第5話 騎士団へのプレゼント
「ふわぁーあ、おはようございます」
翌朝、目の下にクマを作り大欠伸をしながら宿泊部屋から出てきた私を見たアルフリードさんがぎょっとした表情で駆け寄ってきた。
「リーリエさん、あれからずっと起きていたんですか?」
「はい、日が昇るまでに完成させたかったので……そうだ、折角ですから私の自信作を見て下さい」
私はアルフリードさんを部屋の中に招き入れ壁に立て掛けられたそれを指差した。
「何ですかこれ? 盾にしてはちょっと変わった形をしていますね」
アルフリードさんは初めて目にするその物体が何か分からずに小首を傾げている。
私は得意気にふふんと鼻を鳴らしながら答えた。
「これは鎧といって身を守る為に着る物なんです。衣服に盾のような防具がくっついたようなものだと思って下さい」
私は昨夜から今朝にかけてアルフリードさんに売って貰った裁縫の道具や布や木材、金属の板を組み合わせて騎士様の為に簡単な鎧を作っていた。
前世ではよく騎士キャラのコスプレの衣装も作っていたのでこのくらいは手慣れたものだ。
五人分の騎士の鎧を作るのは少々骨が折れたが、私は元々コスプレ衣装を作るのが趣味の人間で中途半端な仕事は嫌いだ。
ゾーンに入った私は眠る事も忘れて鎧の制作に没頭し、気がつけば見た目の美しさ以外に全く意味がない赤や白のオーブ等の煌びやかな装飾品が散りばめられた無駄に凝ったデザインの鎧が出来上がっていた。
アルフリードさんはその造形の美しさに暫し呼吸をする事も忘れて見入っている。
「さあこれを騎士様の所に運びましょう。お父さん、そろそろ起きて!」
「うーん、むにゃむにゃ……もう朝か?」
私はベッドの上で寝惚けているお父さんを起こし出来上がった鎧を馬車の荷台に乗せてアルフリードさんに荷馬車を出して貰う。
峠の前までやってくると昨日と同様に騎士の皆さんが街道を封鎖して山賊の襲撃に備えていた。
あれからずっと周囲を警戒をしていたのだろう。
彼らには明らかに疲れの色が見えている。
僅か一日で戻ってきた私達に困惑しながらドノヴァンさんが駆け寄ってきた。
「まだこの道は通れませんよ」
「それはもちろん承知しています。今日は騎士の皆さんにプレゼントを持ってきたんです」
「我々にプレゼントですか? おおこれはまた不思議な形のものですね」
初めて目にする鎧という存在に騎士達は興味津々といった様子で目を輝かせる。
「これは鎧という衣服でこの木片や金属の板が敵の攻撃を防いでくれるんですよ」
「これを貴女が作ったのですか? 素晴らしいまるで美術品の様に美しい」
「少しでも王国の平和を守る為に戦われている騎士様の手助けになればと思いまして」
「ありがとうございます。では早速身につけさせていただきましょう」
「はい、まずはここに腕を通して……」
ゲームの世界では所謂裸鎧と揶揄される素肌の上に直接着るタイプの鎧があるが、私が作ったのは衣服の上に身に着ける事ができるタイプの鎧だ。
五人の騎士達は私の説明のままにジャージの上に鎧を装着する。
「これは凄い、今ならどんな相手でも勝てそうな気がします」
全身に鎧を纏った騎士達が並ぶ様はまるでイケメン騎士達が活躍するシミュレーションRPG【炎の聖痕】の初期イベント、山賊討伐の出陣前のシーンが再現されているようだ。
騎士団の全員が鎧の装着を終えたところでドノヴァンさんが荷台の上に積まれたもう一つの鎧に気が付いた。
「おや? 一つ余っているようですね。我々のとは少し形が違うようですがこれも鎧というものですか?」
「ええ、これは素材が余ったので……」
これは【炎の聖痕】の序盤のシナリオで仲間に加わるオルフィアという女剣士の衣装だ。
騎士達の鎧を作っている内にテンションが上がった私は思わず自分用の衣装まで作ってしまっていたのである。
太ももの部分に大きくスリッドが入ったチャイナドレスのようなワンピースに胸当てを付けただけという軽装なので簡単に作る事ができた。
「これまた素晴らしい造形ですね。折角ですからリーリエ嬢も着られてみては?」
「そうですね。ではお言葉に甘えさせて頂きます」
王都を着の身着のままで脱出した私達もジャージ姿だ。
早速騎士達が設営したテントの中でオルフィアの衣装に着替えて外に出てくると騎士団の方々は一様に感嘆の声を上げた。
「おお、これは美しい」
「まるで噂に聞く戦いの女神パラスの再来のようだ」
評判は上々。
今ならギャラリーでもカメコでも何でもバッチコイだ。
久々の本格的なコスプレに私のテンションも上がってきた。
身体の奥底からかつてない程の何かが漲ってくる。
「どうしたリーリエ?」
今までにない感覚に酔いしれている私にお父さんが不思議そうに声を掛ける。
何だろうこの滾るような感覚は。
コスプレイヤーがそのキャラになりきるのは珍しい話ではないが今回は何かが違う。
まるで原作のオルフィアが私に乗り移ったかの様に今すぐ剣を振り回したくてウズウズするような不思議な感覚だ。
そんな私の様子を見たドノヴァンさんが声をかけてきた。
「もしかしてリーリエ嬢は剣を握ってみたいのですか?」
「え? どうして分かったんです?」
まるで私の心の中を見透かされたような言葉に思わず思考が停止する。
ドノヴァンさんは笑って答えた。
「そんなに目を輝かせながら私の剣を眺めていれば嫌でも分かりますよ」
「え? あっ……」
自覚はなかったがそんなに食いつくようにドノヴァンさんの剣を凝視していたのだろうか。
私は恥ずかしさのあまり頭の中が真っ白になるがドノヴァンさんは微笑みながら続けた。
「折角ですから私の剣を握ってみますか?」
「え? 宜しいんですか?」
剣といえば騎士にとっては命ともいえる大切な物だ。
それに言うまでもない事だが剣は立派な凶器である。
ただの町娘に過ぎない私に人を傷つける恐れがある自分の剣を簡単に預けようと言い出すなんて、本気で言っているのならドノヴァンさんは少々危機意識というものが足りないんじゃないだろうか。
でも当然だけど私はならず者ではないので意味もなく人を傷つけようだなんて考えたこともない。
そう考えるとある意味では人を見る目はあるということか。
私はドノヴァンさんの目を真っ直ぐに見据えた。
宝石のように碧く透き通った瞳だ。
冗談を言っているような目には見えないし何も考えていないような間の抜けた表情でもない。
きっと何か思うところがあるのだろう。
「有難うございます。ドノヴァンさんの剣を一時お借りします」
「どうぞ」
私はドノヴァンさんから剣を受け取ると近くにある適当な立木の前にゆっくりと歩み出た。




