空白の影
ゼノンが倒れた後の戦場には、しばし重苦しい静寂が漂っていた。粉塵の中に立つエリオットの呼吸が、まるで波のように荒く続いている。
彼の体はひどく損傷していた。紅羊の力が抜け落ちた瞬間から、全身の痛みが倍増している。傷口から流れ出る血は止まらず、脚がふらついた。
「チッ…まだ…終わっちゃいねぇ…」
ゼノンの巨体は動かないままだったが、周囲を取り囲む上層部の部隊の影が、徐々に浮かび上がってきた。
エリオットは剣を握り直そうとするが、指先の感覚がほとんど残っていない。
そこへ、仲間たちの姿が駆け込んでくる。ソラが焦った顔で叫んだ。
「エリオット! 無茶しすぎだ!」
エリオットは微かに笑うと、血を吐きそうになりながらも立ち続けた。
「ゼノンは…倒した。だが…まだ…」
ソラが彼の肩を支える。
「動けるわけないだろ! いったん引くぞ!」
しかしエリオットは首を振った。
「リヴが…いない。探さなきゃ…」
ソラの顔に苦い影が走った。
リヴが戦いのさなかに姿を消したことは、仲間たちの間でも動揺を呼んでいた。
その時、別方向からリリーの部隊が駆け付けるはずだった空間に、見知らぬ兵士たちが現れた。上層部の紋章を刻んだ装甲服の部隊。
彼らはエリオットに目を向け、一斉に銃を構える。
「生きては帰さない、エリオット・カラム。」
冷酷な声が響いた。
ソラが剣を抜き、エリオットをかばうように立ちはだかった。
「来るぞ!」
エリオットは血の混じる吐息を吐きながら、前を見据える。
身体は限界だ。それでも、戦わなければ終わる。
「…まだ死ぬわけにはいかねぇんだよ。」
そして、再び戦場の空気が震え始めた――。
ーー倒れぬ意志は、なお血を流し続ける。
失われた仲間を探す戦いが、また幕を開ける。




