②《剣の道、心の道》
【第三章:剣の道、心の道】
師匠である《剣聖スリグナル》の元を去った後は、一人で旅を続けた。そして、14歳になった年、やっとの思いで騎士団に正式に加入することができた。その中では一番年下だったが、師匠から教わった剣術のおかげで、同期の誰よりも剣技に優れていた。
「お前、すごいな!剣の腕が半端ないぞ!」
同期たちが驚きの声を上げた。
「…まあな。」私は軽く笑って返した。
騎士団に入って最初の任務は、辺境の小さな村を守ることだった。任務自体は単純なものだったが、その中で私は、戦いの厳しさと仲間を失う痛みを初めて知った。
「どうして、こんなことに…」
倒れた仲間を見つめ、私は言葉を失っていた。全身が震え、剣を握る手も力が入らない。
「これが戦場だ、逃げたくなる気持ちは分かるが、諦めるな」
騎士団長が冷静な声で言った。彼の目は、かつて数多の戦場を生き抜いてきた者だけが持つ、強さと悲しみが宿っていた。
「……でも、私にはまだ無理です」
「無理だと思った時こそ、前を向け。お前が騎士になると決めたのは、そんな時に諦めるためじゃなかったはずだ」
その言葉に、私はハッとした。そうだ、騎士になると決めた以上、逃げるわけにはいかない。
覚悟を決め、その後も、数々の任務をこなしていると、私の剣の腕が噂となり、男爵家から『娘の護衛騎士になって欲しい』という打診が来た。
「ご令嬢の護衛騎士、ですか?」
男爵家の使者は、にこやかにうなずいた。
「そうだ。平民出のお前にとっても、かなりの名誉だろう。しかも報酬は今の倍だぞ」
確かに、貴族の騎士になるというのは破格の待遇だった。平民の私にとって、これ以上のチャンスはないかもしれない。けれど、私は断った。
「申し訳ありませんが、お断りします」
「なぜだ? これは滅多にない好機だぞ」
「私がなりたい騎士は、ただ一人の貴族を守る者じゃない。戦えない者すべてを守る騎士です。だから、男爵家の騎士にはなれません。どうかお引き取りを。」
使者の顔が曇ったのが分かった。
「……その選択が、どれほどの影響をもたらすか、分かっているのか?」
「分かっています。それでも、この道を選びます」
その数日後、私は騎士団から呼び出された。
「エリストル、お前は『生活態度の不良』という理由で、騎士団を去ることになる」
団長がそう告げた瞬間、部屋は重い沈黙に包まれた。
「理由は、それだけじゃないですよね。私が男爵家の申し出を断ったからでしょう?」
団長はしばらく私を見つめ、深いため息をついた。
「まあな。貴族の面子を潰したんだ。俺にもどうすることもできん」
私は団長の言葉を聞きながら、心の中で決意を固めた。
「ちょうどいいです。旅に出るつもりでしたから」
団長は驚いた顔をしたが、すぐに穏やかに笑った。
「そうか。なら、お前の旅が良いものになることを祈っている」
そうして、私は騎士団を去り、再び旅に出ることにした。今度は《戦えない者すべてを守る騎士》として。
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騎士団を去った私は、村々を回り、困っている人々のために剣を振るった。すると、ある日、村で子供たちが魔物に襲われているのを見かけた。
「危ない!」
私は即座に剣を抜き、魔物を倒した。怯えた子ども達が私に駆け寄ってくる。
「騎士様、ありがとうございます!」
「もう大丈夫だ。怪我はないか?」
子ども達は安堵の涙を流しながらも、憧れの表情を向けてきた。その姿に、私は胸が温かくなった。
それからも私は、身分関係なく命を顧みずに村人を助け続け、やがて、‘’聖なる心を持った騎士様”といった意味で、『聖騎士』と呼ばれるようになった。
「どうして騎士になったんですか?」
ある日、村の若者が、興味深そうに私に尋ねてきた。
「戦えない人を少しでも多く救いたいからさ。それに、憧れるだろ? 危険を承知で命を懸けて人々を守る騎士に」
若者はしばらく私を見つめ、真剣な顔でうなずいた。
「確かに……俺も、そんな騎士になりたいです!」
「なら、まずは剣の扱い方からだな」
私は、弟子入りをしていた若者たちに剣術を教える傍ら、人々を脅かす強大な魔物や略奪者を倒していった。『英雄』、『聖騎士』と称えられたが、決して慢心はしなかった。英雄とは称号ではなく、「誰かを守り続ける存在」だと思っていたからだ。
ある日、弟子たちに剣術を教えていると、一人の弟子が困った顔をして言った。
「師匠、どうしてそんなに優しいんですか? 他の師匠たちは、もっと厳しく教えるのに」
私は笑って答えた。
「私も昔は厳しかった師匠に教わったさ。でも、守るための力ってのは、ただ厳しくするだけじゃ育たない。褒めて、抱きしめて、その人を信じることも大事なんだよ」
弟子は目を丸くし、やがて笑顔を見せた。
「なるほど……ありがとうございます、師匠!」
こうして、私は旅を続けながら、次世代に“守るための力”を教え続けた。誰かを守る。それが騎士としての私の誇りであり、使命だった。
騎士団長の口ぶりがお気に入りです。
次で、『聖騎士エイストル』の話は終わりになります。




