「静かなる反旗」
夜。
廃ビルの屋上。
二人は瓦礫の隙間に身を潜め、遠くの地平線を見つめていた。
そこには、黒煙が立ちのぼっていた。
紅羊との前哨戦が始まった証だ。
「見えるか?」リリーが問いかける。
エリオットは双眼鏡を覗いた。
そこには、奇妙な動きの“兵士”たちがいた。
「動きがおかしい。グールじゃない、あれは……」
「実験型だね。」
リリーは呟くように言った。
「“未完の兵士”シリーズ。人格の書き換えを完全に終えてないプロトタイプ。
戦闘中に記憶が断裂する。時に味方を撃ち、時に笑いながら自壊する。」
「……そんなものを、まだ使ってるのか。」
リリーは頷いた。
「上層部は、紅羊を倒すためなら何でもやる。
でも、奴らは理解してない。紅羊に届くのは、強さじゃない。
“人間性を捨て切った何か”だけ。」
エリオットは拳を握った。
「じゃあ、俺たちは?」
リリーは少しだけ笑った。
「――“まだ人間の皮を被ってる”。だからこそ、上には逆らえない。」
エリオットは黙った。
しばらくの沈黙のあと、リリーが続けた。
「ねえ、あのとき……死ぬと思った?」
「思った。」
「なのに、今も生きてるって、変だよね。」
「変だな。でも……多分、それでいいんだ。」
エリオットは拳を解いた。
「俺は、もう命令で動かされたくない。
誰かの戦争じゃなくて、自分の戦いを選びたい。」
リリーの瞳に、微かな灯が灯る。
「なら、始めよう。」
彼女はポケットから、小さなチップを取り出す。
「これは、上層部の情報端末から抜き取った転送鍵。
地下に“実験棄却区画”がある。廃棄された兵士たちが、まだ生きているかもしれない。」
エリオットはその意味を悟った。
「反乱か。」
リリーは頷く。
「紅羊を殺すには、まず人類の中の“獣”を先に殺さなきゃいけない。」
エリオットは深く息を吐いた。
「やるしかないか。」
リリーは銃を整える。
その手は確かに震えていた。けれど、止まらなかった。
「静かに、でも確実に。――反旗を。」
そして夜が明け始める。
二人は、目指すべき本当の戦場へと、足を踏み出した。




