《英雄の過去と少年の未来》
かつて魔物を前に怯えていた少年“イヴァン”は、いつの間にか成長し、今や立派な青年となっていた。
かつては細かった腕は鍛錬により太く逞しくなり、白く柔らかかった手は、今では木の皮を触るようにゴツゴツと硬くなっている。掌には無数のマメが刻まれ、日焼けした肌は小さな傷跡で埋め尽くされていた。それでも、幼い頃と変わらず優しげなその瞳だけは、今も同じ輝きを保っている。
そんな彼は、今まさに旅立ちの準備をしていた。―――10年前にその生涯を閉じた《勇者エリク》、いや本名『アル』が倒した魔王が新たに復活し、魔物を生み出し始めたのである。
彼の身体には、かつて共に過ごした偉大な英雄たちの遺品が身に付けられ、“剣聖スリグナル”の剣が携えられている。
《ヴァルハラの家》―― それは、かつて世界を救った英雄たちが余生を過ごし、やがて訪れる死を待つための場所。そこで暮らしていた少年“イヴァン”は、英雄たちの死を看取る中で知った――彼らがどのような思いで英雄となったのか、その背景に隠された苦悩と決断の瞬間を。
しかし、やがて英雄達はみんな死者の国へと旅立ち、今は、青年“イヴァン”以外は誰も住んでいなかった。
彼は重くきしむ扉を開ける。
胸にある古びた地図は、かつての勇者“エリク”から託されたもの。地図と共に、勇気と名を託された。
かつての剣聖“スリグナル”から授けられた剣技は、身体に染みつくほどに磨かれ、いつでも魔物を切り刻む準備ができている。
賢者“オルヴィン”から託された知識と鍵は、ただの理論ではなく、人々を守り、旅路を生き延びるための確かな知恵となっている。
聖騎士“エイストル”から受け継いだ意志は、身分に関係なく、困っている人なら誰でも助けるという固い誓いになっている。
聖女“サクライ・ツムギ”から受け取った想いと過去は、単なる復讐心や正義ではない彼の心を強く支える光となっている。
「……行ってます」
そう静かに呟くと、イヴァンは大きく息を吸い込み、一歩踏み出す。―――かつての英雄たちとその家族の墓を守り、その名を後世へと語り継ぐために。
だがそれだけではない。彼の背には、彼らの想いと意志と共に、新たな物語を紡ぐ使命が託されている。
――そして、彼は歩み出す。かつての英雄たちがそうしたように、今度は彼自身が魔物に怯える人々と、何かに怯えているであろう新たな魔王を救済するために。
そうして、彼は新たな英雄となる。
――――英雄たちの「過去」と、次の世代の「未来」を紡ぐ者として。
そう、これは、英雄たちの「過去」と青年イヴァンの「未来」を繋ぐ、切なくも温かい物語である。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
これにて、この物語は一旦完結になります。
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改めて、最期までお付き合い頂き、ありがとうございました!
(真希ひろい)




