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戦場への扉

目の前の扉が、重々しく開いた。

 空気が変わる。鉄と硝煙、死の匂いが、喉を焼いた。


 「第六小隊、出撃準備完了。グール兵、前へ。」


 無機質なアナウンスが響く中、エリオットは数人の兵士と並び、前進を始めた。

 その足音は、まるで機械の行進のように規則正しく、冷たかった。


 「大丈夫よ。意識がはっきりしてるうちは、まだ“あんた自身”でいられる。」


 横を歩くリリーの声が聞こえる。

 彼女の瞳は、ほんのわずかに揺れていた。普段の冷静な仮面の奥に、見えない感情が灯っている。


 輸送機の扉が閉じたと同時に、重力が変わった。機体が滑るように発進し、空へと舞い上がる。

 その振動の中で、エリオットは自分の手を見る。


 ――これは、本当に俺の身体なのか?


 あの日からずっと、自分の鼓動さえ“機械の音”にしか聞こえない。



 数分後、輸送機は都市外縁部の「封鎖区域α」に到着した。

 荒廃したビル群。崩れかけた高速道路。焼け焦げた車と、風に舞う灰――。


 その中心に、異形の存在が佇んでいた。


 「……なんだ、あれは」


 エリオットが呟く。

 人の形を模したようで、しかしどこか歪んでいる。皮膚は金属と肉が混じり合い、目は無数に増殖していた。


 「“紅羊”のからよ。本体じゃない、でもあれは『入口』なの。」


 リリーの声が低くなる。


 「これより戦闘開始。対象コード:紅羊種第十七号“サクラメント”。各隊は展開せよ。」


 ヴァレンの声が通信越しに入る。相変わらず感情のない口調だった。


 「命令は簡単だ。対象を破壊し、周辺のデータを回収。被害は想定済み、損耗も許容範囲内。」


 つまり、死んでも構わないという意味だった。



 戦闘が始まった。

 味方の兵士が二人、殻に近づいた瞬間、それは「開いた」。


 断末魔が響くより早く、紅羊の殻が鞭のように伸びた触手で兵士を貫いた。血が、肉片が、機械の油が混じって飛び散る。


 「クソッ……!」


 エリオットは咄嗟に跳び出した。視界が赤く染まる。

 ――来る。体が勝手に反応する。


 右腕が変形し、異形の刃が生まれる。跳躍、回転、切断。敵の触手を斬り払い、肉片が空を舞った。

 しかしそれでも、紅羊の“殻”はまったく動じなかった。


 それどころか、声のようなものが聞こえた。


 ≪……キヲ……カエセ……ヒトヨ……カナシミヨ……≫


 耳ではなく、頭の奥に響く“言葉”。

 理解できないのに、何かを訴えかけるようなその声に、エリオットは一瞬、硬直した。


 「エリオット!! 下がって!!」


 リリーの叫びが届いたその瞬間、紅羊の“殻”が開ききった。

 中から現れたのは――完全に人の形を失った何かだった。


 だが、エリオットはそこに“誰か”の顔を見た気がした。


 「……母さん……?」


 呟いた声と同時に、世界が崩れた。


 彼の視界が歪み、脳が暴走を始めた。神経が焼けるように熱を持ち、血が沸騰する。

 右腕が膨張し、骨がきしみ、異形の刃が再び伸びた――止まらない。


 「やめろ……俺じゃない……!」


 だが体は止まらなかった。

 紅羊の“本体”に突撃し、何度も何度も、刃を振るう。


 その瞬間、ヴァレンの冷静な声が通信に入った。


 「……制御失敗。プロトコルBへ移行。」


 そして、別命令が静かに告げられる。


 「グール・エリオット・カラム、暴走兆候。排除対象に変更。」

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