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プロローグ 「新たな幕開け」

「沙那慧・・・まだ、やるのかよ」

「もちろん。これくらいでへたんないでしょ」

「きついですが何か」

「あんたソレでも自衛官?もっと鍛えなさいよ馬鹿」


日本自衛隊龍騎士特務隊、通称DNT。

それが、彼らの所属する部隊。

世界各国に現れるモンスターを狩る為に戦う、それが彼らの仕事。

部隊屈指の攻撃能力を有する龍使い、柳田沙那慧中尉と防御に突出した新人騎士、坂上恵太少尉の2人は互いにポジションを入れ替えて、手に持った打棒で打ち返していく。

沙那慧が攻撃に入ると、即座に防御に入る恵太。

彼女の攻撃は、跳躍したままの場合が多く、脚は殆ど付いていない。

これでもう、彼女の身体能力の高さがうかがい知れたであろう。

一方、防御の恵太は臨機応変に打棒の向きや位置を変えて、後退しながら沙那慧の攻撃を防いでいる。

見切りがよく、しっかりと相手の行動の予測を立ててから行動していた。

逆に、恵太が攻撃に入ると、ただの打ち合いになっていた。

なぜかといえば、恵太の攻撃の殆どが上段からの振り下ろしだからだ。


「ちょっと、単調すぎるってば」

「しかたねーだろうさ、おれは防御なの」

「少しは別の技を覚えろっての」


沙那慧は口を尖らせた。

彼女の横では、使龍のヴォルフが成り行きを見守っていた。

そのヴォルフに目を向けると恵太は、ふと出あった2年前を思い出してしまう。

あのときより大きくなった。

ヴォルフは進化を繰り返しているからだ。主である沙那慧の魔力の増加に合わせて彼は自ら身体を作り変える。

強くなる為に。


「柳田中尉、そろそろ時間ですが・・・」


彼らのサポートを勤めスウェーデン軍所属のステラ・フォン・マロリー少尉が控えめに声を上げる。

やぼたい眼鏡をかけた彼女は、打ち合いを続ける二人にもう一度声をかけてみるが、聞いていないようだった。

彼女は溜息をつく。

そして、仕方なくといった感じで回りに1つの白い球体を出現させた。

捜索端子(サーチャー)

サポートは基礎能力を使って、機械である”操作端子”と呼ばれるものを操ることができるのだ。

その操作端子にもいろいろ種類があり、その中で捜索に優れているのがこの、捜索端子(サーチャー)である。

で、その捜索端子(サーチャー)を使って何をするかというと。


「いたっ!!?」


訓練場にいきなり大きな声が響いた。

沙那慧の声である。ステラが彼女に何をしたかというと。


「接触爆雷だ、少しは回りに気を配れっての」

「うぅっ」


煙が晴れて、咳き込みながら沙那慧は唸った。

確かに恵太の指摘するとおりだったからだ。


「もう終了時刻ですよ、中尉。書類仕事を片してください、中尉殿?」

「むぐっ」


ステラの笑みに答える沙那慧は露骨に嫌そうな顔だった。

そういや、沙那慧の異名の1つに、”突撃馬鹿”、”破壊魔”といったものがあったな。

実際、机仕事の腕前は最悪で、キーボード打つのも非常にニガテらしい。

多分、1つのキーを打つのに一分以上は掛かっているだろう。

そして、挙句の果てにデスクの上が酷い有様になる。

どうしてそうなるんだって感じに。机どころか周囲の床にまで書類がばら撒かれているんだから。


「士官の務め、仕方ないよね?」

「にゅ」


そこに、通りかかってであろう1人の隊員と龍がやってきた。

同じ部隊所属の神楽坂亜李香少尉だ。

そしてその使龍、リンテンス。

リンテンスはヴォルフよりふた周りくらい大きな龍だ。

青い龍で、冷却系ブレスを得意としている。


「よ、亜李香」

「うん。・・・士官だし、しょーないよね?ほら、いきな?」


亜李香に肩を叩かれる沙那慧。

呆れた顔と嫌そうな顔の隣で、リンテンスとヴォルフが可愛い声で鳴きあった。

恵太はつい微笑ましい気分になって、頬を緩ませているといきなり”ばしっ”と沙那慧に頭を叩かれた。

何も言えず恵太は頭をさすっていると、ヴォルフが隣できゅうと鳴いた。

そして沙那慧を顎でしゃくる。ヴォルフの視線の先には沙那慧がいる。

恵太は視線を上げて沙那慧を見やった。


「恵太のせいだからねっ!30分で打ち込み100はいくと思ったのに!」

「無理ね、それ」

「無理ですよ、坂上少尉はへたくそですし。金剛壁の修行をさせたほうがいいですよ」


真っ赤になって怒鳴る沙那慧の横で、亜李香とステラが呟く。

それが聞こえたのか、沙那慧は”きっ”と二人を睨むと、踵を返して事務所棟に向った。

ヴォルフは気が向かないのか、飛び続けるのに疲れたのか、恵太の肩にちょこんと乗っかった。

見かけの割には軽くてあたたかいので、カイロとしては申し分ない。

リンテンスも嫉妬に似た眼差しをヴォルフに向けると、同じ様に恵太の肩に乗っかった。

リンテンスのほうが若干重い。しかも、あったかいのを通り越して、熱い。


「リンテンス、熱いんだが」

「にゅ~~」


リンテンスは長い首を伸ばして、すりすりと頬を恵太の頬に撫で付けた。

くすぐったっくて恵太は身じろぎする。ところが、今度はヴォルフまですりすりし始める。

もうどうしてよいのか分からず恵太はたじろぎ、助けてのアイコンタクトを亜李香に向けるが、彼女は笑って言った。


「好かれてるね、あんたも飛龍のタマゴを帰せば?」

「やだ。三匹に増えて頭が重くなる」


恵太はぼそっと言うと、肩の上に乗る二匹の飛龍が、攻撃的な眼差しを見せた。

リンテンスが口から白い冷気を噴出すと、ヴォルフが尻尾から赤い炎をぼふっと噴出す。

喧嘩の前兆だ。そう恵太は悟ると、もう一度亜李香を見やった。


「・・・はいはい。リンテンス、来なさい」

「にゅう」


ばさっと羽ばたく音が聞こえて、肩が少し軽くなる。

リンテンスは亜李香の横でばさばさと浮遊していた。

恵太はヴォルフに声をかけて肩から降りてもらうと、彼は練武館へ向かうため歩き出した。



「何の用だ?」


練武館へ入るなり、いきなり声をかけられた。

ぎくっと恵太は肩を揺らすと、隣を飛ぶヴォルフに目線で警戒しろと指示。

ヴォルフは彼に従って、周囲を警戒するべく高度を上げた。

使龍は通常、(マスター)の命令にしか従わない。

主でない恵太が何故ヴォルフを従わせられるかというと、彼は2番目の主(セカンドマスター)であるからである。

ただ、なるためには使龍になついてもらわなければならない為、全体の人数は少ない。

そもそも、2番目の主(セカンドマスター)とは、文字通り”2番目”の主なので、(マスター)より、指揮権が低いため、なるならタマゴを自分で帰したほうがよいので、なる必要がないのだ。

だが、恵太の場合、前衛攻撃(フロントアタッカー)をこなす沙那慧の補佐という役目があるため、ヴォルフと主従関係を結ばなければならなかったという理由があり、しぶしぶ契約したのだった。


「・・・なんだ、栗原軍曹でしたか」


そこにいたのは、真っ黒な髪の美女だった。

光も反射しないほど黒い黒髪を短く切りそろえた教官は腕組みしながらそこにいる。

右目にある泣きほくろと海色の瞳も彼女の特徴のひとつで、ミステリアスな雰囲気を感じさせる。

が、眼差しやきつく結んだ唇などが逆の雰囲気をかもし出していた。

そんな栗原綾乃軍曹の隣には彼女の”使い魔”、那須野空海の姿が。

狛犬とも呼ばれる狼のような犬である。


「何だとは酷い言われようだな、坂上少尉」


表情も変えずに栗原軍曹は言った。

正直、そういうことを無表情で言われるのが一番怖い。


「いえ、別にそういうわけではないですよ」

「そうか、で何か用か?ヴォルフまで連れて。柳田少尉はどうした」

「書類仕事を片しに。おれは個人練習をしようかなと」


練武館にいる教官たちもよく相手になってくれるし、と恵太は思ったがそれは口に出さなかった。

言ったらフルボッコにされてしまう、と。


「そうか、金剛壁の訓練か?」

「ええ。以外にも魔力系防御壁(シールド)とか外力系防御壁(バリア)の訓練もやろうかなと。標的機(ドローン)屋内用、借りますね」

「どうぞ、お好きに。私は見物させてもらう」


そういうと栗原軍曹は壁に背を預けて腕を組み、目を瞑った。

彼はほっと溜息をつくと練武館の端の階段を目指して歩いた。標的機(ドローン)は2階に格納してあるので、それを起動させに行くためだ。

練武館は厚いコンクリートで覆われており、当然のように壁紙など貼っていない。

所々にちいさなガラスのない窓があり、そこから光が差し込む。

天井は高く、靴音が大きく響いた。

教官待機室の隣にある階段を上り、2階へ上がる。

すると、厚い有機対爆防御扉(ブラストドア)2枚が彼を出迎えた。

何時もながらに凄い歓迎だと彼は苦笑する。

轟音を響かせて開いていく有機隊爆防御扉(ブラストドア)

その先にはさまざまな形のロボットの姿があった。

円筒形の通称”ゴミ箱型”や、箱型の”段ボール”といった標的機たちである。


<あらあら、何か御用かしらね~?>


ゴミ箱型や段ボールというあだ名をつけられた標的機にはもちろん機銃が付いている。大小さまざまな銃口が謎の声とともにがしゃっと音を立てて恵太に向けられた。

ロボットのような声が広い室内に響き、標的機の駆動音が低く唸る。

普通なら驚くところだが、恵太はすでにこの”異常な”部隊に不本意ながらも慣れてしまったため、軽く溜息をつくだけに終わった。


「アダチコ、ひし形標的機(ダイヤモンド)、借りるぞ。機数は、そうだな・・・20機くらい」

<いいかしらねよ~。イダチコ、ウダチコ、手伝えかしらね~♪>

<はいでござる>

<あいよでありますわ>


恵太が声を上げると、奥から先ほどの奇妙な声が聞こえ、ソレに続いて、別の声が。

ここを管理する|生物学的戦闘用計算知性機エー・アイの声だ。

この部隊では5機所有しており、うち3機がたまたまここにいたらしい。

がそごそがさごそ作業する音が聞こえて、アームの動作音が聞こえる。

そして、恵太が注文したひし形標的機ダイヤモンド・ドローンが姿を現した。

ぴかぴかに磨き上げられた胴体は、銀のように輝いて、鏡の様にまわりの光を反射した。

こいつらはまるで”ダイアモンド”より”シルバー”という名前が似合っているよな、と恵太は思いながら、アダチコを探した。

アダチコは人間のサイズほどある四足ロボットである。

そいつはスフィンクスのような体制で機械の陰にいた。

ケーブルを標的機(ドローン)に繋げて何かをしているようだ。


「アダチコ、サンキュ」

<いえいえ、礼ならイダチコとウダチコにもしてあげてかしら>


奇妙な日本語で喋るアダチコにもう一度礼を言うと、恵太は標的機(ドローン)を格納庫から出し始めた。

といっても、パネルでポチッとなで終わりなんだがな、と恵太はまた苦笑してから、全機出たのを確認する。


「イダチコ、ウダチコ、サンキュな!」

<別に礼はいらないでござる>

<いえいえ、用があったらだんどん呼んで下さいですわ~♪>


イダチコとウダチコの声を聞きながら恵太は壁のスイッチを押して先ほど通った有機対爆防御扉ブラストドアを閉めた。

そして、専用のエレベータにアダチコたちから借りた標的機(ドローン)を押し込み、スイッチを押して降下させる。

恵太はコンクリートの階段を下りて教官待機室の隣まで降りる。

まだ先ほどの場所に栗原軍曹がいる。教官待機室にも誰もいない。さっきと変わっていなかった。

ブザー音が聞こえて、恵太は専用エレベータ前まで歩いて扉を開けた。

すると、一斉にひし形の標的機(ドローン)が飛び出してくる。

うじゃうじゃうじゃうじゃと、虫のように群がって飛び出してくる。


「ヴォルフ、黙ってろよ」

「きゅ」


彼はそう言うと懐からちいさな宝石を取り出した。

これが騎士の武器である。特に総称は付いていないが、固有の名前をそれぞれ持っているので、問題はない。

これは持ち主の魔力や声紋などをチェックし、最適状態に合わせて武器になる。

彼の場合、2本の長い打棒と、大きな盾が主である。


「起動だ、フォセッタ」

<了解、(マスター)


手に持った彼の宝石は、女性の機会音声とともに、光り、2本の長い打棒――鉄鞭と呼ばれる――へと形を変えた。

先ほどの訓練用打棒より長く、重い。

それを軽々と手に握り、恵太は握り具合を確かめた。

恵太の武器は、”フォセッタ”と呼ばれており、防御系の装備に特化している。

コレを作った今亡き師匠の顔を思い浮かべながら恵太は構える。

左肘を前に突き出すように構え、右腕は後方に突き出して、スピアを構えるような形に。

彼は抑えていた魔力を徐々に開放していく。

いきなりの開放だと体が付いていけなくなってしまう。


<訓練開始>


フォセッタが短く告げた。

同時に、20機ほどの標的機(ドローン)が機銃から火を噴いた。

彼は周囲に魔力を飛散させ、耐える。

金剛壁の一種、堪え守り。

周囲に飛び散る金色の魔力が銃弾を跳ね返し、あるいは溶かしていく。

今回は、避けることなくこの金剛壁・堪え守りを維持するのが課題だ。


「・・・っ」


通常の防壁を出すのは簡単だ。

金剛壁の技の中では、こういう周囲飛散結界防御魔法(フィールド)が難しい。

強くもあり、頑丈で、同時に消耗が激しいという弱点を抱えているこの魔法を少しでも長く扱えるようにならなければ、実戦では話にならない。

彼の師匠はこの堪え守りを1時間以上維持し続けていた。

周りに魔力を故意に飛散させる魔法なだけあり、すぐにきつくなってくる。

堪えろ、これも修行だ。

恵太はそう念じてフォセッタを握る腕の力を強めた。

だが、すぐにきつくなって、彼は訓練弾に飛ばされて床に転がった。


「っつぅ・・・・」

「魔力の無駄が多いぞ。もっと効率よく使え。

 それでは壁の意味がないぞ、もっと安定させろ。今のはしっかり流せていれば大丈夫だった」


尽かさず栗原曹長がそう怒鳴ってきた。

その通りだと、彼は心の中で肯定しながら立ち上がる。

もう一度、と先ほどの同じ構えを取る。

そして、魔力を開放。

金剛壁・堪え守り。

金色の粒子が光って散る。

訓練弾が弾かれる。

からん、からんという薬莢の落ちる音だけが練武館に響いた。



「・・・リリアンヌ、あれだよ」

「あれ?・・・ああ、日本の桑時流・金剛壁ね」


基地から少し離れた場所で、金髪の女は木の太い枝の上に立って呟いた。

彼女の眼に映るのは、恵太の発している金剛壁の粒子。魔力の欠片。


「綺麗に纏められてはいる。けど、まだまだね」


彼女はすっと笑みを見せて言った。

すると、木下でのんびりと寝ている男が、「うん」と返した。

彼の澄んだ瞳は青い空を映す。


「さて・・・と、では行かないとね。オルメス」


空が途端に不自然な影で覆われた。

飛龍だ。リリアンヌの飛龍、オルメス。

これで彼女、リリアンヌ・アルフォンス・フォン・サヴァリケンスの魔力の多さをうかがい知れる。

リリアンヌはオルメスの下で、不適に笑った。

さて、焔の龍よ、私の悪の龍に勝てるかな、と。



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