表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

第12話:炎と嵐と光と


 火山の轟音を突き破るように、漆黒の影が空を覆った。

 山頂を旋回するのは十数騎――竜騎兵。

 先の尖兵とは比べものにならない、純血の竜種にまたがる精鋭たちである。

 その鱗は魔力を宿し、上級魔族にも匹敵する戦闘力を誇っていた。


「……来たか」


 リオネルが剣を構え、鋭く息を吐く。

 セリーナもまた両手に魔力を集中させ、眩い輝きを灯した。


 竜騎兵たちは一斉に降下し、火炎と雷鳴をまき散らす。

 爆炎に火山の岩壁が崩れ、地を裂く衝撃波が走る。

 だが、その奔流の中に一人、軽快に立ちはだかる男がいた。


「俺を置いてくなよ!」


 カイゼルが咆哮とともに拳を振り上げる。

 その拳は炎を纏い、迫る竜種の顎を打ち抜いた。

 同時に嵐のような風が巻き起こり、火炎を散らし、セリーナとリオネルの進路を切り拓く。


「背中は任せな!」


「恩に着ますわ、カイゼル!」


 セリーナが頷き、リオネルも剣を煌めかせて疾駆する。



 竜騎兵との戦闘は苛烈を極めた。

 セリーナの魔法ルクスプロージオが竜の翼を吹き飛ばし、リオネルの剣閃が鎧を貫く。

 カイゼルは嵐を操って仲間を守りつつ、炎を纏った近接戦で竜種の胸を抉る。


 三人の連携は初めてとは思えぬほど息が合っていた。

 竜騎兵たちは次々と墜ち、最後の一騎が悲鳴とともに火山の闇へ消える。


 その瞬間、大地を揺らす重圧が、戦場を支配した。





「愚息が……」


 その声は地の底から響くように重く、全身を凍らせる威圧を帯びていた。

 火山の奥から姿を現した巨躯――竜王ドラグノア。

 紅蓮の鱗に包まれたその姿は、まさに生きる災厄であった。


「牙を剥く相手を間違えたと……その身体に刻み込まなければ分からんらしいな」


 金色の瞳がカイゼルを射抜く。


「貴様に王の資格は無い。……骨も残らぬ炎で焼いてやろう――ここで灰燼に帰せ」


 轟音とともに、口腔に紅蓮の光が集う。

 次の瞬間、火山そのものを焼き尽くす大火が解き放たれた。


「来るぞ!」


 リオネルが叫び、二人は同時に飛び退く。

 だが炎は広範囲に広がり、退路を断とうと迫る。


「甘ぇな、オヤジ!」


 カイゼルが咆哮し、両腕を振るう。

 暴風が巻き起こり、炎を押し返した。

 熱が渦を巻き、嵐と炎が激突し爆ぜる。


「俺たちは負けねぇよ! お前のやり方を、終わらせてやる!」


 カイゼルは嵐を纏った拳を振りかざし、父へと突進した。


 その隙を狙い、セリーナが詠唱を終える。


「――《ルクスプロージオ・ノヴァ》!」


 蒼白い爆炎が収束し、巨体の脇腹を爆ぜさせた。


「リオネル!」


「応ッ!」


 リオネルの剣が閃光となり、傷口へ突き立つ。

 竜王の巨体がよろめき、岩盤を崩して膝をつく。


 一撃――確かに届いた。




 しかし、その巨体からは呻き声ではなく、低い笑いが響いた。


「……なるほど、我が血筋と、余所者が組めばこの程度はやれるか」


 竜王はゆっくりと立ち上がり、深紅の炎を身に纏う。


「だが、愚かしいことだ」


 彼は嘲りを込めて続けた。


「リオネル。貴様の父、先の魔王は愚者だった。

 争いを避け、人間どもと馴れ合い、竜族ですら人間と肩を並べる者が現れた。……笑止千万!」


 大地が怒りに震え、炎が天を焦がす。


「竜種は誇り高き存在。人間に膝を屈するなど、恥辱でしかない。ゆえに我は罰を下し、重税を科し、弱き魔族を支配した。それこそが、この魔族領を律する唯一の道だ。我こそが、魔族の王にふさわしい!」


 咆哮とともに、炎の奔流が再び燃え広がる。

 圧倒的な支配の意志が、戦場を覆い尽くした。


 だが、その炎を正面から見据える少女がいた。

 セリーナ。


 蒼き瞳に恐怖はなく、真っ直ぐに竜王を射抜く。

 彼女の声は、熱に呑まれることなく響き渡った。


「ここに芽吹いている命達を――否定する権利は、アナタにありませんわ!!」


 その言葉は炎を裂くように鋭く、戦場に轟いた。


 竜王ドラグノアが、初めてわずかに眉を動かした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ