表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/50

異形の刃

金属の扉が開くと、冷たい風が肌を刺した。

 エリオットは訓練棟と呼ばれる巨大な空間に足を踏み入れた。天井は遥か高く、無数の照明が白い光を放ち、人工的な風音が機械の肺のように響いていた。


 壁際には様々な兵器、模擬戦用の標的、そして……人間の形を模した戦闘用ダミーが並んでいた。


「来たわね。」


 リリーが声をかけてきた。すでに戦闘服に着替えており、その動きには一分の無駄もない。

 彼女の背後には、同じような改造兵士――グールたちが並んでいた。全員、目の奥に光がなく、生気のない機械のような面持ち。


「今日は“起動試験”。戦闘に必要な感覚が、まだ機能するかどうかを試すの。」


 リリーは手元のパッドに触れ、数列の命令を入力した。すると天井から降下した巨大な扉が開き、訓練用フィールドが姿を現す。


 その瞬間、エリオットの中で何かが「反応」した。


 心臓が跳ねたのではない。脳に冷たい刺激が走り、視界が一瞬で研ぎ澄まされた。

 空間の奥行き、敵の動き、障害物の位置、すべてが“自動的に”浮かび上がってくる。


 ――まるで、戦うことが本能であるかのように。


「行って。」

 リリーが言った。


 エリオットの足が、自然と前へ出た。意識の外で筋肉が反応し、体が動く。

 敵ダミーが前方から迫る。鋼鉄製の人型機械。その瞬間、彼の右腕が脈動した。


 「……っ!?」


 腕が変形した。

 まるで意志を持つかのように金属が蠢き、骨格がきしみ、右腕が長く鋭い刃に姿を変えた。

 その異形の武器が、次の瞬間、ダミーの頭部を切り裂いた。


 ――軽い。あまりにも、軽すぎた。


 ダミーは音もなく倒れ、冷たい油が床に流れる。

 それを見た他の兵士たちがざわめいた。だが、誰も言葉を発さない。ただ、リリーだけが小さく呟いた。


「……やっぱり、異常ね。」


 異常。

 その言葉が、エリオットの耳に深く突き刺さる。


「やめろ……」


 息が荒くなり、視界が歪んだ。自分の体が、自分のものでない感覚。

 右腕の刃が脈動している。何かを「求めている」ようにさえ感じる。


「戻れ……!」


 自分の声が、虚空に吸い込まれた。


 突然、別のダミーが起動した。不規則な動きで迫ってくる。だがエリオットは動かない。いや、動けなかった。


 次の瞬間、背後から閃光が走った。


 「下がれ!」


 リリーの声とともに、赤い閃光がダミーを撃ち抜いた。煙と火花が散り、フィールドが一時停止する。


 「まだ制御できないなら、無理に動かないで!」


 リリーが駆け寄ってくる。怒っているのではなかった。むしろ――怯えているように見えた。


「あなたの中にある“兵器”は、まだ安定していないのよ。少しでも刺激を与えれば、自壊する可能性だってある。」


 エリオットは黙ったまま、自分の腕を見る。

 刃はゆっくりと戻り、元の形に“擬態”した。だがその過程さえ、彼にとっては恐怖だった。


 「これは……俺なのか?」


 その問いに、リリーは沈黙したまま顔を伏せた。


「たぶん、まだ“あんた”は全部残ってる。でも――それがどこまで持つかは、分からない。」


 彼女の声が、かすかに震えていた。


( ̄▽ ̄)拡散・ポイントつけてくださるとありがたいです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ