表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/15

第1話:宮廷の陰謀と追放



 宮廷の大理石の廊下は、いつもより冷たく広く感じられた。


 セリーナ・フォン・アルトシュタインは、背筋を伸ばして歩きながら、胸の奥に湧き上がる奇妙な感覚を噛みしめていた。


 恐れではない。


 悲しみでもない。


 代わりにあったのは――微かな苛立ちと、未知への好奇心。




 数時間前まで、彼女は華やかな舞踏会の中心に立ち、絹のドレスをまとい、父の思惑通りに微笑んでいた。

 豪奢な髪飾りと宝石に彩られた「悪徳令嬢」。

 人を見下すように笑い、言葉巧みに弱者を貶める――そう演じさせられるのが、アルトシュタイン家の娘である彼女の「務め」だった。


 それが今日、すべて剥ぎ取られた。


 そう彼女はーーーー屋敷を追放されたのだ。


「ふふ……これがお父様のいう“ご褒美”ですのね」


 唇に浮かんだのは、皮肉めいた微笑み。

 涙の一滴すら零れない。

 むしろ胸の奥で燃え上がるのは――昂ぶりだった。


 これまで抑えてきた本当の自分。

 誰にも明かせなかった膨大な魔力を、この身で試せる。

 “追放”とは、セリーナにとって解放でしかなかった。



 馬車の車輪が石畳を離れ、宮廷を後にする。

 窓の外に広がるのは灰色の空と荒野。遠くには、どす黒い雲をまとった森が横たわっていた。――魔王領。


 かつて魔王が治め、恐怖と尊敬の対象だった地。

 今は四天王の私利私欲で分断され、秩序を失った無法地帯。


「久しぶりに見る外の世界にしては……ふふ、些か刺激が強いですわね」


 小さく呟く。

 普通なら恐怖に身を竦めるはずだ。だが、セリーナの胸に芽生えるのは、不思議な期待感だった。


 風に混じる湿った匂い。鼻をつく金属のような血の臭い。森の奥から響く低いうなり声。

 普通の令嬢なら、窓を閉めて怯えるだろう。

 だがセリーナは、その全てを新鮮な刺激として吸い込むように目を細めた。


「……面白くなりそうですわ」



 やがて馬車が止まり、騎士が扉を開ける。


「お嬢様、この先は……本当に危険でございます。今ならまだ戻ることも――」


「まあ、ご親切にどうも。でも心配は無用ですわ」


 セリーナは軽やかに馬車を降り、裾を払った。


 冷たい風が頬を撫で、湿った土と草の匂いが押し寄せる。森の奥から漂う魔物の気配に、彼女は小さく息を吐いた。


「さあさあ、もう貴方たちの居場所ではありません。さあ、帰りなさい。……私は一人で充分ですもの」


 その言葉に、騎士は言い淀み、やがて深く頭を下げた。


「……ご武運を、お祈りいたします」


「ここまでありがとう。ふふ、きっと退屈はいたしませんわ」


 セリーナは片手を掲げ、指先に青白い光を灯した。

 木々の間で低く唸る下級魔物たちが、その光にざわめく。


「ごきげんよう、魔王領。――追放令嬢セリーナ・フォン・アルトシュタイン、ここに参りましたわ」


 吐き気のような感覚を胸に抱きながらも、彼女の足取りは軽やかだった。

 己を縛る鎖はもうない。

 今ここから、彼女自身の物語が始まるのだ。


読んでくださり、本当にありがとうございます。

久しぶりに長編作品に挑戦しているので、手探りな部分も多いのですが、こうして書き進められているのは読んでくださる方のおかげだなぁと感じています。


セリーナとリオネルの物語はまだ始まったばかり。

これから四天王との対峙や、世界の秘密が少しずつ明らかになっていく予定です。私自身も、彼らがどんな顔を見せてくれるのか楽しみで仕方ありません。


もし少しでも「続きが気になるな」「キャラクターが面白そうだな」と思っていただけたら、感想やご意見をいただけると嬉しいです。

作品の方向性を整えるヒントにもなりますし、何より励みになります!


それでは、次回もお付き合いいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ