表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

ライブ崩壊 第三層:同期崩壊


 拍手は続いている。リズムは一定で、乱れていないように聞こえる。音は揃い、波は崩れない。会場全体が一つの動きとして保たれている。

 唯は視線を上げ、明を見る。今度こそ合わせると決めて、その位置に固定する。動かない。そこに明の視線が来るはずだと分かる。ずれるはずがない、と先に理解してしまう。

 その直前、視線が滑る。

 意図していない。止めている。だが、動く。

 明の視線はその位置に到達する。だが、唯はすでにそこにいない。ほんのわずかに外れている。合わない。

 明はわずかに眉を寄せる。そんなはずはない、と否定するように、画面から視線を外さず一点に固定する。唯がそこを見る。同じ場所、同じ瞬間。合ったはずだった。

 その直後、明の視線が遅れる。

 一拍分、遅れる。

 唯はすでに次を見ている。順序が逆転する。成立しない。

 美遊は二人を見る。視線の交差点を探す。その一点に視線を置く。三人がそこを見る。

 合っているように見える。

 だが、美遊は言葉にできない違和感を覚える。

 唯の視線が先に来る。明の視線が遅れて来る。同じ場所に、二度到達する。重ならない。同時ではない。

 拍手の音が、わずかに揺れる。

 何度試しても、視線は一致しない。合わせようとするほどズレ方が変わる。

 三人はやがて理解する。

 二つの現在が並んでいる。

 拍手は続く。全体は揃っているように見える。

 だが、中央より少し右、三列目だけが遅れる。一拍。すぐに揃い、また遅れる。その列だけに起きている。

 一人の観客が止まる。拍手の途中で静止する。周囲は動いている。その人だけが欠けている。

 次の瞬間、動く。止まっていた分を埋めるように、一気に追いつく。

 別の場所では、一人の動きが繰り返される。同じ一拍を何度もループする。そのあとで突然、連続に戻る。

 どこにも途切れはない。

 だが、さっきの反復は消えない。

 明はログを見る。波形は均一。ノイズはない。欠損もない。完全なデータ。

 だが、現実と一致しない。

 存在したはずのズレが記録されていない。

 明は一瞬だけ思う。

 ——記録の方が正しいはずだ、と。

 だがすぐに分かる。

 残らない一回がある。

 局所的な崩壊が点のように現れる。消え、また別の場所に現れる。小さな断絶が、連続の中に埋もれる。

 唯は手を見る。開き、閉じる。その動きが二回起きる。一度、その直後にもう一度。同じ動き。同じ速度。

 止めても、残る。

 動いていないのに、動いた感覚が残る。

 そういうものだと、唯はもう理解している。

 呼吸も同じだ。吸う。そのあとで、もう一度膨らむ。空気は入っていないのに、感覚だけがある。

 明の指先は一度しか押していないのに、圧が二度来る。結果は二回返る。ログは一つ。

 一致しない。

 美遊の視界はずれる。同じ像が二つ重なる。完全には重ならない。焦点が合わない。

 言葉にできないまま、それが正しいと分かる。

 身体の中で時間が分裂する。

 内側と外側が、同じ構造になる。

 拍手が鳴る。

 二回。

 また二回。

 世界全体が二重になる。

 観客の動き。光。音。空間。

 すべてが二回進む。

 重なっていない。

 並んでいる。

 二つの“今”が存在する。

 どちらも現在。

 どちらも消えない。

 拍手は続く。

 二回。

 また二回。

 その瞬間。

 消える。

 音が消える。

 完全な無音。

 次の瞬間。

 すべてが同時に鳴る。

 時間が潰れる。

 連続が消える。

 停止。

 一瞬。

 戻る。

 拍手が鳴る。

 一回。

 正常なリズム。

 すべてが戻っている。

 唯は手を打つ。一回。

 明の画面も正常。

 美遊の視界も一つ。

 完全に正常。

 だが、三人とも動かない。

 知っている。

 一度、壊れた。

 記録はない。

 証明もない。

 それでも確定している。

 戻っていない。

 戻ったように見えているだけだ。

 拍手は続く。

 何もなかったように。

 終わっていない。

 続いている。

 静かに。

 見えない形で。

 拍手は、まだ揃っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ