嫌われ回復術師は今日もぼっちで討伐へ……
迷宮ギルドの受付嬢が個人書類にざっと目を通して溜息を吐き出す。
カウンター向かいの当人は少し困ったように頬をかいた。
「仲間の回復が出来ない回復術師なんて前代未聞です! これじゃ、どこの勇者パーティにも入れませんよ?」
そう言いながら彼の経歴欄を指先でポンポンと叩いた。
そこには以前組んだパーティメンバーからの苦情がびっしり記載されていた。
「ではソロ討伐に出たいのですが……案件を見繕って頂けますか?」
彼の言葉で彼女の頬がぴきっと引き攣る。
「あなた回復術師ですよね? お一人で戦うつもりですか? アホですか? そんなに剣や拳に自信がおありですか?」
彼女の大きな瞳がジロジロと彼を見回すが、その身体に伝説の武器は背負ってないし、筋骨隆々の肉体も持ち合わせていない。
「あいにく僕にはこの回復術しかありません。でも、日々トレーニングを重ねているので自信はあります」
「だけど仲間は治せないんですよね?」
「えぇ」
「ほら、邪魔だ、どけっ!」
どんっ!
二人の会話を遮るように、突如、粗雑な剣士が後ろから割り込んできた。
押された彼は数歩よろけてから、相手へ静かに苦言を呈する。
「割り込みはやめて下さい」
「あ? うるせぇな……ひぃぃぃっ‼︎」
突如、悲鳴を上げて剣士が腰を抜かした。
「どうされました⁉︎」
「あぁ……彼とは以前、組んだことがありまして……ねぇ?」
「ひ、ひぃぃぃっ! 殺されるぅぅっ‼︎」
バタバタバタバタッ……
剣士は情け無い叫び声を上げながら、物凄いスピードでこの場から走り去った。
「⁇⁇」
「ちょっとばかし鍛え過ぎてしまって……僕の回復術は嫌がられてしまうんですよ。そこに書いてありません?」
彼の言葉で彼女は再度、書類に目を落とした。
「えっと……『治せない回復術なんてありえない』『もう二度と組みたくない』『夢に出て来そう』……ほぼ悪口ですが、具体的な内容は書かれていませんね。すみませんが、もう少し事情を伺ってもよろしいですか?」
きちんと内容にまで目を通さなかったことを彼女は恥じ、彼に詫びた。
「僕の回復術は……『回復させ過ぎてしまう』んです。細胞を活性化させ、増殖、膨張、破裂させる……なので仲間ではなく魔物に向けて放ちます」
「おえっ……それは相当な攻撃力がありそうですね」
彼女は青ざめながらも、彼に討伐案件をそっと差し出した。
「ありがとう」
にこりと微笑んだ彼が、後に有名なソロ討伐者になることを、この時はまだ誰も知らない。