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勝手な婚約者様3

作者: WAIai
掲載日:2026/10/02

外に出ると、冬の日差しが優しく注いでくる。

しかし吹く風は冷たく、ロイスの熱気を奪っていくので、外套の襟を合わせる。

「ロイス様、大丈夫ですか?」

前を歩くリッツが振り返り、聞いてきた。

ロイスは黙ったままで、彼女の姿を凝視する。

ーまだ未熟だけど、綺麗なんだよな。

金の髪は日差しを受けて輝き、くるくると変わる表情は見ていて飽きなかった。

ー婚約破棄の話でもするか。

ロイスはポケットに手を突っ込むと、リッツが明るい声を出す。

「綺麗ですわ。雪が残っているのに、元気なこと」

庭の道の両側に咲いているウィンタージャスミンとクリスマスローズを指で構い、リッツは微笑む。

何が楽しいんだと思っていると、彼女は残った雪を集め、小さな雪だるまを作る。

「ほら、見てくださいませ、ロイス様!!」

「…。子どもか」

どこか幼いところを残した女だと、ロイスは息を吐く。

今度は本当に白い息が出、冬の寒さを伝えてくる。

しかしリッツは気にせず、スキップするように、軽い足取りで進んでいく。

ー元気な奴。本当に太陽の子みたいな奴だな。

ロイスは大人しくついて行くと、リッツが駆け寄ってくる。

「ロイス様、素晴らしい庭ですわ」

「そうか。庭師が喜ぶ」

「はい!! 会ってみたいです!!」

「後で会わせてもらえ。…それでな」

ロイスは涼やかな息を吐き出すと、リッツに告げる。

「婚約は破棄しよう。私とお前ではつり合わない」

「え…。そんなことはありませんわ!!」

リッツは大きな目を更に大きくし、力説してきた。

ロイスに触れようと手を伸ばしてきたので、ロイスは先に封じる。

「触るな!! 私は…その、触られるのが嫌いなんだ!!」

「ロイス様…」

リッツの表情が曇り、ロイスはやったと喜んでいいところなのに、何故か心が痛んだ。

ー私が間違っているのか…?

空を見れば、雲は1つもなく、青一色だった。

まるで神が見逃さないように、雲を排除したようで、選択を見守ろうとしているように感じる。

ー神も私を裁くか?

ふと軽く笑うと、ロイスは足を止め、リッツに厳しく言う。

「お前を婚約者と認めることはできない。悪いが、去ってくれ」

「…。嫌です」

「…は?」

ロイスは聞き間違いかと、首を傾げる。

鳥が喉を鳴らすように、甲高い声で飛んでいき、2人を黙らせる。

ロイスはこめかみを押さえると、目を瞑る。

ー気のせいか? 嫌だと聞こえた気がしたが…。

ふと気配がし、目を開けると、前にリッツがやって来ていた。

両頬を膨らませ、まるでリスのような表情となる。

「嫌ですわ!! 私はロイス様がいいですの!!」

「嫌って…。おい!! 触るなと言っただろうが!!」

腕を伸ばしたリッツの手を叩き落とすと、彼女は淋しそうな、辛そうな顔となる。

ざまあみろとはロイスもさすがに思えず、悪いことをしたかと思ってしまう。

ー何か調子が狂う…。

あの出来事さえなければ、触れられるのは大丈夫だったのだが、夜、よく眠れないこともあり、ロイスは不機嫌となる。

「もう戻ろう」

「…お待ちくださいませ」

リッツは腹を決めたらしく、はっきり言ってくる。

「ー私はロイス様のお側にいます。どんなに嫌がられても、邪魔されても、絶対に離れません」

「…あのな、お前…」

ロイスのほうが押されてしまい、心の中で舌打ちする。

伯爵家の娘でなければ、叩いているところだった。

もっとはっきり言ったほうがいいのだろうかと迷っていると、手が差し出される。

汚れを知らない、生まれたばかりのような、柔らかそうな手。

ロイスが黙っていると、リッツが微笑む。

「大丈夫ですわ。私、ロイス様を裏切りませんことよ。必ず良きパートナーとなるために、努力いたします」

「…やめろ…」

ロイスは頭を抱えると、突然、叫び出す。

「やめろ、やめろ、やめろ!! お前に何が分かるんだ!! 私の何を知っている!! 夜、眠れないのだって、何も知らないくせに…!! この」

クリスマスローズを覆っていた雪を掴むと、リッツに投げつける。

固まりではないので、痛みはないはずだが、リッツは心配そうな顔をする。

じっとロイスを見つめてくると、また一歩、近づいてくる。

「寄るなと言っているだろうが…!!」

花をちぎり、リッツに投げつける。

しかし彼女は動じず、静かに言ってくる。

「ロイス様の苦しみは、私の苦しみですわ。一緒に共有しましょう」

「はっ!! 何を馬鹿なことを…!! 私にしか分からないんだよ!!」

「それでは駄目ですわ」

リッツはゆっくりと首を振ると、投げつけられた花を手に取り、優しく触れる。

「臆病なロイス様も、気弱なロイス様も、全て私にお見せくださいませ。そうすれば…その、心が軽くなっていくはず。1人で抱えずに、私にも与えてくださいませ」

「だから…!!」

また花を投げようとすると、リッツが止めてくる。

「おやめくださいませ!! お花も一生懸命、寒さに耐えながら咲いているんです。私どものことで、勝手に命を終わりにしたら、恨まれますわ。ロイス様、落ち着いてくださいませ」

「落ち着いていられるか!!」

足をだんだんと踏みつけると、ロイスは身体を反転させる。

「邸に戻る。やっぱり話し合いなんて無理だ」

「逃げるんですの?」

「逃げ…何だって!!」

ロイスは振り返ると、リッツが笑顔を向けてくる。

花を優しく摘んでいくと、そっと雪の上に置いていく。

それから急に裾を持ったかと思うと、ロイスに後ろから抱きついてくる。

「うわ!! や、やめろ…!!」

「いいえ。やめませんわ。今、やめたら、ロイス様の心が閉ざされたものとなります。傷ついた心、痛む心、ロイス様は1人で抱え込みですわ」

「この!! 突き飛ばすぞ!!」

「どうぞ!! やるなら、おやりになってくださいませ!!」

2人は睨み合うと、光が怒りを和らげようと、手を伸ばしてくる。

先に目を逸らしたのは、ロイスだった。

ーこの女…!! 狂っている!!

そうとしか思えなかった。

傷物の自分を、どうやって支える気だと、笑ってしまう。

しかしリッツは本気のようで、一歩も動かなかった。

ロイスの答えを真剣に待っている。

ーくそ!! くそ!! くそ!! 何なんだ、この女…!!

髪を掻きむしると、リッツがそっと手を伸ばしてくる。

ロイスが避けようと、半歩下がろうとすると、ダンスするように近づいてきて、腕をとられる。

「ー私、婚約者をやめませんわ。ロイス様と共に過ごします」

「…。何で私なんだ? 何故…?」

「簡単ですわ。ロイス様に恋をしているので」

「恋? …私に? は?」

意味が分からず、ぼうっとしていると、リッツが包み込むように、抱きしめてくる。

「大丈夫、大丈夫です。私はロイス様の味方ですわ。誰が何を言っても守りますし、楽しい時は一緒に楽しみたいですもの。それが私の心ですわ」

「…。変わっている」

放せとばかりに身動きするのだが、リッツは力を込めてくる。

今、放したら、ロイスがいなくなりそうな気配でも感じたのか、しっかりと抱きつく。

「私は触れられるのが嫌だと…!!」

「聞きました。でも今は…今は我慢なさってくださいませ。どうも心が泣いているような気がして」

「は? 心が泣いている…?」

リッツはうなずくと、優しく背中を撫でてくる。

それは赤子をあやすように優しく、緩慢なもので、ロイスは思わず目を閉じる。

ーしぶとい女だ…。

認めたわけではないが、少しずつ怒りがおさまっていくのを感じる。

あり得ないと思っていると、リッツが離れ、笑顔で言っている。

「もう少し花を楽しんでから、戻りましょう」

「…。ああ」

気づけば自然と答えていて、何をやっているんだと、自分を罵倒する。

しかしリッツは明るい表情となっており、先へと進んでいく。

「ロイス様!! 早く」

「…しょうがない」

今は何を言っても駄目なような気がし、ロイスはゆっくりとした足取りで、リッツを追っていくのだった。

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