは良かったんだがな。この引き取った男は、まぁ御人好しでな、その子とも仲良くなったわけよ。おじさん、おじさんってな、可愛かったぞ、それに賢かった」
「それは良かったですね」
「いや!良くない!さっきも言っただろう、良かったのはそこまでな訳よ。この男が御人好しでなぁ、お約束のように保証人になった訳よ、それでそいつに逃げられてな、全部の借金がその男の所へ行った訳だ」
「大変ですね」
「そーよ、大変だろぉ。しかも、そんな中、心臓発作で死んじまった。当然、借金も遺産としてその子供の所へ行くわけだ」
「しかし、普通でしたら養子なんですし、遺産放棄をしますよね」
「そーだろ、俺や近所の連中もそう言った訳よ。そんなもんまで引き取る事はねぇ、死んだ奴だってそんな事は望んではいねぇってな。しかしよぉ、こう言う訳だ、せっかく出来た絆を断ち切る事はしたくない、それがどんな物でも、絆ならば大切にするってな」
「はぁー、今時珍しい。しかし、頑固な子ですね」
「まったくだ、俺達も随分と説得したんだがなぁ。折れやしねぇ」
「それで、如何したんですか?」
「どうやったかは知らんがな、あっさりと返したよ」
「すごいですね」
「まったくだ。2千万だぞ、それをあっさりとだ」
「すごいですね、今は如何しているんですか?」
「さぁな、海外に2週間ばかり行っていたらしいがな、帰って来て金を返した後は、またどこかに行っちまった」
「へぇ」
「何であれ、心配だな。天才的な子だったが、あいつは頑固で素直で一途だったからな」
「矛盾してません?」
「そうとしか、言えねぇんだよ」
「はぁ」
「まぁ、あれだ、我ら凡人には理解できんのさね。凡人は美味しく酒を飲もう」
「はぁ」
「元気を出そう!凡人同士だ」




