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第36話 エピローグ


 セリオス殿下と聖女フレミアの裁判から一年、王都の風景はガラっと様変わりしていた。

 大通りを歩けば中世ヨーロッパ風の洒落た服を着た人々とすれ違う。

 これこそ私が前世で夢見ていた異世界ファンタジーの風景だ。


 いや違うな。


 パン屋の前を歩いているあの人は人気アクションのエルダの伝説のヒロインであるプリンセスエルダの格好をしている。

 そしてその隣のカフェの中では人気RPGフィナンシャルファンタジーⅦのラスボスである堕天使セラフィムスの姿をした青年が紅茶を飲んで寛いでいるのが見える。

 他にも至る所で見覚えのあるゲームや漫画やアニメのキャラクター達の姿をした人々を見かける。

 いずれも私が特注で仕立てた衣装である。

 まるで王都全体が巨大なコスプレ会場にでもなったかのようだ。


 フレミアの後任として聖女の座に就いたシスターマリアは王都の教会の内部を大規模な裁縫工場に改造。

 日々人々の為に様々な衣服を仕立てている。

 王都だけでなく地方の教会も順次同様の施設にしていく予定だ。

 そして教会任せではなく自分達も衣服を作ってみようと考えアパレル会社を設立する者も現れてお日々互いどちらが魅力的な衣服をデザインするかを競い合っている。

 今ここコスタミア王国は私が望んだ通りのファッションの最先端国家となっていた。


 今日私は国王陛下に呼ばれて王宮内で行われるドノヴァンさんの誕生パーティーの会場へとやってきた。

 今私が身に着けているのは女神の衣装ではなく魔法聖女マジカル☆リーリエのドレスだ。

 王宮の入り口で馬車を停めるとエレガントなテールコート姿で私を出迎えたドノヴァンさんにパーティー会場へとエスコートされる。


「見て、主役の登場よ」

「相変わらずお美しい」

「正にお似合いの二人だ」


 パーティーの参列者は私とドノヴァンさんの姿を見て惜しみない賛辞を並べる。

 しかしそんな彼らも今は紳士服やドレスを華麗に着こなしている。

 まるで体育祭の打ち上げの様に皆ジャージ姿だったセリオス殿下のパーティーの時とは雲泥の差だ。

 これこそ私が前世で夢見ていた異世界貴族達のパーティーの光景だ。

 そして会場の奥ではすっかり元気を取り戻した国王陛下が暖かい笑顔で私達を出迎える。


「よく来てくれたねリーリエ嬢」


「陛下におかれましてはごきげんうるわしゅう……」


「堅苦しい挨拶はよい。今日はパーティーを楽しんでくれ。見てくれたまえ、君が仕立てたコックコートのおかげで王宮の料理のレベルが格段に上がったよ」


 国王陛下は上機嫌でテーブルに乗せられた豪華な料理を勧めてくる。

 テーブルでは先にパーティー会場に来ていたお父さんやトリスタン夫妻は普段食す事ができない王宮の珍しい料理の数々に舌鼓を打っていた。

 彼らは今日という日の為に私が仕立てたパーティー用の紳士服やドレスを着ているが中身は何の変哲もないどこにでもいる平民だ。

 貴族達に囲まれて狼狽えてないだろうかと心配して眺めていると代わる代わる貴族の紳士淑女がお父さんたちの周りにやってきては何やら会話をしているのが見えた。

 耳を澄ませて話の内容を聞いてみるとどうやら私の仕立てた衣服についての話題で盛り上がっているようだ。

 私はほっと胸を撫で下ろす。


「聞いてくれ、皆に知らせたい事がある」


 宴も酣になった頃、会場の中央に歩み出たドノヴァンさんは皆を注目させて言った。

 私もドノヴァンさんに続いて会場の中央に足を進める。

 ついに来た。

 今日のパーティーにはドノヴァンさんの誕生祝とは別にもう一つの目的があった。

 新たに王太子となったドノヴァンさんと私との婚約発表である。

 政治とは演出だと豪語する陛下の案で多くの貴族達が集まるこの日に発表する事が決められていたのだ。

 皆が談笑を止めて私達に注目する。

 ドノヴァンさんは周囲を見回した後でゆっくりと口を開いた。


「この度私ドノヴァンはこちらのリーリエ嬢と婚約を妻に迎える事となりました」


「おお、やはりそうでしたか!」

「おめでとう御座いますドノヴァン殿下!」


 参列者達から盛大な拍手が贈られる。

 しかしそのあとに続く言葉に私の目は点になった。


「そして今後ここコスタミア王国は現国王である父に代わり女神クロウスの化身である我妻リーリエが治める事となります」


「え?」


 そんな話今の今まで聞いてない。

 サプライズにも程がある。

 困惑して周囲を見ると参列者達は誰一人疑問を持つことなく納得した表情でうんうんと頷いている。


「確かに女神クロウスの化身であるリーリエ嬢ならば統治者として申し分ない」

「これでコスタミア王国の未来も安泰ですな」

「いや今後はコスタミア王国ではなくなりますな。コスタミア神国とでも申しましょうか……」


 人間の王よりも女神の方が格が上という考えは理解できるがそもそも私は本当に皆の言うとおり女神の化身なのだろうか。

 それに私にできる事といえば衣服を作る事ぐらいだ。

 国を統治するだなんてとてもできるはずがないし責任も持てない。

 全部他人任せになるけど本当にそれでもいいのだろうか。

 頭を抱えて唸っている私にドノヴァンさんは言った。


「大丈夫、国内の事は私が全て責任をもって請け負うから貴女は今まで通り自由にやりたい事をやっていてくれて構わない」


「……本当にそれでいいの?」


「勿論」


 ドノヴァンさんはそう言って優しく微笑みかける。

 私は微笑みながら答えた。


「言質は取りましたよ?」





◇◇◇◇





「あなた、次はこれを着てみて下さい」


「これはまた派手な鎧だね」


 私が差し出した衣服を受け取ったドノヴァンは更衣室へ行きそれを身に着けて戻ってきた。

 銀色の鎧に大きな盾。

 この鎧を身に着けていればどんな魔獣が相手だとしても問題ではないと思えてくる。

 ドノヴァンははにかんだ笑みを浮かべながら言った。


「どうかな、似合っているかな?」


「うん、ものすごく似合っているわ」


 ドノヴァンに渡したのは前世で人気だったトレーディングカードゲームに登場する精霊騎士王アルトリックスの衣装だ。


 私の思った通り元々の素材が違うドノヴァンさんはどんな衣装を身に着けても絵になる。

 日中ドノヴァンが政務を行っている間に私は新たな衣装を仕立て、夜に政務を終えて戻ってきた彼に試着してもらうのが日課となっていた。

 勿論私もコスプレイヤーの端くれ、彼だけではなく自分の衣装も仕立てている。

 同じくトレーディングカードゲームに登場する聖剣を携えた王妃の深紅のドレスを身に着けた私の姿を見てドノヴァンは顔を赤らめた。


 近々ここコスタミア神都では私が発案したファッションショーという名の大規模なコスプレイベントが開かれる予定だ。


 近隣諸国からも噂を聞きつけた人々が私の国で作られた多くの素晴らしい衣装をひと目見ようと集まってきているという。

 政治とは演出だ。

 何としてもこの催しを成功させ近隣諸国にもファッション文化を広めなくては。


 私はこれから訪れるであろうこの世界の素晴らしい未来に胸を高鳴らせた。






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