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第9話 再会


「リーリエちゃんじゃないか。それにマルセルさんも。一体どうしたんだい? こっちに来るのなら連絡を入れてくれれば良かったのに」


 玄関の扉を開け顔を出したトリスタンおじさんは予想外の来訪者に驚きつつも笑顔で私達を出迎えてくれる。

 以前会った時より少し老けたみたいだがまだまだ健在のようだ。


「すまんすまん、急を要していたんでな。手紙を送る暇もなかった」


「何か訳ありのようだな。まあ詳しい話は中で聞こう。おーいアリアベル、リーリエちゃんとマルセルさんが来たぞ」


「え? リーリエちゃんとマルセルさんが? 遠いところからお疲れでしょう。さあさあお連れ様も中へどうぞ。うちのミルクは絶品ですよ」


 続いて家の奥から出てきたアリアベルおばさんも相変わらず元気そうで何よりだ。

 私達だけでなく荷馬車で私達をここまで送ってくれたアルフリードさんも一緒に家の中に招き入れる。


「すみませんね、それではお言葉に甘えてお邪魔します。実は私見ての通り行商人をしておりまして、もし何かお入り用でしたら格安で手配させていただきますよ」


 アルフリードさんはこんな時も商魂逞しい。

 私達は苦笑しながら二人に促されるまま入り口の扉を潜り奥の部屋にある来客用の椅子に腰を下ろした。

 精一杯のおもてなしを受けた後でお父さんがここに来るまでの一部始終を説明すると二人は眉を顰めながらまるで自分達の事のように聖女フレミアとセリオス殿下へ対する不快感を露にする。


「噂通りとんでもないボンクラ王子のようだな。あんな男と一緒にならなくてすんで逆に良かったんじゃないか?」


「おじさんもやっぱりそう思うよね? 私も同じ事を考えていました」


「それにしても国王陛下も人が悪い。婚約話を持ち掛けるならセリオス殿下じゃなくて兄君の方にすればよかったのに」


「え? セリオス殿下にお兄さんがいたの? それは初耳です。お父さんは知ってる?」


「ああ、そういえば昔王都でも話題になった事があったな。リーリエ、お前がまだ物心つく前の話だが王室に百年に一人の神童が生まれたと国中で兄君の噂で持ちきりだった事がある。しかし最近はすっかり話を聞かなくなったな」


「へえそうなんだ。何か事情でもあるの?」


「簡単な話だ。兄の方はセリオス殿下とは違って側室の子供だからな。お前もよく知っているだろうがセリオス殿下は相当なボンクラだ。兄の評判が上がればセリオス殿下ではなく側室の子である兄を次期国王に推す声が出てきてしまうだろう」


「なるほど……王妃様はそれを阻止したいわけですね」


 確かに王妃様の立場ならば自分の子供、すなわちセリオス殿下を世継ぎにしたいと思うのが当然の親心だ。

 聡明といわれるセリオス殿下の兄君の存在は目の上のたんこぶに他ならない。

 だからあまり表に出てこないように不遇な扱いを受けているんだろう。

 いつの世も権力者って人種は身内の保身ばかり考えていて嫌になる。


「面白くない話をしてしまったな。二人はほとぼりが冷めるまでここを自分の家だと思ってゆっくりするといい。奥の部屋が一つ空いているから好きに使って構わないよ」


「有り難うございますおじさん」

「すまないなトリスタンさん。この恩はいつか必ず返させて貰うよ」


「ははは、それじゃあいつかと言わずに早速明日から牛の世話を手伝ってもらうとするかな」


「おう、任せてくれ!」


 こうして私達親子は当面トリスタンおじさんとアリアベルおばさんの家に居候する事になった。

 一方アルフリードさんは私達と別れ商売をする為に町の広場へ向かっていった。

 しばらくはこの町に滞在するそうなので何かあれば声を掛けて欲しいとの事だ。

 おじさんが言っていた空き部屋とは元々倉庫代わりに使っていた部屋だったがしばらくは使っている形跡もなくそこら中が誇りまみれで蜘蛛の巣が張っているような有様だった。

 しかしお世話になる以上贅沢は言っていられない。

 私とお父さんは手分けをして掃除をすると日が暮れる頃には親子二人が寝泊まりできる程度には片付いた。

 夜はアリアベルさん自慢のご馳走で舌鼓を打ち胃袋を満たすと再び空き部屋へと戻る。


「さあお父さん早く寝ましょう。明日から忙しくなるよ」


 私は両手で拳を握り気合を入れる。

 しかしお父さんはそんな私を複雑な表情で見ている。


「どうしたのお父さん?」


「リーリエ、牧場の仕事は体力がないお前にはちょっと難しいんじゃないかな」


「うっ……」


 確かにお父さんの言う通り日頃碌に運動をしていない私は他の人と比べて体力がない。

 それは王都から出て早々に足が棒のようになって歩けなくなってしまった事でもよく分かる。

 あんな体たらくでは足手まといにしかならないだろう。

 がっくりと項垂れる私にお父さんは優しい口調で続けた。


「牛の世話は俺に任せてお前は自分にできる事で二人を助けてあげなさい」


「自分にできる事って……あ、そうか」


 確かに私にしかできない仕事があった。

 それはもちろん二人の為に衣服を作ってあげる事だ。


 トリスタンおじさんとアリアベルおばさんは牧場を営んでいる。

 ならばそれにふさわしい衣服を私が仕立てよう。

 牧場で働く人間に似合う服装といえばやはりサロペットやオーバーオール系だろうか。

 でもデザインに力を入れるだけじゃだめだ。

 大きな動物を相手にする仕事だからすぐに破れてしまわないように丈夫な生地を使う必要がある。

 昼間の暑い時間は熱中症になる恐れもあるから麦わら帽子も必要だろうか。

 いや機能性を突き詰めるだけじゃ芸がない。

 ここはもっとお洒落な路線も模索するべきだ。

 考えている内にテンションが上がって目が冴えてきた私は床に画用紙を広げて思いついたアイデアを次々とイラストに落としていく。

 一度のめり込むと周りが見えなくなってしまうのが私の悪い癖だ。

 気が付けば夜もかなり更けておりお父さんは布団の中でいびきをかいて熟睡している。


 でも衣装の方向性は粗方定まった。

 本格的な衣装の製作は朝になってからにしよう。

 布団に潜り目を閉じると瞬く間に心地よい睡魔が襲ってきた。





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