大宇宙戦争
地球から遠く離れた星「アルファ星」では、致命的な問題が起こっていた。
地軸の変動により、急激な異常気象、大気成分の乱れ、それによる動植物の極端な減衰。近隣銀河に誇る科学力があるとはいえ、自然の脅威は食い止められない。
このままでは滅亡してしまう。それなら我が星と環境の近い惑星を侵略し、そこを新天地として生きていくしかない。
そして、アルファ星人が侵略先として決定した星は、「ラニアケア超銀河団 おとめ座銀河団 局部銀河群 天の川銀河 オリオン腕 太陽系 第三惑星、地球」。
水が豊富にあり、緑もある。先住民である地球人を奴隷にして、今よりも住みよい環境を手に入れよう。アルファ星議会は全会一致で「太陽系第三惑星侵略法」を可決。急ピッチで宇宙船を建造した。
全人口を乗せる大船団、しかもそれぞれがバトルシップとして運用出来る設計だ。さすがのアルファ星人もこれには苦労したが、努力の甲斐あって、数年の歳月を経てついに全ての準備が整った。
別の星に行くには、いろいろと準備がある。一番の問題は、その星に住む病原体だ。未知の病原体に侵されると、一気にこちらが危うくなる。
そして武器の類。第三惑星などのような辺境の地が我々を脅かす武器など持っているはずはないが、用心に越したことはない。その考えで、考えうる最新の兵器を準備した。
兵力として言えば、アルファ星は全人口が約三億人。うち兵士は約六十万人。それに対して、地球側の人口は約八十億人で、兵士は約八百万人。この戦力差を覆す兵器をこれでもかと言わんばかりに用意。
いよいよ出発だ。次々と発進する宇宙船。アルファ星人は、不安と希望の中、宇宙船に乗り込んでいた。もちろん「先住民を奴隷にするなんて間違っている」との意見も、少数ながら存在する。
だが、大多数の人々はそれを黙殺した。それはそうだ。今の住居が老朽化でもう持たないから、お手伝い付きの新しい家に引っ越さないかと言われ、断る人はそういないだろう。
アルファ星大船団は、ワープ航法を使い数日のうちに太陽系に到着。もう着地地点も決まっている。予定通り、順調に進んでいる。このまま順調に地球に攻め込み、順調に侵略するだろう。
一方、地球側も異変を感じ取っていた。各国の宇宙に関わる機関が、アルファ星大船団の存在を確認。計算によってはじき出した目的地はここ、地球であることもわかっている。
友好的な親善行動にしては、宇宙船の数が多すぎる。急遽、多国籍軍を結成。東西関係なく情報をやりとりし、対策を論じあった。
ワープ航法もまだ確立出来ていない星の人間が、どれだけ議論を戦わせても無駄なのだが、それでもやらざるを得ない。もし彼らが『侵略者』であった場合、どうなるかなど明らかであった。
最新の兵器を持つ米国は、惜しみなく各国に技術を供与し、現物を送った。核兵器を持つ国々は、その照準を全て宇宙へと向けた。その他の国も、シェルターを急拵えし、持てる武器を全て出した。
一般人に避難命令を出し、日々メディアでは「冷静さを欠くな、地球軍は絶対に負けない」と連日報道。一部の人間が「これは神の降臨である」「地球は終わりだ」と根拠のない思想を撒き散らす。
混乱状態であった。だが、初めて地球人類がひとつになった瞬間でもあった。
それからまた数日後。ついにアルファ星大船団が地球の熱圏、中間圏を経て、成層圏に入ってきた。「地球の領空を侵犯」してきたのだ。
核兵器は虎の子。まずは各国の戦闘機がスクランブル発進し、警告を発する。答えはない。一度離れる戦闘機。そこから地対空ミサイルが放たれる。効かない。周囲になんらかのシールドが張られているようだ。
一度離れた戦闘機がターンし、宇宙船に攻撃を加える。やはり機体手前で弾かれているようだ。これではどうしようもない。各国の首脳が核兵器の発射ボタンに手を掛けて、様子を見守る。
各国の陸軍、海軍、そして日本の陸自と海自は、臨戦態勢で待機している。宇宙船本体に攻撃が出来ないなら、出てきたところを殲滅してやる。
「地球を守る」全世界がこの意識で統一されていた。だが、それは悲壮の決意であった。あんなシールドを、あの大船団全体に施せる科学力に、太刀打ちできるとは思えない。だが、戦わないといけない。戦う責務があった。
大船団が地上から目視出来る位置まで来た。いよいよだ。民間人は全て避難させているはず。ペットや家畜も含めた動物も全てシェルターにいる。野生動物や植物も出来る限り確保している。
負けるのは理解している。だが、地球人の意地を少しでも、あの宇宙からの侵略者に見せておきたい。地球人を舐めるなよ、の精神である。
全世界の緊張感が極度まで高まったとき、異変が起きた。宇宙船が全て、海に墜落していったのだ。
ワナかと思ってしばらく待っていたが、何も起きない。宇宙人らしき死体が浮いてくる始末。研究員たちが死体を回収して、原因を究明する。
結果が出た。
「宇宙人は、酸素が毒な嫌気性でした」
「バイキンかよ」