表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/18

⑤《託されたモノ》

【第五章:受け継いだ種】


 目が覚めると、木造の天井が見えた。私は魔王の城の近くにあった村の小屋にベッドに横たわっていた。勇者が言付けをしていったのだろう、小屋の管理人を名乗る老人は、水を差し出すだけで、すぐに部屋を出ていった。この世界の人間と話す気は更々なかったので、正直助かった。

 サクラの存在しないこの世界では、全てがどうでもよくなっていた。

 


「わぁぁぁ!」神殿の外から歓声が聞こえてくる。

(うるさいな……)何事かと思い、ぼんやりと窓の外を眺めた。


「魔王を倒した英雄、勇者エリクの凱旋だ〜〜!」

その言葉が耳に届いた瞬間、私の中で何かが弾けた。人々の歓声を浴びている“勇者エリク”の姿が見えた瞬間、全身が怒りで燃え上がる。


(なんで、あいつが称えられているの?)

私は歯を食いしばり、拳を強く握りしめる。人々の歓声が耳障りでたまらなかった。


(あいつは、サクラを……私の大切なサクラを殺したのに……)

涙が溢れそうになる。サクラは、私にとってただの魔王ではなかった。彼女は優しく、どこか儚い存在だった。サクラと過ごしたあの日々、彼女の微笑みが脳裏に蘇る。だけど、その微笑みを奪ったのは――勇者エリクだ。


(許せない……)

エリクも、それを称賛するこの世界の人々も、すべてが憎く思えた。


(何より、何もできなかった私が許せない……)


 その時だった。突然、頭の中に強い声が響いた。

  【強い思念を確認。魔王の種を獲得しました。】


「え?」


 驚いて身体を見下ろすと、私の体が一瞬黒く光り、内側から力が湧き上がってくるのを感じた。私は驚き身をよじる。だが次の瞬間――【私を倒しても、それは真の終わりではない】という言葉が頭の中に響いた。


 柔らかくて、優しいあの声……もう一度聞きたいと何度思ったか分からない。間違いない……サクラの声だ。


(サクラ?……サクラなの!?、サクラよね!!)私は叫ぶ。……誰も答えない。


 でも、その代わりとでも呼ぶべきか、心臓の辺りがロウソクの火に当たっているかのように熱くなり始めた。私はそっとその熱に触れる。


 その瞬間、頭の中に、サクラの過去と想いが流れ込んできた。――生まれた瞬間から孤独だった日々、初めて魔物と話した日。人間が聖女と呼ぶ少女と出会った日、初めて名前を貰えた日。勇者に殺され、魔王の種が魂から剥ぎ取られたあの日。それらはとても鮮明で、私はサクラや魔物たちと過ごした日々を思い出し、涙が溢れていた。


想い出にひたっていると、ふと、さっきのサクラの言葉が脳裏によぎる。――サクラは、『私を倒しても、それは真の終わりではない』と言った。


(そうか、サクラ……分かったよ。 あなたは勇者に殺された。でも、勇者はあなたの過去や想い、力までは奪っていかなかった。そしてどうやら私はそれを受け取る役目に任じられたらしいね……)


(過去、想い、力……あなたの存在の欠片を拾ってしまったら、私はもう死ねなくなるじゃない。)

 こうして私は死ねない呪いをかけられたのである。


 それから数十年、サクラの存在の欠片を抱えながら、私は村でひっそりと暮らしていた。だがその間、一日だってサクラのことを思い出さない日はなかった。人々が「魔王を倒した勇者」の功績を讃える日には、私はこっそりと魔王城に足を運び、密かに作ったサクラのお墓に花を供えていた。


「サクラ……」

彼女との日々を思い返すと、胸が締め付けられる。皆が無邪気に楽しむその祭りが、私にとっては苦痛でしかなかった。彼らが称える英雄は、私にとっては――大切な人を奪った張本人だから。


――――――――――――――――――――――


【第六章:運命の継承】


 やがて、年を重ね、死が近づくのを感じ始めた頃、ある噂を耳にした。

 ――『大陸の果て、静かな森の中に《ヴァルハラの家》という平屋が存在する。そこには、勇者エリクを始め、引退した英雄が何人か住んでいるらしい』という噂が。


 その噂に引かれるように、私はその家を訪れた。そこには、老いてもなお英雄の風格を持つ勇者エリクがいた。だが、彼も私の姿を見て驚きを隠せないようだった。


「……あなたは、魔王の……」

 彼の声は震えていた。

 

「久しぶりね、勇者様。ねぇ、あの日の続きをしてもいいかしら?……なぜ、サクラを殺したの?」

 私もまた、あの日の問いを投げかける。


勇者は黙ったまま、私をじっと見つめていた。しばらくして、彼は低く、静かな声で答えた。

「魔王は魔物を生み出し、多くの人々を傷付け、その命を奪っていた。人々が勇者を待ち望んだ頃、僕の村に神託が下りたんだ。()()()()()()()()()()()()()

 

「……そう……分かったわ」

私はそれ以上、何も言わなかった。彼の目からは覚悟と決意が見え、私が望む答えは返って来ないと分かったからだ。―――そして、それが彼との最期の会話となった。


 勇者エリクが死んだ後、私の体も限界に近づき、死を覚悟し始めた。

 

 私がサクラから受け継ぎ、ここまでずっと隠してきたこの力“魔王の種”は、再び誰かに受け継がれるのだろう。それでいい、それがいい。

でも、私一つだけ心残りがあった。サクラの想いが、私の死と共に消してしまうかもしれないことだ。


(どうすれば……サクラの想いを未来に託せる?)


 考えた末、私は《ヴァルハラの家》で暮らしている少年“イヴァン”に目をつけた。少年は、他者の記憶や過去を共有することができる特殊なスキルを持っていた。それに彼は、まだ幼いが、その瞳には強い決意と優しさが宿っている。


 私はイヴァンを呼び寄せ、そっと彼の手を握った。


「イヴァン……お願いがあるの。これは、少し重い運命かもしれないけれど……」


イヴァンは無邪気に私を見上げた。その表情を見て私は、イヴァンにサクラの想いと記憶を託すことに決めた。



――――――――――――――――――


 死期を悟った私はベッドに横たわり、《追憶(ついおく)》の(あかり)》で最期の夢を見ていた。

 地球からの召喚、神殿での辛く孤独な日々、魔王城へ連れ去ってくれた魔物。そして魔王“サクラ”との出会いと過ごした日々。剣を携えた勇者、サクラの死、サクラから受け継いだ力と想いと記憶。―――そして、勇者との再開。


 もう目を開ける力も残ってないが、少年“イヴァン”が手を握ってくれていることは分かる。

 

「イヴァン、君に……この力を預けたい。これは、サクラという人の大切な想いなの」


イヴァンは少し不安そうに私を見つめたが、やがて、決意を込めた表情に変わった。


「分かりました。どうか安心してお眠り下さい。僕が全て受け継ぎ、次に託します!」

 

「ありがとう、イヴァン……」

 

最後に、サクラの笑顔が浮かんだ。彼女の想いはこれからも生き続ける。それだけが、私の救いだった。


そして、私は静かに瞳を閉じた。


 こうして、別の世界からこの世界へ無理やり召喚され、神殿に“聖女”として崇められながらも、魔王を愛してしまった《ツムギ・サクライ》の人生は静かに幕を閉じたのである。

 ―――――――――――――――――――――――


【魔王種の宿主の死を確認。これよりつぎの宿主への移行を開始します】

 聖女“ツムギ・サクライ”の死と共に、かつての魔王“サクラ”の力は次の世代へ受け継がれた。この世界に、世界という構造が存在する限り、魔王が消滅することは永遠にないのである。



 勇者エリク及び聖女ツムギ・サクライの死から10年後――――魔物のいない平和を享受していた人々は、再び恐怖のドン底に落とされることとなる。

 《魔王及び魔物の復活が確認された》という報せによって。


 だが、その恐怖の中で、一人の少年が静かに立ち上がる。――その少年は強い意志と優しげな瞳を持っていた。

 少年は、英雄たちから託された想いと意志と共に旅に出る。彼の旅は、単なる復讐でも、正義のためでもない。彼の目的は、魔物に苦しめられている人々を救い、魔王を解放すること。―――そう、二度と同じ悲劇が繰り返されないように、世界を救うための旅へと向かったのである。

 


これにて、聖女サクライ・ツムギの話は完結です。


次回はエピローグです。イヴァン少年が出てきます!


あともう少しのお付き合い、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ